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幕間 sideフィオナ~おぞましき存在~

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 今回のお話にはややホラー系の表現が出てきます。苦手な方はご注意ください。

 ザワザワ。ゾワゾワ。

 何なのでしょうか。この纏わりつくような感じは……。

 最初にそれを感じ取ってからいくらか経ちましたが、時間が経つに連れ、それははっきりと感じられるようになっていきました。最初は冷たい氷でも押し付けられたかのような感じがしましたが、段々とそれはまるで冷たい泥の中にでもいるかのような、身体に纏わりついてくる感じに変わっていったのです。

 気味が悪いわ。

 休憩しているとき、こっそりと鎮静の魔法を自身にかけます。……少し落ち着いたけど、嫌な感じはまだ残っています。……むしろ、そのどろどろとしたモノがどんどんとこっちに近づいてきているような気さえするのです。……レオン様に話したほうがいいかもしれません。


 パシュウウッ!


 休憩を終えて出発してから間もなく、聞こえてきたのは救援要請の魔道具が空に打ちあがる音でした。間を置かずにいくつもの破裂音が聞こえてきて、一斉にいくつもの班が救援要請を出したのだと気が付きます。何が起きているの?

 ゾワワワッ!

「!?」

 その時、身体を今までで最大級の悪寒が走り抜けました。同時に、()()に見つかったような感覚も。そしてソレが、こちらに近づいてくるような感覚も。

 身体に纏わりついてくるどろりとした魔力のような感じもいっそう強くなって、気持ち悪いくらいです。

 私はもういてもたってもいられず、レオン様にその話をしました。話している最中にも、ぞわぞわとした感覚はますます強くなっていって、この場からすぐにでも離れてしまいたいくらいでした。

 それを言おうかと思ったとき、レオン様がある方向を見ました。

「! 警戒! 2時の方向!」

「数は……8! やたらと多いな」

 もたらされたのは8という今までにないほどに多い数の魔物の接近。同時に嫌な感覚も強まります。なにこれ……。小さなモノと、大きなモノがいるの?

 思わず後ろに下がって、後衛のアリアさんたちがいるあたりまで行きます。間もなく現れたのは、一頭のボア。でも、明らかに様子がおかしくて、普通ではありませんでした。

 あれはいったい……。

 何よりも目についたのは、そのボアに纏わりつくように広がっている、黒い霧。いえ、もっと粘着質な泥のようにも見える物。ソレはまるでボアを縛り上げて身体の動きを操っているようにも見えました。

「……!」

 こちらを見るなり突進してきたボアですが、レオン様が放った攻撃で倒れました。しかし、次に別の動物が姿を現します。どの個体にもあの黒い泥のようなものが纏わりついていました。

「フィオナ。レイン! 援護を頼む!」

 レオン様から緊迫した声で指示が飛びます。アリアさんたちも詠唱を初め、私も補助魔法の効果が切れていないか、更にかけられるものはないかを模索します。

 レオン様の剣の強度を上げる。ラッセル様の小手や防具に硬化の魔法をかける。

 周囲に誰かいないか探った時にわかったのは、すぐ近くに魔物がいることでした。

「危ない!」

 思わず振り返り、魔物の一番近くにいるアリアさんに声をかけるのと、それーーーレッサーポイズンスネークがアリアさんにとびかかるのは同時でした。

「え? 痛っ!?」

 レッサーポイズンスネークは、アリアさんの足に噛みつき、それに動揺したアリアさんが体勢を崩しました。

「あ! こいつ!」

 隣にいたマルク様が、短剣を手にしてレッサーポイズンスネークを振り払い、魔法で倒します。

「アリア。早く解毒薬を」

「うん」

 アリアさんはポーチから解毒薬を取り出すと、それを飲み干しました。

「!?」

 ほっとしたのもつかの間、今までで一番強くソレを感じ、思わず振り向きます。

「何、あれ……?」

 ソレを見たアリアさんが思わずつぶやいた言葉に、心の中で同意しました。何なの。あのおぞましい生き物は⁉

 ソレは、大きなウルフの魔物に見えました。ですが、その身体からはあの黒くどろどろとしたモノが身体中から溢れて意思を持つかのように揺らめいていました。

 それから起きたことは、それ以上におぞましいことでした。

 他の生物の力……生命力とでもいうのでしょうか? それを吸い取り、自らを強化したソレ。黒いどろどろとしたもの……。魔力のようで魔力とは違うように感じるソレは、ますますおぞましさを増し、見ているだけで気持ちが悪くなりそうでした。

 怖い。恐ろしい。この場から逃げ出してしまいたい。アレに近づいてはいけない。

 頭の中をそんな考えがぐるぐるとめぐります。

 その時、

「―――」



「———ひっ!?」



 一瞬、ほんの一瞬だけ、ソレと目が遭いました。黒いモノを纏った中で光る、赤い目。それに見られた瞬間、体内の魔力が不安定になるような感覚がしました。同時に、アレに近づいてはいけない、という警鐘がより大きく鳴り響いたのです。

 アレは……まさか、闇魔法、なの?

 たどり着いてしまった考えに、信じられない、いえ、信じたくないという思いが勝りました。あんな、まるでヘドロのような魔力をまき散らすものが、私が持つものと同じだというの?

 ですが、ソレは考える時間などくれませんでした。

「ガウウッ‼」

「危ない! ”ウォーターウォール”!」

 ソレは植物のツタのようにしたものを、レオン様たちに向けて放ちました。マルク様がそれを防ぎ、アリアさんが魔法で攻撃しましたが、あまり効いていないみたいです。

 それからはもう、今までにない絶望的な戦いになりました。様々な手段で攻撃してくるソレに、防戦一方のレオン様たち。傷も増えていき、アリアさんが作った薬も使いましたが、すぐになくなってしまいました。




――ニクイ――



 まただわ。

 ソレからの攻撃を躱したりするときにわずかに聞こえてくる、声のような物。それがなんども、なんども、私の耳に入ってきました。……他の皆さんが反応しないということは、私にしか聞こえていないの?



――ニクイ――



――ユルサナイ――



――ウラメシイ――



 思わず耳をふさぎたくなるほど、黒くて、酷い言葉たち。まるで、あのヘドロのような魔力そのものだわ。



――オマエモコチラに、コイ――



「!?」

「皆! 足元に気をつけろ!」

 不意にレオン様の声が聞こえた瞬間、すぐ近くの地面が盛り上がり、黒いツタが飛び出してきました。

「っ‼」

 思わず、闇魔法でソレを防いだ、その瞬間。



――ニクイ――



――ヤメテ――



――イタイ――



――コワい――



――モウ、解放サレタイ――



「!」

 ツタは私の魔法に触れた瞬間に霧散し、その時に聞こえた声は、先ほどまでと違って、どれも別の人の……子供の声に聞こえました。

 どうして?

 それに気を取られた私は、ツタが一斉に私の方に向かってくるのに気付くのが遅れてしまいました。

 気が付いた時には、もうそれらはすぐ近くまで来ていて、ダメもとで防ごうとした瞬間、魔力が溢れて、水のベールが私を覆いました。

 これって……エレンが髪飾りにかけてくれた魔法?

 それは目の前に迫っていたツタを阻み、私に寄せ付けません。そして、すぐにレオン様が駆けつけて、それらを切り飛ばしました。

 レオン様は私の無事を確認するとすぐに向き直ってあのウルフへと向かっていきます。



――コロシテ――



「!」

 聞こえた声に、思わず身体が硬直します。声の主は、辺りに散らばった、ツタの先。ぼろぼろと崩れていくそれらの声……感情ともいえるものが流れ込んできました。


――イタイ。コワイ。ヤメテ。ナンデコンナコトスルノ。ワタシ、ウラレタノ? カエリタイ。ヒドイコトシナイデ。ツライ。ヤメテ。イヤダ。ヤメテ。クルシイ。カエリタイ――



――ダレカ、タスケテ――



「―――っ‼」

 流れ込んできたあまりにもひどく、悲しいそれらに、胸が苦しくなり、思わずしゃがみこみます。コレは……まさか。そんなことって、あり得るの?

 その考えはあまりにもおぞましいもので、考えただけで気分が悪く、胃の中のものが逆流してきそう。でも、そうじゃなければ……。

 がくがくと震える身体を叱咤し、ソレの本体であろうウルフを見ます。それはヘドロのような魔力を更に強めて、暴れていました。レオン様が立ち向かっていますが、ソレは倒れる様子がありません。


――タスケテ――


――モウヤメテ――


――コロシテ――



 憎悪の声と共に聞こえてくるのは、”解放”を求める声。あれはきっと、数多の怨念の塊なのだわ。同時に、それがどのようにして生まれたかもなんとなく想像がついてしまって、ますます気持ちが悪くなります。できるなら意識を手放してしまいたいほどに。 

 だけど、彼ら(・・)は、解放されたがっている。

 あの声が私にだけ聞こえるのは、私に、アレを何とかする力があるからなのかもしれない。だとすれば考えられるのは、闇魔法だけ。

 涙で滲んだ視界に映るのは、傷ついたアリアさんたち。私たちを守ろうと傷を負いながらも戦うレオン様。そして、あのウルフと、怨嗟と悲しい悲鳴を上げるソレ。

「……助けたい」

 レオン様を。皆を。何より、囚われている彼らを!

 思いに呼応するように、胸のあたりが熱を持つのがわかりました。

「レオン様‼」

 ありったけの魔力を使って、レオン様に補助魔法をかけます。あの魔力を打ち消せるであろう、”闇魔法”の補助を、レオン様に。先ほども闇魔法の防御で打ち消せました。おそらく大丈夫なはず!

 胸のあたりが熱い。こんなに魔力を使うのは初めてで、体が驚いているのかもしれません。でも、少し心地よい。

 その熱さは手を伝って、レオン様に贈られて行きます。これなら―――。

 レオン様は、すぐさまラッセル様たちに指示を出して、再びウルフに攻撃を仕掛けました。

 私にはもう見ていることしかできません。レオン様。ごめんなさい。お願いします。


 そして放たれた、レオン様の一撃。それはウルフの身体に直撃し、あの魔力ともども消し飛ばしたのです。

 風に散らされて消えていく魔力。身体中を駆け巡っていた悪寒も消えていきます。これで……解放できたのならいいのですが。


――アリガトウ――

 

 そんな声が、風に紛れて聞こえた気がしました。

 次のお話で幕間は終わりになる予定です。その後はまた本編に戻り、ついに断罪イベント(?)に突入します。

 次回更新は6月23日(金)を予定しています。それでは、また!

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