2-4 6日目① ダメ男は新米ハンターになる
「着いたぞ。ここがハンター協会……通称“ギルド”だ。」
兄に連れられてきたのは、3階建ての大きめの建物だった。朝早いのもあってか、人の出入りは激しい。
「よし、入るぞ」
そう言うと、兄は建物の入り口に向かう。俺は慌ててその後を追いかけた。
なぜこんなことになっているのかというと、今朝、父上に呼ばれた俺が父上の執務室に行くと、兄もおり、その場で父上にハンターの登録をしてくるように言われたからだ。
「本来であるならば、次の長期休みに行うのだが、今回のこともあるので、少し前倒しにする。これからカリオンと共に協会に行って、お前もハンター登録をしてきなさい。そしてついでに何か依頼をひとつこなしてくるように」
という言葉をもらい、今に至る。
ちなみに、アルバート家の男子は、学生のうちにハンターとして魔物の討伐などの経験を積むのが普通なのだという。レオンも、本当は次の長期休み(夏休み)からその予定だったようだけど、学園でのさぼりやらが発覚したことで、それが今になったということらしい。……まあ、俺としては、ハンターに興味があったから、渡りに船ではあったけど。
中に入ると、右手側は居酒屋のようになっており、何人かが食事をとっていた。酒らしきものを飲んでいる人もいる。左手側は奥の方にカウンターがあり、受付らしき人がいた。壁には掲示板らしきものがあり、紙が貼ってある。兄は、迷わずカウンターの方に歩いていくので、俺もあたりを見ながらついていった。
受付までやってくると、兄は中にいたお姉さんに話しかける。
「おはようさん。今大丈夫か?」
「アルバート様。お久しぶりです。本日はどうなさいましたか?」
「ハンターの登録を頼みたいんだが」
「かしこまりました」
受付のお姉さんはにこやかに対応して、それからクレジットカードくらいの大きさのカードを取り出した。
「まず、ハンター名はどうなさいますか?」
「ハンター名?」
「ハンターとして活動する時の名前だよ」
兄が説明してくれる。
「ふつうは自分の名前にするが、貴族だったり、素性を隠したい奴は別の名前を使うこともある。あ、お前もなんか考えな」
なんでも、本名そのままだと、他のハンターが気を使ったり、忖度したりするからだとか。あくまで貴族ではなく、ひとりのハンターとして、様々な経験を積むためなのだそうだ。兄は“アルバート”を名乗ってるようだけど、苗字そのまんまだな。
さて、俺も決めないと……。
「……ハンター名は、“シンゴ”でお願いします」
「はい」
受付のお姉さんがカードを持って一度奥に行った。……なんとなく、名前を前世のものにしてしまった。多分、どんな形であれ、“藤谷慎吾”がいたことを残したい、いや、そう信じたいんだろうな。まだ胸の中に残っている前世の記憶が、嘘じゃないと、本当にあったんだということを。
やがて、受付のお姉さんが戻ってきて、俺にカードを差し出す。
「では、これに触れてください」
言われたとおりに触れると、すうっと少しだけ魔力のぬける感じがして、一瞬だけカードが光る。
「では、血を一滴垂らしてください」
そう言われて、針を渡される。言われたとおりに親指をちょんとさして、出た血をカードにつけた。するとまたカードが光り、表面に文字が浮かび上がってきた。
ハンター名 シンゴ
ランク ストーン
色は灰色で、かなりシンプルだ。ちなみに、これが身分証にもなる。ランクは最低ランクのストーン。
ランクは依頼をたくさんこなすと上がっていくシステムで、上から、ミスリル、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアン、ストーンとなっている。依頼にも適正ランクがあり、ハンターはひとつ上のランクの依頼まで受けられるようだ。ただし、犯罪者の捕縛といったごく一部には例外があり、それはランク関係なく参加したり、報奨がもらえたりすると、受付のお姉さんに教えてもらった。
「最後に、先ほど渡したハンター証明書ですが、なくすと再発行にはお金がかかりますので注意してください。また、カードに触れて“ステータス”と念じると、使える魔法やスキルなどを見ることができます。大切な個人情報になりますので、取り扱いにはくれぐれもご注意くださいませ」
「わかりました。気をつけます」
一通りの説明を受けたので、お礼を言ってその場から離れる。途中でふと思いついて、もらったばかりの証明書を持ち、心の中で「ステータス」と唱えた。
すると、半透明のパネルみたいなものが目の前に浮かび上がる。ちなみにこれは本人以外には見えないとのこと。
ハンター名 シンゴ (レオン=ファ=アルバート)
ランク ストーン
状態 健康
称号 「転生者」
魔法 「風魔法」 「氷魔法」
スキル
体力 D
魔力 E
備考 「歌好き」
……自分以外に見えなくてよかった。とりあえず称号に「転生者」とついてる。これはあまり人に知られちゃいけないやつだ。あと備考欄の「歌好き」って……。確かにカラオケが好きだったし、子供たちに子守唄詠ったりとか、某カラオケ番組に出たりとかしてたけど……。なんか意味あんのかな。……後で考えよう。
パネルを閉じて兄上の所に行くと、兄は2枚の紙を持っていた。
「終わったか。じゃあこれから、一仕事するぞ」
”ハンター”と聞くと、真っ先に思い浮かぶのはリアル鬼ごっこなテレビ番組なんですが、どうでしょうか?




