幕間 sideフィオナ~新たな一面~
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デート回2話目です。それでは、どうぞ!
ポプリをもらった後も、お店を見て回りました。その中に、武器や防具が売られていたことから、レオン様がハンターとして活動している話になりました。今までにも聞いたことがありましたが、ハンターの方々が実際に使っているものが売られているのを見ると、実感がわいてくると同時に、好奇心も湧いてきました。……ハンターとしてのレオン様についても、知りたくなってしまったのです。
思いが通じ合ってから、私はレオン様のことをもっと知りたいという気持ちが強くなりました。だからでしょうか。レオン様の話に出てきた“ギルド”を見てみたいと言ってしまったのは。
初めは渋っていたレオン様でしたが、「絶対にそばを離れないこと」を条件に見に行くことができるようになりました。
まず訪れたのは“薬師ギルド”でした。店内は綺麗に掃除されていて、棚には瓶や乾燥した植物などが置かれていました。奥の方では、男性が何かの種を職員の方に渡していたり、職員の方が女性に薬の入った瓶を渡している光景がありました。
棚を見ると、講義で教わった薬草で創られている薬や、ポーションが置いてありました。実物を見る機会はあまりないので、それもまた興味深かったです。
薬師ギルドの建物を出た後は、“ハンターギルド”へと向かいます。ギルドに向かう道は、先ほどまでいた大通りとはまた違った雰囲気をしていました。大通りの方がにぎやかだとするならば、こちらは騒がしいと言った感じでしょうか。魔物を相手に戦ったりするからでしょうか? でも、小さな子供の姿も見かけるので、無法地帯、というわけでもなさそうです。
それでも、隣のレオン様の放つ空気が鋭くなっているように感じられたので、言われたとおりに傍から離れないようにしようと思いました。
子供、と言うと、ハンターギルドにはレオン様がお節介をやいたという子供たちがいるのだと言っていました。キースよりも幼い兄妹が、母のために頑張っているのだと。
私が同じくらいの時に、薬を探しに森へと入ることができたでしょうか?
病気になったとしても、薬師か医師を呼べばいい。それが貴族の当たり前です。でも、それができない人のほうが圧倒的に多い。
……だからこそ私は知りたいと思います。人々の暮らしを。実態を。
そして思うのです。ハンターとしての活動の中で、人々の暮らしぶりの実態を学び、それを活かす。それを繰り返してきたから、アルバート伯爵家は民から慕われているのだ、と。
レオン様もまた、ハンターとしての活動の中で、得るものがあったと言っていました。そう言って微笑むレオン様の隣に立っていられることが嬉しく、誇らしい気持ちになりました。
やがて先の方にやや大きめの建物が見えてきました。あれが“ハンターギルド”でしょうか? 建物の前には人だかりができています。
その時、レオン様が立ち止まりました。様子を窺うと、レオン様は何かに迷うような様子でいました。目線の先は人だかりの中へと向けられています。人だかりの中にうずくまる子供たちの姿がちらりと見えたときに思いました。もしかしてあの子たちがレオン様の言っていた子供たちなのかもしれない、と。
「あ! シンゴーじゃないか!」
それを聞くべきかと思った時、知らない声がして、ハンターと思われる男性が近づいてきました。思わずレオン様の影に隠れます。
そのまま男性の話を聞いたことで、やはりあの子たちがレオン様の言う子供たちであり、彼らが酷く心を乱しているのだと分かりました。……それにフォルティアさんが関わっていることも。
フォルティアさんの名前を聞いたレオン様は、神妙な顔つきになりました。……因縁のある方だから、気になっているのかも。私としても、幼い子供に対して何をなさっているのか、と腹立たしい気持ちです。……その子たちは大丈夫なのかしら。
「フィオナ。申し訳ないけど、少しだけ付き合ってくれないか? 埋め合わせはする」
そう口にするレオン様は申し訳なさそうな顔をしていました。でも、誰かのために行動できるところもレオン様の魅力だと思うので、少しだけ、誇らしく感じました。
「大丈夫です。私も心配になってきたので……」
レオン様が気にしないように、私も気になるというニュアンスを込めた言葉を使います。いえ、本当は私も子供たちのことが気になっていたので、あながち嘘でもありませんでした。
レオン様は小さく「ありがとう」と言って、人ごみへと歩き出しました。私もついていきます。近づいていくにつれ、その場にいた人たちの視線がこちらに向けられるのがわかりました。鎧や剣、弓などを持った、普段接する人たちとは明らかに違う存在。たくさんの苦難を乗り越えてきたのであろうその視線にさらされて、少しだけ怖気づきそうになりました。
レオン様はまっすぐに子供たちの所に行って話を聞いています。女の子の方がレオン様に飛びつくのを見て、慕われていることが分かりました。私も行こうかと思いましたが、もう入れる雰囲気じゃなくて。……手持ちぶさたになってしまいました。……そういえば、レオン様のハンターとしてのお名前は「シンゴ」なのね。
「ここらじゃ見ないお嬢さんだね」
「!」
そんな中、私に声をかけて来た人がいました。そちらには、皮の鎧をつけた女の人が立っていました。背はスラリと高くて、青みがかった髪をひとつにまとめて背中に垂らしています。
「アタイはレイアっていうんだ。これでもシルバーランクのハンターさ。……あんたはもしかして、シンゴの女かい?」
そう言ってその方―――レイアさんは小指を立ててクイクイと動かしました。
「!」
小指の意味は分かりませんでしたが、「女」と言うのが“恋人”を意味することを悟ることはできました。
「ははっ。顔赤くしちゃってかわいらしいねえ。……ところで」
「……黒い髪」
「!」
黒い髪、と言われて思わず後ろの方に手をやります。いくらかは帽子の中に入っているとはいえ、見ればすぐにわかります。……王都近辺はまだ黒い髪や瞳への偏見は少ないので大丈夫だと思っていました。でも、絶対では、ない。
「……もしかして、お嬢ちゃんは“歌姫”様かい?」
「え? ………は、はい」
“歌姫”と言う単語に、学園祭のことを思いだした私は、恐る恐る頷きます。すると、レイアさんはぱっと顔をほころばせて、私の手を取りました。
「やっぱりかい! リリナが美しい黒い髪をした子だって言ってたからもしかしてと思っていたけど……。あんただったんだね」
「?」
訳も分からず、されるがままになります。そのまま聞いたところ、どうやら彼女の知り合いが不幸にあって落ち込んでいた際、学園祭で私の歌を聞いて元気を取り戻したのだとか。
「でも、あんたが恋人ってことは、やっぱりシンゴはアルバートの次男だったわけだ」
「……え?」
ぽつりとつぶやかれた言葉に、思わず反応します。すると、周りにいた人たちも「やっぱりか」というような反応をしました。
「まあ、最初の日兄貴と一緒に来ていたしなあ」
「大体の奴らはそうじゃないかって思ってたもんな」
「……ついにリーンちゃんも知る時が来ちまったってわけか」
どこか神妙そうな様子が気になって訪ねようとしましたが、ちょうど子供たちが泣き止み、レイアさんは説明のためにレオン様の方に行ってしまいました。
すると今度は男性ハンターの方々が話しかけてきました。内容はもっぱらレオン様のことで、一緒に森に討伐に行ったが、丁寧に仕事をしていた、だとか、自分たちのような人間にも礼儀正しくて好感が持てる、といった物が多かったです。そこで私の知らないレオン様の姿を知ることができました。
話はそのうち段々と貴族がハンターをすることについての物になっていきました。貴族がハンターになること自体はそこまで珍しいことではなく、レオン様のように実戦経験を積むためであったり、かつてのアニエス様のように足りない分の収入を得るためであったり……。
しかし、貴族がハンターとなる際には規則があり、それはハンターとして活動している際は、貴族としての権力や威光を振りかざしてはいけないのだそうです。ハンター、ひいてはハンターギルドというのは自由な存在。全ての人のためにある、という理念のもとに成り立ち、王侯貴族ですら自由にはできない。だからこそ、権力を振りかざしての乱用はしてはならないのだと。
しかし、有事の際には一丸となって動き、町や国の防衛にも力を貸すのだとか。
皆さんの話が分かりやすかったのか、すんなりと頭に入ってきます。同時に、普段は訊くことがないような話に夢中になっていたのもあるかもしれません。
とてもわかりやすかったとお礼を言うと、誰もが面食らったような顔をした後に、照れたような表情を浮かべました。きっと新人の子供たちにもよく教えているからだろう、と。
その中には今レオン様があやしている子たちもいて、彼らはハンターの皆さんがことさら可愛がっていたようです。
だからこそ、彼らはふたりを傷つけたフォルティアさんたちに怒りをおぼえているようで、それだけで彼らがこの方たちに可愛がられていることがよくわかりました。
レオン様の方を見てみると、ちょうど女の子がレオン様に抱き着くところでした。レオン様は危なげなくそれを受けとめていました。どこか慣れた感じなのは、元々子供がいたからでしょうか?
ちょうどその時、女の子たちのお母様がもうすぐこちらに到着するという知らせが届きました。それをすぐにレオン様に知らせます。その際に“恋人”だと紹介されて、胸がむず痒いような感覚になりました。……そうやって紹介されるのは初めてだからかしら?
「こいびと?」
紹介された女の子―――リーンちゃんは、私を見て驚いたような顔をしながら、その言葉を口にしました。
そして、呆然としながらも、どこか傷ついたような、そんな表情を浮かべたのです。
ふたりのお母様が駆けつけてきて、お家へと招待される道すがら、リーンちゃんはお母様と手をつなぎながらも、ちらちらと私たちの方を見ていました。
レオン様が時折私に話しかけたり、微笑みかけたりするのを見るたびに先ほどと同じ様な表情をするので、私は、もう大体を察することができました。
……どうしたらいいのでしょうか。フォルティアさんの時は、負けたくないという気持ちがあって、毅然と対応できました。でも、リーンちゃんにそれをするのは違うということはわかるのですが……。
答えが出ないまま時間が過ぎていき、結局私が何か行動を起こすこともなく、レオン様がリーンちゃんと話をしたことで解決となったのでした。
「なんだかとんでもないお出かけになっちゃったな」
リーンちゃんたちに見送られてからの帰り道、そう言うレオン様に相槌を打ちます。
(確かに、いろいろなことがありました)
ギルドを見たり、レオン様に思いを寄せる女の子に出会ったり、歌を披露したり……。
「でも、あの後フィオナも歌いたいって言いだすとは思わなかったよ」
「……多分、レオン様の歌の力です。あの歌を聴いていたら、私も何かしたいって気持ちになって……」
本当に不思議です。レオン様の歌は、いつも私に勇気をくれます。いえ、レオン様がいてくださるから、私は一歩、また一歩と新しいことに踏み出せるのです。
新しいことと言えば、今日教えてもらった”合いの手”というのも素敵でした。まるで歌っているレオン様と一緒に楽しんでいるように感じられたのです。
そう話すと、レオン様は“次”の約束をしてくださって、“次”の時間が当たり前のようにあることが何よりも嬉しく思いました。
本当はさらに千字ほどマルとリーンの家でのくだりがあったのですが、うまく書けていないと感じて削りました。文章を書くのは難しいですね……。
次からは学園での話になります。更新は4月28日(金)を予定しています。それでは、また!




