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    6-10 令息は卒業試験に臨む①

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 さて、今回のお話からは、卒業パーティの前哨戦になりそうな卒業試験が始まります。数話に渡って投稿する予定です。それでは、どうぞ!

 あれこれと小細工やら根回しやらしているうちに、卒業試験の日となった。試験は2日間に分けて行われ、1日目は高等部に進級する予定の生徒達が。2日目は中等部で卒業予定の生徒たちが試験を受ける。

 だから俺やフィオナは1日目。ラシンやシャーロットは2日目が試験となる。

 試験は5~6人のパーティを組んで行うウォークラリーのような内容だった。

 それぞれの組にミッションがあり、それを達成するまでに掛かった時間やチームワークなどを加味して成績をつけているらしい。なお、パーティは騎士科、魔術科、普通科の中からランダムで選ばれるとのことだが、同じ学年に婚約者がいる場合は大体同じパーティになると聞いた。

 つまり、フィオナとは同じパーティになる可能性が高く、守りやすいってことだな。実際同じ班だったし。

 あれからさらに情報交換を進めて、試験の時に起きる騒ぎの詳細もわかってきていた。

 実行犯は2~3人。そいつらが試験会場に侵入して、騒ぎが起きたらフィオナをさらうために動き出す。起きる騒ぎは、魔物の出現。試験会場にも魔物は出るが、それよりも強いやつを連れてきて騒ぎを起こすらしい。

 その魔物たちは、なんと魔道具を使って行き先を誘導できるらしく、それを持っているのは、アメリアだった。……同じ班には謀ったようにカルロスとマーカス、エレオノーラ嬢がいるし、魔物を引き入れた罪を彼女に擦り付けようという魂胆が透けて見える。そこまでするか? 全く、他の無関係な生徒にまで被害が及ぶとは思わないのか……。

 今回の俺の役目は、奴らが放ってくる魔物を撃退する、もしくは先生方がやってくるまで時間を稼ぐこと。実行犯たちの方はエレオノーラ嬢……というよりかはガルムがどうにかしてくれるようだ。話し合いの場で、その実行犯たちは侯爵家を追い詰める大事な証人になる可能性が高いから、こちらで引き受けると言われた。その時に『お願いね』と言われた彼は、静かに闘志を燃やしていたように思う。ガルムが実力者なのは知っているので、大丈夫だろう。いやしかし、まさかなあ……。

 先日までのことを回想しているうちに、試験会場となる場所に着いた。中々の広さがある広場。目の前には森が広がっており、いくつかの道が森の中へと続いている。広場の一角には、先生方が待機する本部らしき場所も設置されていた。

 試験を受ける生徒たちが集まったところで、試験についての説明が始まった。試験は今から8時間後までに各班に課せられた目標をクリアしてこの場所に戻ってくること。目標……つまりミッションは全部で3つあること。他の班の妨害行為は厳禁など、いくつもの説明を聞いた。


 説明が終わって、いよいよ試験がスタートとなった。いくつもの班が森の中や、森を避ける道に進んでいく。そんな中俺たちの班は、スタート地点で作戦会議をしてから出発することにしていた。

 チームメイトは俺とフィオナ。魔術科の男子ふたりに普通科の男女がひとりずつの6人パーティだ。

「僕らのチームに課せられた目標は、『魔物素材を少なくとも3種類以上持ち帰ること』『3人の先生方から証をもらうこと』『洞窟・塔・遺跡のいずれかの踏破証明を持ち帰ること』の3つだね」

 課せられたミッションについて確認したのは普通科の男子生徒、レインだ。それを聞いた魔術科のふたりも頷く。

「先生から証をもらうのは結構ありがちらしいけど、魔物の素材と踏破証明か。この班には戦闘できるのが少ないから、慎重にいかないとだな」

「おまけに、先生にもただの巡回の先生と証をくれたり課題を出したりする先生がいるみたいだし」

 ミッションのひとつである踏破証明は、試験会場のフィールド内にある塔などの疑似ダンジョンを攻略する必要がある。うちには普通科が班の半分を占めるので、編成に注意しないといけない。レインともう一人の普通科の女子———アリアは、魔法が多少使えると試験前に聞いている。フィオナはもっぱらサポート要員になるだろうし……。

「ひとまず、森に入って警戒しながら進もうぜ。魔物がいれば倒して素材を取ればいいし、先生も探そうぜ」

「なら事前に話し合った通り、オレがレオンと一緒に前衛をやろう。オレは魔術科だが近接系なのでな」

 魔術科のふたり———マルクとラッセルもそう言って口元を緩めた。

「よし、じゃあ行こうか」

 事前の話し合いで、暫定的にリーダーになってしまった俺が音頭を取り、森へと歩き出す。ミッションの制覇にやってくる魔物。……もしかしたら誘拐犯と戦う事態になる可能性もある。気を引き締めて行こう。

 森の中はうっそうとしているものの、手入れがされているのか程よく光が差し込んでいて、なんだか遊歩道でも歩いているかのようだった。

「もういつ、魔物が出てきてもおかしくはないのですね……」

 フィオナが緊張したように口を開く。

「そうだね。そこまで強い魔物は出ないらしいけど……。あと普通の動物もいるみたいだし」

 角ウサギやウルフ、レッサーポイズンスネーク。それとただの鹿やイノシシ……。どちらにせよ舐めてたら怪我をするばかりだな。とはいっても、疑似ダンジョン以外には魔物はそんなに多くなく、動物の方が多いらしい。まあそいつらも先行していった奴らに狩られているかもだけど。

 森の中の小路を、緩めの隊列を作りながら歩く。先頭は俺とラッセル。真ん中にフィオナとレイン。後ろはマルクとアリアだ。感知も使いながら歩くこと数分。感知に反応が、と思ったら巡回の先生だった。

「この先で道がいろんな方向に分かれるから、迷わないようにな」

 先生は軽い助言をした後、歩いて行った。進んでいくと、言われた通り道がいくつかに分かれていた。

「ええと……。こっちの道を進むと洞窟があるみたいだね」

 レインがそう言ってひとつの道を指した。他の道は、それぞれ遠回りで遺跡に続く道や、森を抜けた先にある丘に続く道などがあった。

「どうする?」

「……洞窟に行けば課題のひとつ、いやふたつは達成できるな。先生を探しながら遺跡に行ってもいいけど」

「そもそも、遺跡とか洞窟ってなにか違いがあるのかしら?」

 疑問に思ったのか、アリアがそう口にすると、フィオナが応えた。

「確か……それぞれ深さや出てくる魔物が違うと聞いています。塔は通路が狭く、一度に襲ってくる魔物が少ない分深く、遺跡はやや開けていて、挟み撃ちなどを受ける可能性が高い代わりに広さはそれほどでもなく、洞窟は他のふたつの中間くらい、と」

「……今のパーティで挑むとなると、遺跡は避けた方がよさそうだな。挟み撃ちや一斉攻撃をされたら流石にきついだろうし。ここは、洞窟に行こうかと思うが、どうだろうか?」

 そう提案したところ、反対意見も出なかったため、洞窟の方へ続く道を行くことになった。


 森の中でイノシシに遭遇して一度戦う場面があったりしたが、それ以外は特に何事もなく洞窟の前まで着いた。洞窟は小高い丘の一部が岩壁になっていて、そこに入り口があった。入る前に少し休憩してからにしようかと話をしていたところ、その場に別のパーティがやってくるのが見えた。そのパーティは男子だけで構成されていたのだが、そのリーダー格と思われる男子が、俺を見たとたんあからさまに不機嫌そうな顔をした。しかも、それは彼だけでなく、班員の全員が明らかに俺に敵意を向けていた。……なんだこいつら?

「ふん。我らの女神、アメリア様を裏切って無能にいいようにされてる奴がいやがるぜ」

「婚約者の方も、奴を奪い取っただけに飽き足らず、公爵令嬢と一緒になってアメリアに嫌がらせまでしてるっていうしな」

「よくもまあのこのこと学園に顔を出せるもんだよな」

 そしてまあ、聞こえるように悪口を言うわ言うわ。そうかこいつらアメリア信者か。

「それじゃあ、先に洞窟に入らせてもらうよ。そっちはお荷物を抱えて大変そうだしな」

「せいぜい時間切れにならないようにするんだな」

 そいつらは俺とフィオナに蔑むような目線を向けながら、そう言い放つ。

『主様。この人たち、やっつけていい?』

『待て。早まるなよ』

 サクヤの声に静止をかける。サクヤは今、俺の影の中に潜んでいるのだが、こいつらの言動にイラっと来たらしい。俺も同じ気持ちだが、我慢するように伝える。

「ええ。もちろんいいですよ。……そちらこそ気を付けてください。洞窟の中は暗いですから」

 わずかな笑みを張り付け、嫌味を受け流す。あちらは俺の反応が面白くなかったのか、面白くなさそうな表情をして洞窟に入っていった。

『主様。あいつらにいたずらしてきてもいい?』

『……洞窟内の様子が知りたいな』

『了解!』

 サクヤの気配がなくなったのを確認して、俺は班員たちに何食わぬ顔で言った。

「じゃあ、洞窟は先約が入ったことだし、周囲を少し探索して時間を空けてから入ろうか」


 一旦洞窟から離れ、そこから繋がっている道を探索する。途中で他の班の子たちとすれ違ったりもした。歩き回っていると、小さな広場に出た。そこには先生が立っていて、その腕には、証をくれることを示す腕章をつけていた。

 先生は俺たちを見ると、怪我をしたりしていないか聞いてから、問題を出してきた。それは普通科の生徒に焦点を絞った問題だったようで、フィオナはじめ普通科の3人が難なく答えを導きだしたことで、証をひとつ手に入れることができたのだった。

 次回更新は3月17日(金)を予定しています。それでは、また!

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