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    6-9 令息は婚約者とバレンタインを過ごす

 3月4日、誤字を治しました。


 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 今回のお話はサブタイトル通りです。それでは、そうぞ!

 月日はあっという間に過ぎて今日は2月14日。前世ではバレンタインと呼ばれる日だ。この世界では家族や恋人など、大事な人に感謝の気持ちを込めて歌や贈り物をする日なんだそうだ。

 そんなだからか、学園はどこか浮足立っていた。知り合いでいつもと変わらない感じだったのはラシンとマルバスぐらいだった気がする。だが、ラシンを獲物と定めた狩人のごとき視線で見つめるシャーロットの姿が見受けられたので、彼が無関心でいられるのもそう長くはなさそうだ。

 ちなみに俺はというと、アメリアが菓子かなんかの入った包みを持ってうろついているという情報を得たのもあって鉢合わせしないようにこそこそと行動する日になった。なんでも、キャラの好物を差し入れすると好感度が上がりやすくなるとか。……もらったところで何かが変わるわけじゃないけど、関わり合いにはなりたくないしなあ。

 今日はフィオナとは別行動だ。本人からの希望で今日はエレオノーラ嬢達と過ごすとのこと。放課後にはお茶会をするとか。歌もそこで披露するらしい。……お菓子や茶を飲みながら友人の歌を聴くってカラオケボックスのひとコマみたいだな。なお、明日は俺の番。

 翌日。俺とフィオナのバレンタイン?は伯爵家の屋敷で行われた。先に音楽室で歌を贈りあい、それからお茶会をする予定となっている。

 音楽室で”カラオケルーム”を開き準備をしている中、フィオナはどこか緊張したような面持ちでいた。

 準備が終わったところで、フィオナが小さな小箱を持って近づいてきた。恥ずかしそうにもじもじしながら箱を差し出してくる。

「これは?」

「えと……。クッキーです。う、うまくできたかはわかりませんが……」

 頬を染めてさらにもじもじするフィオナ。可愛いな。……じゃなくて。

「もしかして……手作り?」

 そう問いかけるとフィオナはますます恥ずかしそうにする。学園の調理室を借りてエレオノーラ嬢達と作ったのだとか。昨日のお茶会の茶菓子にしていたみたいだけど、そのうちの一部を持ってきたと。

「本来は相手にメッセージや歌を贈り合うのですが、エレンがプレゼントを渡せば喜ぶんじゃないかって……。それでチョコレートを薦めてくれたのでチョコクッキーです」

「へえ。食べていいか」

「は、はい!」

「いただきます」

 箱に入っていた茶色く丸いクッキーをひとつつまむ。口に入れるとサクリという小気味のいい音がして、甘さ控えめなチョコの味が口の中に広がった。

「……美味しいよ」

「! 本当ですか!?」

「嘘は言わない」

 一つひとつ噛みしめながら食べていく。……エレオノーラ嬢に感謝だな。まさかこっちの世界でも手作りお菓子がもらえるとは思わなかった。

 ふたりでクッキーを食べ談笑する。クッキーがなくなった頃、フィオナは「レオン様に歌を贈ります」と言ってカラオケマシーンを操作し始めた。

 イントロが流れ始め、フィオナが歌い始める。これは……確かサラリーマンが家出女子高生を拾うアニメのエンディングだったな。

 フィオナの歌声は相変わらず透き通っていて、歌詞が自然と耳に入ってくる。フィオナの声からは、溢れんばかりの感謝の気持ちが伝わってきた。後で聞いたところ、”歌い手の集い”の練習中にこの曲を聞いて、とても共感したからこれを歌うと決めたそうだ。

 フィオナが歌い終わった後、俺もお返しをすることにした。共感したというのには、俺にも覚えがあったから。

 選んだ曲は、猫型ロボットが出てくる国民的アニメ、その中でフタバスズキリュウが出てくる映画の主題歌。歌詞の内容が全体的にレオンに重なる部分があるように個人的に思っていた。

 多分だけど、あがいて、迷って、遠回りしながらも、今俺、いや俺たちはちゃんと前に進めているんだと思うんだ。

 込める思いは、俺たちを支えてくれている全ての人たちへの感謝とこれからも前に進み続けるという決意。そして、必ずフィオナを守り抜くという誓い。……絶対に壊させやしない。俺は今の、ささやかな幸せに満ちた日々を守り抜いてみせる。


 短いが、かなり充実した時間を過ごして、その後はお茶会となった。もちろん母は大張り切りでプレゼントを用意していて、フィオナにたくさんの言葉をかけていた。母が自分もフィオナの手作りクッキーが食べたかったと文句を言ったり、フィオナがそれで恐縮している中俺がなじられたりと穏やかな時間が過ぎていく。 

「レオン。少しフィオナちゃんとふたりで話がしたいの。部屋を出てもらってもいいかしら?」

 その最中、母は突然そんなことを言い出した。理由を問おうとしたが、こちらを見る母の目は非常に真剣で、反論は許さないといった気迫が感じられた。

 俺は了承して席を立つと、部屋の外に出る。……確か、侯爵家の件には母も関わっているとエレオノーラ嬢が言っていた。それに関係する話なのかもしれない。

 30分ほど経ったころ、部屋から母が出てきて、後はあなたの役目よ、というと去っていった。部屋の中にはフィオナがひとり座っていた。

 近づいてみると、フィオナは青白い顔をして、何かをこらえるかのように両手を膝の上でぎゅっと握り締めていた。よく見ればその腕も小刻みに震えている。

「フィオナ?」

 その姿があまりにも儚くて、今にも消えてしまいそうな錯覚を覚え、思わずその両手を優しく包み込むように握る。伝わってくる体温にほっとした。

「レオン様……?」

 そこで初めて俺に気が付いたように目を見開くフィオナ。

「うん。俺はここにいるよ」

 今のフィオナは、なんだか迷子の子供のように思えて、優しい声音で話しながら、頭に手を載せて優しく撫でる。すると、フィオナの空色の瞳に涙が湧きだしてきて、溢れたそれが彼女の頬を伝っていった。

 俺は震えながら鳴くフィオナを優しく抱きしめる。背中に手をまわし、『俺はここにいる。大丈夫だよ』と伝えるように背中を優しく撫でた。……多分、フィオナは母から家族が自分を排斥しようとしていることを聞いたのだろう。例え愛されていなかったとしても、実の親が自分を害そうとしているなんてきっと聞きたくなかっただろうし、ショックだったに違いない。

 なんで、フィオナにはこんなにも悲しみが降りかかるのだろうか。ゲームを作った人たちは何を思ってあんな設定を考えたのか。

 ふつふつと湧き上がる怒りを面に出さないようにしながら、俺は胸の中で静かに涙を流すフィオナを抱きしめ続けた。


 しばらくして、フィオナは母と話したことをぽつぽつと話してくれた。妹であるミーナを俺の婚約者にするように手紙が来ていたこと。それがうまくいかなくて家族がフィオナを婚約者の座から引きずり下ろすための計画を立てていること。

「私が……出来損ないだから、愛されていないのはわかっていました。でも」

”まさか家族から刃を向けられることになるなんて”

 その言葉はひどく震えていた。

「アニエス様に言われたんです。『侯爵家と伯爵家。どちらがいいか』と。助けを求めてくれるなら、私に手出しはさせない……と」

「うん」

「私……今の幸せな時間を失うのが怖くて、アニエス様の言葉に、頷いたんです。でも、本当にこれで良かったのか、わからなくて……」

 伯爵家うちを選んだなら、それは侯爵家を捨てるのと同じ。フィオナは優しいから、愛してはくれなかったとはいえ、今まで自分を育ててくれた人たちを見捨てることに苦しんでいるのかもしれない。……俺にはこういうときにかけるうまい言葉なんて思いつかない。だから……。

「例えそれでも、俺は、フィオナが俺たちといることを選んでくれて嬉しいよ」

 自分の正直な気持ちを伝えることにした。

「……俺はさ、幸せになろうとすることは、生きている人の特権だと思うんだ。その、フィオナの家族はさ、自分たちの都合で娘の幸せを、人生を台無しにしようとしてる。自分の幸せのために誰かを犠牲にするのは褒められたことじゃないかもしれないけど、彼らのは明らかに度が過ぎてる。気にするな、とは言えないけど、自業自得な面も大きいし、考えすぎない方がいいと思うんだ。……だから」

 さらに続けようとしたところで、フィオナが俺を見た。その瞳にはまだ涙が浮かんでいたけれど、強い光が宿っていた。

「……ありがとうございます。すぐには割り切れないと思います。でも、……私が幸せなんだってことを見せつけてやりたいと思います」

 そう言いながら笑顔を見せた。もし空元気だとしても、気持ちが上向いたのならよかった。


 帰りは伯爵家の馬車に同乗して学園まで行った。馬車が帰り、フィオナと別れて、寮の部屋に入る。中ではコクトが待っていた。報告書と、伯爵家わがやの影経由で渡されたらしい母からの書簡を渡された。……屋敷で渡さないってことはフィオナには見せられないってことか……。

 さっそく中身を確認する。報告書の方は、ほぼほぼこちらの思惑通りにことが運んでいることが書かれていた。

 書簡の方には……侯爵家のメンツが企てていることについて書かれていた。フィオナ自身からは『偽の理由で家に呼び出され、そのまま閉じ込められる』と聞いていたが、実際の計画はそれよりもさらに酷かった。

 それは、これから学園で行われる卒業試験の会場で騒ぎを起こしてそのどさくさでフィオナを連れ去り、そのまま帝国に売り渡す、というものだった。実の娘を売り渡すという行為に反吐が出そうになる。

 だけど、あの冊子に書かれていたフィオナのたどる末路のひとつに「帝国に攫われて人体実験をされ、心身を壊してしまう」というのがあったが、それのきっかけを作るのは侯爵家だったってことか?

 それと、関係あるかはわからないが、例の冊子には卒業試験の会場に悪役令嬢が魔物を呼び込んでヒロインを殺そうとする、というのもあった。

 どちらも卒業試験の会場が舞台になっているのは偶然か? それとも、こういうゲームでありがちな”強制力”というやつなのか。……まあ、俺が好き勝手出来てる時点でもはやあるのかも疑わしいけど。

 ともかく、要注意なのはもうすぐ始まる卒業試験だ。その会場は学園が所有する場所で、そこには森や洞窟などがあるかなり広い場所らしい。

 確実に卒業試験がパーティー前の最大の山場になる。準備万端にして臨む必要があるな。

 最後の方は少ししんみりとした空気になりました。次回から少しずつ山場に入ってい行きます。

 次の更新は3月10日(金)を予定しています。それでは、また!

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