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    2-2  5日目① ダメ男は婚約者と交流する

 昨日と同じように午前中は一通り体を動かそう。ではまずは準備運動から、とラジオ体操をしていたら、修練場にいた騎士たちが近づいてきた。……もしかして邪魔だったかな?

「レオン様! おはようございます!」

 5人の騎士の中で、リーダー格と思われる騎士が、挨拶をしてきた。騎士とは言っても、まだ高校生くらいの所謂見習い騎士に近い。余談だが、アルバート伯爵家の領地には、魔物が出ることもあって、伯爵家所有の騎士団がある。彼らはそこの見習い隊員たちなのだ。

「おはよう。どうかしたのか?」

「はい。……レオン様が先日からされている、その不思議な動きについて教えていただきたく……」

 不思議な動き……? あ! ラジオ体操のことか⁉ 確かに、この世界にはない不思議な動きに見えなくもないな。

「ああ~。これはな、『ラジオ体操』っていうんだ」

「『ラジオ体操』?」

「体を動かす前の準備運動のためにやっていてな。体のいろんなところを曲げたり伸ばしたりできるから、便利なんだ……。おまえらも一緒にやるか?」

「え⁉ いいのですか?」

「いいさ。大勢でやった方が楽しそうだしな」

 それから、新人たちにラジオ体操を教え、その後ランニングと筋トレまで一緒にやった。……一緒にやってくれる仲間がいるのはいいな。楽しいし、張り合いも出る。模擬戦にも付き合ってもらい、有意義な時間を過ごせた気がする。

 午後、また瞑想しようかと思っていると、アレクが来客を知らせてきた。まさかあのアメリアって女かと思ったら、来たのはフィオナだった。さっそくまた来てくれたらしい。通してもらうように伝える。ほどなく、フィオナがやってきた。彼女を案内してきたメイドに飲み物を持ってくるように伝えると、彼女を部屋に招き入れる。部屋にあるローテーブルとソファの所に案内し、向かい合わせに座った。なんとなく、沈黙が続いた。今日の彼女は、この前と同じように、落ち着いた色のシンプルなワンピースを着ている。表情は、この前ほどはないが、やはりこわばっていた。やがてメイドが飲み物を持ってやってきて、ティーカップを置いて下がった。再び静かな時間が過ぎる。なんだかいたたまれなくなって、ティーカップに手を伸ばし、紅茶を一口。……あ、美味しい。

「……君もよければ飲まないか?」

「……⁉ は……はい」

 声をかけられたのに驚いたのかびくっとしてから、恐る恐ると言った様子で彼女もまた紅茶に口をつける。美味しかったのか、その顔が少しほころんだ。少し緊張がゆるんだようだ。

「また来てくれたんだな。ありがとう」

 そういうと、お礼を言われるとは思っていなかったのか、フィオナは戸惑うようなそぶりを見せた。

「来てくれるのは嬉しい。でももし、他に予定などがあるなら、そちらを優先してくれても構わない。無理をしてこちらを優先して、君の付き合いを潰すわけにもいかないからな」

 俺としては、彼女を気遣っての言葉だったのだが、そう言った瞬間、彼女の顔がこわばるのを見て、今の言葉は失敗だったと悟った。すぐに思いついた言葉を重ねる。

「あ……いや、君に来てほしくないわけではないんだ。ただ……そうだ‼ 私に勉強を教えてくれないだろうか?」

 突然の申し出に、彼女が驚いているのがよくわかった。……過去に一度ひどく拒絶しているから当たり前ではあるけど。

 ふうと心を落ち着けるために息を吐いてから、続ける。

「恥ずかしい話なのだが、勉強をしてみたら分からない所が多くてな。困っていた所なんだ。それで、少し手伝ってくれないかと思って……」

「……私で……いいのですか?」

 少しの沈黙の後に返ってきた言葉に、俺はうなずく。

「むしろ君に頼みたいんだ。お願いできるかな?」

彼女は、「私で……お役にたてるなら」とうなずいてくれた。……よかった。

「レオン様……。レオン様は何を勉強なさっているんですか?」

「うん?」

 ああ。次に来てくれる時のために準備をしてくれるのかもしれない。なにを教えてもらおうかな。しかし、少し考えるそぶりをしただけなのに、彼女は何か勘違いしたようで、「すみません。差し出がましいことを……」と謝ってきた。

 本当に申し訳ないという感じで謝ってくる彼女を見ていると、とてももどかしい気分になる。この子が悪いわけではないのに、周囲の環境がこのまだ幼さの残る女の子にこんな顔をさせているのだと思うと、悲しくなった。本当は慰めて「そんな顔しなくてもいいし、謝らなくてもいいんだ」と言ってやりたい。でも、今の自分が言っても説得力のかけらもないだろう。でも、少しずつでいいから、伝えていった方がいいだろうな。

「……謝らなくてもいい。君は、社会はわかるか?」

「は、はい」

「次に来る時でいいから、頼めないか?」

「は、はい。……あの、今からでもだ、大丈夫です」

「? そうなのか? しかし道具がないように見えるが?」

「え……えっと、道具は持ってます。今出します」

 そう言った次の瞬間、フィオナの手には、社会の教科書とノート、筆記用具があった。え?

 ぽかんとしていると、フィオナは恥ずかしそうに言った。

「……無属性魔法のひとつに、異空間収納と言うのがありまして、それに入れてたんです」

 ファンタジーでは定番のアイテムボックスか‼ この世界にもあるんだな。

「……便利だな」

 すると、彼女はそうでもないというように、うなだれる。

「でも、あまり大きなものは入らないのです」

「そうなのか?」

「はい。せいぜい本が5冊入る程度の大きさしかないので、あまり重宝はされていないんです。マジックバッグの方が便利なので。でも、私は自分で荷物を運ぶしかないので、これだけでもとても助かって……」

と余計なことまで言ったと思ったのか、口をつぐんだ。貴族の子女は、学園に従者を連れてきていることが多い。だが、彼女には従者がいないか、ろくに仕事をしていないのだろう。そしておそらくだが、間接的に愚痴のようなことを言ってしまったことに気が付いて、黙ったというところか。告げ口なんかしないのにな。いや、前はしていたのかもしれない。もしくはそれをなじって攻め立てたか。……気分が悪い。何とか空気を変えないと。そう思った俺は、ある提案をした。

「……今日は社会ではなくて、魔術を教えてくれないか? 例えば今の……異空間収納とかを」


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