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    5-22 ダメ男は王太子殿下と模擬戦をする

 こんばんは。ブックマーク・評価・誤字報告等、いつもありがとうございます!

 今回は新キャラ登場と唐突なバトル回です。……武器ってロマンですよね。

 では本編をどうぞ!

 フィオナとお茶会があった翌日。サクヤが母からの手紙をもってきた。何かと思って読んでみると、そこには『良からぬことを考える人間が出ないようにフィオナとの仲の良さをアピールしろ(遊びに出かけたり話しかけたり、フィオナのいるお茶会に顔を出したり……)』といったことが書かれていた。

 母は”歌い手の集い”で名が売れたフィオナにちょっかいをかける人間が出ないか心配しているようだ。あとは俺にも釘をさしにきてるな。……学園祭とその後のことで、俺は今婚約者にぞっこんだという噂が流れていると報告もされていたので、奇しくも母の言いつけは叶っていることになるのか?

 だが手紙はこれで終わりではなく、最後に『お客さんが屋敷に来るからできる限り帰ってきなさい』という旨が書かれていた。おそらくこっちが本題だろう。……そうだよな?

 とにかく、特に予定もなかったため、俺は屋敷へ帰ることにした。久しぶりに帰った屋敷は、前と変わらず活気に満ちていた。目に見える変化としては庭園に咲く花が変わったといったところか。

 メイドに荷物を部屋に運ぶように頼んだ俺は、父と母に挨拶に行った。そこで今日やってくるお客さんというのは、兄の友人で、しかも王太子殿下、つまりカルロスの兄だとわかった。今日は婚約者の方と一緒にくるらしい。

「そういえば、フィオナちゃんと仲良くしているみたいね。安心したわ」

「手紙が来たときは何事かと思いましたよ」

「そりゃあねえ。あなたがボケっとしているせいで他の男にフィオナちゃんを盗られたら嫌だもの」

「今のところは上手くいっているので安心してください」

「わかってるわ。でも、なんだか変な動きをしている子もいるみたいだし、気をつけなさい」

「肝に銘じておきます」

 変な動き……アメリアか? 調査は引き続き継続させよう。

「でも、これなら”箒星の夜会”も大丈夫そうね」

「”箒星の夜会”?」

「そう。パートナーとのダンスもあるから、しっかりと仲を深めておくのよ。ダンスの練習も忘れないように。練習はここでするといいわ。必要なら講師も呼びますからね」

「ダンス……」

 おそらく、いや確実に盆踊りとかの類ではないな。

「その時が来たらお願いします」

「できたらフィオナちゃんも呼んだ方がいいわ。予定を合わせて。決まったらすぐに教えること」

「わかりました」

 後で調べたところ、”箒星の夜会”は前世で言うクリスマスのころに行われるパーティーのことだった。そのころになると箒星、つまり彗星が夜空に輝くのが名前の由来で、会場は王城。1000人以上が招かれるかなり大規模な催しらしい。

 オーケストラによる音楽もかけられ、ダンスの時間もある。だからなるべくパートナーと一緒に出るのが習わしで、大体が婚約者かいなければ親戚と参加するのだそう。……だからフィオナとのことを心配していたのか?

 最後に父から「無理はせず、できる限りのことをしろ」という言葉をもらい、俺は部屋を後にした。

 予定は昼前。まだ時間はあるな。とは言ってもトールはきっと昼食の準備で大忙しだろうし、久しぶりに訓練場で鍛錬でもするか。

 軽く鍛錬をしてから汗を拭きとり部屋に戻る。着替えたころにはちょうどよい時間になっていた。玄関に向かった俺は、既に立っていた母の隣に立つ。やがて玄関の外がにわかに騒がしくなり、扉が開かれた。まず入ってきたのは護衛の騎士らしき人が数人。その後に父と兄に先導されて一組の男女がやってきた。

 男性の方は橙色……いや、曙色?の髪をしていて、女性の方は白銀の髪をしていた。曙色の男性が口を開く。

「この度は急な訪問になってしまって申し訳ない。今日は婚約者ともども世話になります」

「よろしくおねがいしますわ」

 女性の方も男性の言葉に合わせてカーテシーをした。

 自己紹介によれば、男性はアルフレッド、女性の方はバレンシアというそうだ。

 その後は食堂で昼食となった。今日のメニューはバッファルホーン(牛みたいな魔物)のステーキと白米、オニオンスープだった。米は少し前から屋敷でも出されるようになった。腹持ちがいいと騎士の間では評判らしい。ただ、まだ量産には時間がかかるとのこと。

 ステーキは分厚く、肉汁たっぷりで美味しかった。ご飯も安定の美味しさ。

「これは初めて食べましたが、美味しいですね」

「本当ですわね」

 王太子殿下たちにも好評なようだ。

「午後はどうされますの?」

 母の言葉に王太子殿下は答える。

「午後は訓練場を貸していただけますか? カリオンと模擬戦をする約束なのです」

「あら。ではバレンシア様は私とお茶でもどうですか?」

「申し訳ありません。私はふたりの模擬戦が見る約束ですの」

「……では、訓練場近くにテーブルを運んでおきますわ。終わったらいらしてくださるとうれしいわ」

「では、終わり次第うかがわせていただきます」

 会話の中でトントンと予定が決まっていく。俺は……模擬戦を見ることにするか。



「俺と戦う前に……こいつとも戦ってくれないか?」

「……え⁉」

 ポンと置かれた手に驚いて俺は兄を見た。

 現在いるのは訓練場。俺は兄と王太子殿下の模擬戦を見ようと思っていたわけだが、いざ始まると思われたときに聞こえてきたのがこの言葉である。どゆこと?

「急にどうしたんだよ?」

 王太子殿下も驚いている。言葉が砕けているのはここには俺たちしかいないからだろう。ちなみに、今ここにいるのは俺と兄、殿下とバレンシア様の4人である。護衛の騎士やここでさっきまで訓練していた騎士たちはやや離れたところでこちらを見ていた。

「いや、アルもたまには俺以外とも戦いたいんじゃないかと思ってな。それに……レオンは結構強いぞ」

 兄はニヤッとしながらそう言った。喜べばいいのか、身代わりにされそうなことを嘆けばいいのか……。

「聞いてるよ。闘技会優勝だって? 中々激しい戦いだったともな。……君さえよければそれでもかまわないが?」

 殿下はそういいながら俺を見る。……この人は多分強い。そうじゃなきゃ兄と模擬戦はできないだろうし……。どうせなら胸を借りるか。

「私でよろしければ、お願いします」

「……よし! じゃあやるか」

 さわやかな感じの笑みを浮かべて、殿下はそう言った。

「じゃ、審判は俺がやるぜ」

「おう。でも、この後でお前ともやらせろよ」

「考えとくわ」

 かなり気安い感じの会話が続く。気の置けない間柄ってやつかな?

「レオン。アルは強いぞ。本気でやらなきゃすぐに負けるかもな」

 やっぱり強いみたいだ。剣を構えなおす。

「じゃあ、その前に……シア。頼めるかな?」

「任せて」

 殿下の声にバレンシア様が答えた。そして詠唱を始める。

「……”防御障壁”」

 途端に白い光があふれだし、それが俺と殿下を包む。

「……これは彼女の魔法であらゆる攻撃をほぼ無効化できる障壁だ。これなら本気でぶつかり合っても怪我をすることはないよ」

 その説明に驚く。まじかよ! 思わず白い光がわずかに滲み出る体を見る。

「ただ、彼女自身を含めて3人までにしか魔法を使えないけどね」

 それでも破格の性能だと思います。……それを模擬戦で使うってどうなんだろうと思ったが、口には出さなかった。

「じゃあ、アル。私はあっちにいるから」

「うん。ありがとう。見ててくれると嬉しい」

「頑張って」

 魔法を使うためにいてくれたらしいバレンシア様は、殿下に微笑むとちょうど現れた母の方に歩いていった。

 訓練場で向かい合う。いよいよか……。

「では……———始め!」

「それじゃあ行くよ!」

言うが早いか、殿下は炎の玉を複数飛ばしてきた。俺は風魔法でそれを吹き飛ばす。今度はそれが螺旋状に回転しながら迫ってくる。今度は風で上手くいなす。すぐに”ウィンドニードル”を多数展開して反撃した。それは障壁のようなもので弾かれた。お返しとばかりに炎の矢が飛んでくる。それも避けた。熱風が頬をかすめる。

「”フレアドラグーン”!」

 その声とともに飛んできたのは、竜のような形をした炎の塊。俺はそれを魔法で相殺しようとした。がそう思った瞬間ぞわっと身体を悪寒が走り抜ける。これは……!?

 俺は発動しようとした魔法をキャンセルすると、瞬時に”纏”を発動。前回り受け身の要領で回避して、すぐに距離を取る。

 ボオウン‼

 炎の竜は俺がいたあたりに着弾して爆発。周囲に炎を振りまいていた。……魔法で相殺してもあれでダメージを負っていたかも。っ!

 キイン‼

 剣のぶつかる音が響く。目の前には剣を構える殿下の姿。あの竜はおとりだったのか!?

 2合、3合とぶつかり合う。……一撃一撃が重いわけじゃないけど、的確にこっちの隙をついて来ようとする。……こりゃあ長引くと不利だ。

 俺は足元を凍らせて妨害を図る。殿下はばっと後ろに飛んで回避した。俺は”ウィンドカッター”を飛ばして牽制する。あちらからは炎の弾丸のようなものが飛んでくる。防御して次の手を……って次々と飛んでくるな!

 マシンガンのごとく降り注ぐ炎の弾丸。防戦一方になった俺は防壁の裏で足に力をためる。そして飛び出す方とは反対側の方に防壁を拡張。弾丸がそちらにそれた隙をついて一瞬で防壁から飛び出して距離を取り、こちらも氷の矢を無数に生み出して放った。

 ぶつかり合う弾丸と矢。”纏”の補正で威力が上がっているおかげか、押し負けていない。でも、ここからだ!

”アサルト”‼

 一本の氷の針が、矢に混ざって殿下に迫り、足元に突き刺さる! 瞬時に凍り付き、それは殿下の片足に纏わりついた。

「うおおおおお!」

 俺は殿下に迫り、剣を振り下ろす。それはあちらの剣で受けとめられた。……結構簡単に受けとめられた! その証拠に押し戻されて俺の体が後退する。牽制のつもりか、炎の玉が飛んでくる。魔法で払い落す。その間に魔法で氷を溶かした殿下が距離を取ろうとした。させるかあ!

 俺は剣を捨てると、一気に加速して殿下に迫る。そして氷で剣を作って振り下ろした! 

 ガギイイン!

 受けとめることはできたが、それによって殿下の剣は凍ってしまい、ほぼ使い物にならなくなった。ただし、俺の氷の剣もそれにくっついているから俺も剣を手放す。

 殿下は炎の弾丸を打ち込んでくるが、それを防壁で防ぎ、俺は新たな武器を作り出し、振りかぶる! 足りない威力は、遠心力と重さで補うまで!

 殿下は後ろに下がり、距離を取ろうとする。俺は生成したそれを振り下ろした!

 ガシャアン‼

 叩きつけたそれは剣ではなく、もっと長い。長い柄の先に斧が付いた、バルディッシュと呼ばれる武器だ。重量で叩き潰すのに特化している。とはいっても、強度弱めで作ったので叩きつけた時に壊れてしまったが。……殿下は距離を取ったからかすりもしていない。でも、まだまだ!

 俺は前に踏み出しながら、砕けて柄だけになってしまったバルディッシュ——それに魔力を流しながら横薙ぎに振る。

 柄の先に新たに伸びる刃。先ほどと同じ様に斧がついて、殿下に迫る!

 バアン‼

 障壁で防がれた! バルディッシュ(今度は壊れていない)を引き戻して再度振りかぶろうとする。

 だけど殿下はその前に勝負を決めようと考えたのか、炎の玉を出して放ってきた。……!

 俺は氷のバルディッシュを真っ直ぐに構えて、魔力を集中させる。身体と得物に力を籠め……踏み出して突く‼

「……っ‼」

 バルディッシュの柄、その先に刃が伸びて槍に。突き出されたソレが、炎の玉を貫いて、殿下に迫る!

 ……が、それは殿下に刺さることなくその体をすり抜けた。ゆらりと殿下の姿が陽炎のように揺らめく。

「!」

同時に、殿下の炎の剣が俺の喉元に突き付けられた。……やられた。

「参りました」

 こうして、模擬戦は俺の負けで終わったのだった。


「いやあ、想像以上に楽しかったよ!」

「ありがとうございます」

 模擬戦の後、俺は殿下にほめられていた。

「魔法の使い方が中々巧みだったな。特に普通の攻撃の中に本命のをひとつだけ紛れ込ませるのは良かった。足りない力を武器の重さで補おうと工夫しているのもよかったな。でも、氷で武器を作っているときの魔力の動きがちょっと大きかった。軌道が読みやすくて避けたり狙われているところに障壁を張りやすかったね」

 殿下の感想は的確で、自分の甘い部分がよく分かった。俺より強い人ってもっとたくさんいるんだろうな。

「だけど、君との模擬戦は楽しかった。さすがはカリオンが推すだけあるな」

「ありがとうございます。殿下」

「いや、アルでいい。非公式の場に限るけどな?」

 さわやかな笑みを浮かべる殿下。……顔はカルロスの方がかっこいいかもしれないが、中身のイケメン度はこっちの方が上じゃね?

「いや~見事に負けたなあ。でも見ごたえはあったし、いい戦いだったな!」

 歩いてきた兄が肩をたたきながらそう言う。

「ところで、お前が氷で作ってたあれはなんて武器だ?」

 なんか食いつかれた。武器屋に行ったことないから知らないけど、この世界にはバルディッシュとかは存在しないのか?

「ええと、こっちの長柄の斧はバルディッシュと言って……」

 氷で先ほどの武器を作って説明する。さっきはなんちゃってだったハルバードもきちんとした形で紹介した。兄はハルバードの見た目と実用性の高さがとても気に入ったらしく、「武器屋に作らせるか……」と言いながら氷のハルバードをブンブン振っていた。最近、普通サイズの剣じゃ満足できなくなってきていて、武器を新調しようと考えていたらしい。思わぬ形で良さげな武器を見つけたことで、兄は楽しそうな表情をしていた。

 殿下の方は、ハルバードの洗練された様式美に注目していた。見た目がいいし、装飾をつけたら儀礼用の装飾武器になると考えたらしい。確かに、そういう使われ方されてるもんな。

 説明が終わった後、兄は「ちょっと行ってくるわ!」というと氷のハルバードを握り締めたままどこかに行ってしまった。……武器屋、いや鍛冶屋かな。お抱えの人がいるらしいし。

 殿下は苦笑しながらも、バレンシア様の方に向かっていった。……俺も行くか。

 その後、殿下の魔力が回復したころに兄が戻ってきたことで、ふたりの模擬戦が行われたのだが……言葉に表すこともできないくらい激しかった、うん。

 ハルバートは近接武器の完成形と言われるほど洗練された武器だったりします。そのぶん扱いは難しいようですが……。


 主人公は剣の鍛錬と同時に槍のような長柄武器の練習もこっそりやっていました。理由は魔法で武器を作った時はイメージ次第で形がある程度自由自在だからです。剣では不利な相手に対しての牽制になるように……という考えです。だから突きや払いといった基本的な動きくらいしかまだできません。後は単純に状況に合わせていろんな武器が使えるのってかっこよくない?って感じです。

 そんなこんなで作者の願望がやや多めに詰まった話になりました。

 

 次回更新は6月10日(金)を予定しています。

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