9話 お百度参り
次の日の夜、竹中は友人と一緒に潟竹神社の前に立っていた。来ている友人は一人だけで、もう一人の友人は非科学的なものを信じないので参加しなかった。
目の前に鳥居がある。
夜7時という事もあり、竹中達以外の参拝者はいない。昼間に来る事を友人に提案したのだが、却下された。
マスコミで取り上げられたおかげで、潟竹神社の人気は高い。昼間は参拝者が多く、お祈りに集中できないと言うのが友人の理由だ。
その方がいいだろう。お百度参りなどという古風なやり方をするのだから、人に見られたら恥ずかしい。非科学的なものを信じない人間がやるのだからなおさらだ。
ひしゃくで水をすくい、手を洗う。別に手を洗う必要はないのではないのかと友人に提案したが、これまた却下された。こういう無駄だと思える行為一つ一つが効果を高めるのだという。
拝殿の前までやってきた。竹中の前には、鈴のついた紐と賽銭箱がある。
「お賽銭は、いくら入れればいいの?やっぱりご縁があるように五円を入れればいいの?」
「意外とおっさんっぽい発想ね」
「はっきり言うわね」
「別に悪気があっていったわけじゃないの。それに、この場合、誰かとの縁を深めようとしているわけじゃないでしょ。留美の目的は、水無月君を勝たせることでしょ」
「そうよ」
「だから、五円にこだわる必要はないと思うの。お金なんて何円でもいいの。大事なのは気持ちよ!気持ち!高いお金を入れて喜ぶのは、神様じゃなくて宮司さんよ。お金よりも回数よ。小さな事からこつこつって、昔の人は言っていたじゃない」
「その言葉を言ったのは、西川きよしでしょ」
「西川きよしも、かなりの年だから、間違ってはいないと思うんだけどね。まあ、とにかくやってみよう」
友人に言われるまま、竹中はお祈りを始めた。事前に習ったちゃんとしたやり方・・二礼二拍手一礼をやった。
お祈りまでは友人に少しえらそうな態度をとっていたが、いざ祈りが始まれば真剣そのものだ。真剣に神様に水無月の成功を祈っていた。
竹中は閉じていた目を開ける。
「これでいい?」
「ええ」
「これを今から100回やればいいいのね。時代劇でやっているのを見たわ」
「そのやり方でも間違ってはいないわ。でも、それは本来のやり方じゃないの」
「えっ!?」
竹中は思わず声をあげてしまった。
子供の頃に見た時代劇のお百度参りの場面は、うそだったのか。
「やっぱり留美も勘違いしていたのね。本来は、お参りを100日続けることなの」
「そうなの?」
「そうよ。それが簡略されたようね。時代劇でも、その簡略されたのが描かれているのね。詳しい経緯はわからないけど、結構大変だったんじゃないの。毎日お参りをするのを100日もやるのよ」
「うーん、そうかな。毎日、神社に行くぐらい大したことがないでしょ」
「よーく、考えてみてよ。その百日間のうちに、一日でも何か用事があっていけなかったらどうするのよ」
そう言われて、竹中は日々の事を頭の中に思い浮かべてみた。数秒間考えただけで、答えが出た。
「しんどいわね。うちの部署はそれほど忙しくないとはいえ、たまに夜遅くまでの残業もあるのよ。」
竹中は陸上部の一員とはいえ選手ではない。マネージャーは選手と違い優遇措置は少ない。練習時間中は、さすがに仕事を抜けられるが、それ以外の時間は一般の社員と同じように働いているのだ。
「そうでしょ。毎日やるのは大変なのよ。でも、大変だからこそ効果があるというものよ。じゃ、あと99日間がんばるのよ」
竹中は大きくうなづいた。