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お願い!アクセルを踏まないで  作者: 河田 げんずい
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4話 マネージャーとの会話 その2

「そっちを見て、どうするの?繰り返すけど無理しない事が一番大切だよ」

「わかってるよ。それは」

 いらだった口調で水無月は言う。

「だったら、素直に今日は帰ればいいのに・・・」

「そうは言っても気持ちはあせる。マラソンでの失敗は今日が初めてではない。そのうち、クビになるんじゃないか」

「そうはならないでしょ。水無月君の場合、マラソンはともかく駅伝は活躍しているんだし。実業団というのは駅伝が命って所があるでしょ」

「それはそうだが・・・」

「でしょ。今年のニューイヤー駅伝でも水無月君は活躍してたじゃない。区間賞をとってるんだから、クビはないでしょ。いくらなんでも」

 ニューイヤー駅伝・・・正式名称は全日本実業団駅伝競走大会。毎年の元旦に行われる駅伝だ。実業団のみが参加可能。予選を勝ちあがったチームのみが参加できる。合計距離約100キロであり、それを7区間に分けて走る。

 1月1日のニューイヤー駅伝、1月2日3日の2日間にかけて行われる箱根駅伝といえば、まさに正月の恒例行事。テレビ中継がされており毎年、高視聴率がたたき出されている。

 高視聴率という事は宣伝効果も高いという事だ。特に駅伝の場合、個人ではなくチーム単位で行われるものの為、勝てば、チーム名である会社名が放送で読み上げられるわけだ。選手が企業名の入ったユニフォームを着ているので、宣伝効果が高いのがよくわかるだろう。

「そうだといいんだがな。最近、不景気だろう。ニュースを見ても、倒産情報ばっかりだ」

「今朝のニュース番組もそういうのだったね。ATXコミュニケーションが倒産だってさ。あそこって、伝統ある企業だし、世間的に名の知れた企業だったのにね。正直、意外」

「だろ。それだけ今の世の中、先行きが暗いということだ。こんな時、企業は徹底的にコスト削減を図るわけだ。仕入先・取引先の見直しはもちろんのこと、社内の不要なものを切り捨てようとする。いらない人材をなんだかんだと理由をつけて、クビにしていく。実業団なんて、真っ先にターゲットにされる。陸上部に限らずな。ほら、覚えているだろ。TV不動産陸上部の廃部の件」

 TV不動産陸上部といえば、陸上界でも有名な陸上部だった。創部から30年の伝統があり、ニューイヤー駅伝での優勝も3回もある。おまけにオリンピックのマラソン日本代表選手を輩出した事もある。残念ながら、メダルはとれなかったが、5位入賞をしている。

 しかし、近年では全盛期の勢いはなくなってしまった。オリンピックどころか、同じ日本人相手にも負ける事が多くなった。ニューイヤー駅伝では優勝しなくなり、優勝候補にも挙がらなくなった。毎年出場こそしているが、出場自体が最終目的となっているのではないかと影で揶揄されるほどだ。

「確かに勢いがなかったのは事実ね。今年も十五位だったもの。でも、まさか廃部とはね・・・」

「陸上部の監督もいろいろと努力はしたらしい。練習内容を変更してみたり、優秀な選手な選をスカウトを試みたりしたりとね。でも、優秀な選手はとれなかったらしい」

「あそこの監督って、選手時代はこれとった実績もないんでしょ。仕方ないでしょうね」

 優秀な選手には、どこの実業団も注目するし、当然スカウトもする。スカウトされる選手は複数の実業団からどれか一つを選ぶ事になる。その際、選ぶ基準として重視されるのが、その実業団の監督の実績だ。

 選手時代の実績があれば世間一般でも有名だし、スカウトされる選手も当然、その名前や活躍を知っているわけだ。もちろん、選手として優秀だからといって、監督して優秀とは限らない。とはいえ、不思議なことに、優秀な選手は指導能力もあると思われてしまう傾向があった。

 選手としての実績がなくても、監督としての実績を作ればいいのだが、それがなかなか難しい。いくら指導力があっても、そもそも監督になれない事の方が多いのではどうしようもない。

「しかも、最近の不景気でTV不動産の売り上げは下がっていたようだ。それでリストラが行われたんだ。真っ先に陸上部がばっさりとリストラ・・・というわけさ。当然、監督は社長に反対したらしいが、無駄だったそうだ」

「実積がなかったから、無視されたという事ね」

「そういうこと。結果が伴わない組織を存続させておく理由はないとね」

「あー、かわいそうにね。その選手たちは今、どうしているの?」

「詳しくは知らない。ただ、なんとか受け入れ先を探しているらしいがね。でも、見つからないらしい。いろいろな企業に打診はしているようだが、どこも相手にしてくれないらしい」

「やはり、そうなるのよね。捨てる神あれば拾う神あり・・・とはいかないのね」

「ああ。残念な事だがな」

 捨てられるという事はそれだけの理由があるということだ。実績のない陸上部選手を欲しがる会社などありはしない。

 水無月はふーと、溜息をつく。

「ま、それはともかく。練習を見るのもほどほどにして、さっさと帰んなさいよ!これは、マネージャー命令です」

「マネージャーって、そんなにえらい立場だったか?」

「普通は選手の方がえらいかな。でも、こういう時にマネージャーも選手も関係ないよ。ほら、いい加減にしないと怒るわよ」

「わかったよ。帰ればいいんだろ」

 水無月は仕方なく帰ることにした。

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