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1 散々だった二回の過去世

 俺――エイド・ワーナーには天賦の才がある。


 王国騎士や王国軍人たちが何百何千と束になっても倒せなかった魔物を見事倒して国の英雄になった。


 だけどそれは同郷、同門の親友の妬みをずっと買っていたらしかった。


 そいつが貢ぎに貢いだ好きな女も、英雄になった俺のことを好いていたせいだと思う。だってめっちゃモーションかけられたしなー、ははっ。

 親友からはそいつに気がないなら近付くな的なことを言われたりもした。ただ根はいい奴だから言い方はキツくなかったしちょっと気も進まないような顔してたっけ。

 まあそれもあって俺はあんまり真剣には受け取らなかった。そもそもその女に興味がなかったからな。……まあ、それが後にいけなかったって悟ったけど。

 件のその女も実は同郷で、まだ俺が故郷の村に暮らしていた泥んこ鼻たれ小僧だった時分は一目さえくれてこなかった。いや一瞥はしてもその目には小汚い下等な生き物を見るような、蔑みと嫌悪しか浮かべなかった。因みに村長の一人娘でもあった。

 美人だったけど金と権力とイケメンと媚びるのが大大大好きな現金な女で、昔も今も勿論そんな女を俺が好きになるわけがない。


 何より、俺には幼い頃から好きで憧れていた女性(ひと)がいるから、他に目が行きようがなかった。


 俺か英雄になんてなれたのも、その彼女に釣り合うようになりたくてマジで死にかけて血反吐を吐く鍛錬修練を繰り返した結果だ。


 彼女はこの王国の姫だったから。


 そして、救国の英雄に相応しい催しをとの国王様の計らいで行われた凱旋パレードの日、終点の王都サンライトの大広場に集ってわあわあと騒がしく盛り上がっている国民たちが注目する中、俺は念願叶ってその想い人の前に立った。


 花びらや紙吹雪が俺の黒髪に降り、或いはそよ風でひらひらと飛んで行った。


 賑やかしくも、とても美しい青天だった。


 胸を張る俺はドキドキMAXで、空さえ霞む美しい彼女を見やって、堂々告白した。


「アイラ様! 俺はあなたが好きです。十五年前、あなたが村を訪れた時からずっと……!」


 既に彼女とは、俺が優秀な冒険者として注目され出した頃から面識ができていたし、何度か一緒に食事だってしたことがある。まあ二人きりじゃあなかったけど。

 話す時も彼女の頬はほんのり赤くなっていたし、気持ちは俺と同じだって確信していた。

 そして予想通り彼女の返事は小ぶりの唇から俺の望む形で齎され――……。


「――エイド! お前のせいでオレの人生はめちゃくちゃになったんだあああ! 覚悟しろおおおッ!」


 幸福絶頂で油断と隙しかなかった一瞬、上手く殺気を殺して人混みに紛れていたんだろう、突如背後から襲ってきた親友に……いや親友だと思っていた男に刺された。


「なっ……え……? 何で、お前……がっ…………――」


 ――暗転。


 一撃必殺って感じで人生が終わった。


 あいつは心底本気で俺を恨んでいたのか、背中からだったのに的確に骨すら砕いて心臓一突きだったんだ。

 即死だったから治癒魔法も間に合わなかった。


 そうして、二十三と言う若さで一人の憐れな英雄が命を散らしたってわけだった。


 それが俺の一度目の人生。


 だけど人間稀に二度目の人生もあるらしい。


 ああ死んだって最期に悟って暗闇に落ちて…………ふっと目を開けたら、何とそこは冒険者として出立する前に暮らしていた故郷の村だった。


 年齢も二十三で死んだ時から十三年も巻き戻っての十歳だった。

 信じられなかったけど、過去の人生に戻っていたんだよ。

 けど記憶は一度目の時のがあった。


 だからこそ俺は、その頃はたぶんきっとまだちゃんと親友だったそいつの恨みを買わないよう、目立たずはしゃがず静かに過ごそうと決めたんだ。


 だから一度目ではした苦しい鍛錬だってしなかった。

 しかしなあ、その結果がなあ……。


「――魔物を前に逃げ出した敵前逃亡の罪で、エイド・ワーナー他五名を王国軍規律に従って厳罰に処す!」


 英雄として死んだ二十三と同じ歳にこうなった。


 厳罰って言うのは軍法に則っての処刑だった。


 その頃の俺は特に頭角を現すわけでもなく、故郷の村を含めた周辺地域の防衛のために置かれている王国軍の一地方駐屯地で、ただの雑魚の一兵士として兵役に就いていた。

 その無気力人生のおかげか親友は駄目な俺のことを気に掛けてくれて、ちょっとお節介な優しい奴のまま未だに親友で、よく一緒に飲みにも出掛けた。

 俺と違って親友はさくさく昇進して、今やこの地方駐屯地で将来を嘱望される幹部候補だ。

 まあ元々英雄レベルまでとはいかなかったけど一流の冒険者になれる素質はあった奴だから、冒険者じゃなく王国軍人としても能力を発揮できたんだろう。

 むしろ野良猫みたいに冒険者業をやっているよりは、きっちり組織に属するこっちの方がそいつには性に合っていたんだとも思う。根が真面目な奴だからな。


 そしてそんなエリート路線に乗った親友の女は言うまでもなく村長の娘だった。


 性格はまあ一人娘として甘やかされて育ったから一度目と変わらずってとこだ。

 二人に会う度に俺の胸には恋は盲目って言葉が去来していたよ……。

 まあそれはさておき、俺は俺とその他数人の同僚の下っ端兵士と共に見せしめに処刑されるって憂き目に遭った。

 俺たちみたいな情けない真似をせず、王国軍人たる者常に厳しく任務に当たるべしって心得を示すためだ。


 はあー、だけどさ、敵前逃亡したのは俺の判断じゃあなかったんですけどね。


 一度目の人生でその厄介な魔物を討伐した経験のあった俺は、その魔物の弱点を知っているから戦いましょうと粘った。けどそんなん嘘だろって馬鹿にしたように雑魚兵士の言葉なんて聞き入れず、俺たちの隊長様は撤退を命じた。


 ただ、もしもそれだけで済んでいたなら、魔物との遭遇も逃亡もなかったことになり、俺は隊長から煙たがられても公の処罰なんて受けなかったはずだ。


 しかし、だ。その後その魔物が出現地点近くの街を襲って出た被害が甚大で、軍の上層部から何たる失態だって憤慨された。

 それでも、軍の精鋭部隊でも弱点を知らなければ討伐に難儀するような魔物だったし、察知も難しいとされているために、単に事態に気付くのが遅れた不手際に対しての処罰になっただろう。その隊長共々に。


 命までは取られなかったはずだった。


 ただ小狡い人間はどこにでもいるもので、俺たち雑魚兵士が先に逃げ出したから戦えなかったと責任一切をなすりつけてきたんだよ、その保身の権化の隊長様が。


 隊長は下級貴族出身ではあったけどそこは腐っても貴族ってやつで、片や実力も実績も権力もない純血庶民の俺たち。……何が言えただろう。

 敵前逃亡とはけしからんってなってろくな詮議もされないまま軍法会議に掛けられて、あれよあれよって感じでハイ処刑決定ってなわけ。

 処刑は裁定翌日の決行で、親友は丸々一晩上官の部屋の前で跪いて減刑を求めてくれたみたいだけど、さすがに力及ばなかった。


 ああ親友(とも)よ、もうそれだけで一度目の「粗相」は帳消しだぜ……ッ。


 そんなわけで二度目の人生の幕は下りた。


 絞首台に上らされ、顔に黒い布を被せられ、死への恐怖にガタガタと震え失禁さえしながら、ああ折角チャンスをもらったのに残念だ悔しいって思ったところで足場が消えた。

 通常は内々で実行される規律違反の処刑も、俺たちのケースじゃ珍しくも駐屯している街の広場での公開処刑だったからか、見物人の女性の悲鳴が聞こえたっけ。

 はあ、えげつないものをわざわざ女子供に見せるなよって言いたいね。ああ、興味本位で見に来た可能性もあるか。


 ま、何にせよ、そうして意識が闇の中に落ちていって……――俺はふっと目を開けた。


 何だ死ななかったのかって、一度目の時みたいにぼんやりと最初は思った。


 けど、自分の手の大きさとか部屋の中の光景とかを目にして、本当にまさかそうなのかって驚愕した。


「嘘だろ……三度目があったなんて」


 そう、俺はまたもや逆行転生なるものをしたらしかった。


 そして今度は八歳で王女様に会って一目惚れするよりも前……六歳の俺に時間が巻き戻っていた。


 そういえば二度目の人生でも王女様は国王様と一緒に村を巡幸で訪れて八歳だった俺は一目惚れをしたけど、俺は逆行で覚醒してからはその恋も捨てて腐っていたから個人的に面識を得る機会なんぞ一度たりともなかった。しかも彼女はどっかの王子だかと婚約していたようで、俺とは死ぬまで一切関わりはなかった。

 三度目はどうするかなあ……大体まだ会ってすらいないし。


 俺の愛した姫君は、同じ人間でも「一度目のアイラ姫」しかいないと思っている。


 だから俺は、巡幸があってもどこかに隠れて彼女に会わないようにしようと決めた。

 ……だって心が揺れる。

 まっ、村の子供が一人出迎えなかったって別にバレなきゃ咎めもないだろ。


 そう決心して、俺エイド・ワーナーは奇跡の三度目人生を歩み始めたんだ。

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