第9話 黒衣の聖女
多分この辺から新展開、だったと思う。もう自分でなんだか分からなくなってきましたが(オ
山道の脇にぐったりした子供を抱えた女がへたり込んでいた。
「あ、あの、助けてください。せめて、せめて子供だけでも」
女は人の気配を感じ、顔を上げると助けを求めた。
子供は息はあるようだが動かないし、見るからに何かに押し潰されたようにボロボロ。
親らしきその女も片腕を骨折しているらしい。
2人とも泥まみれで、全身に裂傷や打撲なども負っているようだ。
何かの事故にあったようだが、どうやってここまで子供を運んできたのだろうか。
見るとちょっと先で道が崩れ落ちている。
土砂崩れ、いや、山が崩れたと言った方が的確か。
おそらくこの辺りの村ごと飲み込まれたのだろう。
「ちょっと待ちなさい」
黒いマントを羽織った黒衣の女はスタスタと道の切れ目まで行ってしまう。
もう一度助けを求めようと思ったが出来なかった。
いや、おいそれと助けを求めてはいけない相手だと気づいた。
冒険者と思われる少年を連れては居るが、明らかに貴族だ。それも高位の。
ただ歩く姿だけで別の世界から来たのが分かった。
マントの女は崩れたところの手前まで行くと岩の上に立ち様子を伺った後、マントの中から出した左手を、掌を上にして少し上げた。
後ろ姿で良く見えなかったが、何もないところから突然大きな本が出て来たように見えた。
革の装丁に金属の装飾、ベルトが付いた分厚い本が。
女はカバンをかけてはいたが、とてもそんな物が入っていたようには見えなかった。
突然、何もしていないのに封印していたと思われるベルトが解かれ、女の手の上でバタバタとページが捲られていく。
眩い光が女を中心に波紋のように広がっていく。いく筋も。
マントが舞い上がり、めくれたフードの中から美しい銀色の髪が漏れ、マントと一緒にはためき、光が魔法陣を描き出す。
「あああ…」
その光景だけで何かとてつもない存在であることを予想出来てしまう。
圧倒的な力を持つ未知の存在。
それが今、目の前で凄まじい力を行使しようとしている。
何の力も持たない者にも本能的にそれを感じさせた。
崩れた土砂が、まるで時間が巻き戻されるかのように傾斜を登っていく。
そして、地面から岩が生え、すぐには再び崩れないように処置された。
さらに手にした本は捲られていく。
暖かい光に包まれて気がつくと折れていたはずの腕が元通りになっていた。
「ん…」
抱いていた子供が起き上がって母親と思われる女を見上げる。
その顔には傷も苦悶の表情もなかった。
「ああ、あああああ」
抱き合って喜びを噛み締める親子。
奇跡。
そう、それ以外に表現のしようがなかった。
気がつくとマントの女と冒険者は居なくなっていた。
急に不安になって子供の手を引き修復された道を通って戻ると、壊滅した村があった。
そう、土砂に飲み込まれ遥か先まで押し流されたはずの村の跡がそこにあった。
みんな生きている。
若い者達だけで無く、老人も子供も。
怪我を負っている様子すら無い。
困惑する村人たちに女が言った。
「聖女様が、聖女様が助けてくれた」
誰も、誰1人、その言葉を疑う者はなかった。
「相変わらずとんでもない魔法だよね」
2人は山を越えてたどり着いた街で宿を取り、食堂で食事をしていた。
「うーん、さすがに範囲拡張魔法やスキルで効果範囲が1km超えたのは自分でもアレかなぁ、って思うけど、回復魔法とかはそもそも範囲魔法だから届けば治るよ」
アナスタシアは自分のやったことがどれだけの事か自覚していなかった。
回復魔法にも段階があり、治せる傷の程度や、範囲回復で有れば、範囲の広さや回復させた人数で治せる程度が変化する事を。本来なら個人、いや、部分回復と、範囲回復では消費魔力や効果が違う事を。
アナスタシアの職種、魔導師が魔法系職の上位職であるため、はじめから全ての制限が解除されていた事を。
「土砂だってあんな風には出来ないんだけどね、普通の人間には」
少年が呆れ顔で呟く。
「あー。でも、流石に建物とかは直せなくて逃げて来ちゃったけど、あの村の人たち、怒ってないかな…」
おそらく村の方だと思われる方角を見ながら呟くアナスタシア。
「いや、感謝する事はあっても怒る事はないと思うよ」
「だと良いんだけど…」
流石にずるずる音を立てたりはしないが、スープパスタを蕎麦かうどんみたいに食べるアナスタシア。早速貴族の子女とは思えない食べ方だが、ここは庶民の宿なのでその方が目立たないかもしれない。
他の客達の会話が耳に止まり、口からパスタを垂らしたままアナスタシアが動きを止めた。
「どうやら今度は聖女様が現れて、そこここで奇跡を起こしてくださっているらしい」
「魔王に続いて今度は聖女様か」
「聖女様の降臨はありがたい事だが、聖女様が現れるって事は、やはり…」
「そうだな、平和な時代に聖女様が現れた事も無くはないらしいが…」
「聖女様はやはり神殿の巫女からか?」
「いや、どこかの貴族の出じゃないかともっぱらの噂だ。黒衣で黒いマントを纏っていたらしい」
「ぶふっ」
少年が吹き出した。
「な、ななななななな」
アナスタシアがプルプル震えている。
「なんですとーっ」
最後に叫んで終わるのやりたかったの(オ