3-28 悪役令嬢救出作戦
エミリアがアナスタシアを助けに行く回
幼い頃、ドラゴンを見た。
ペンキを塗りたくった様な一面水色の空に、身体の大きさに見合わぬ小さな羽で優雅に空を渡って行く。今でもはっきりと思い出せるが、あまりにも非現実的な光景に幻でも見たのではないかと思うこともある。
その日、偶然王都の商業エリアの外れにある大きな広場を訪れると言う父親に付いて来て、広場までは連れていけないと言うので、近くの宿の窓から空を眺めていたのは運命だろうか。一緒にいた兄は見なかったと言う。
とても長い時間だった気もするが、ほんの一瞬だった気もする。
それから6年、再び不思議な存在と出会う事になる。
銀色の髪にライトグレーの瞳の妖精が私の前に現れたのだ。彼女は人の姿をしてはいたが、とても美しく、しかも不思議な力を使う。本人は隠しているつもりの様だったが、とても同じ人間とは思えなかった。
さらに彼女は私が母親から受け継いだ宝剣についても何か心当たりがある様でアドバイスをくれた。おそらくそれは正しいのだと、私にもハッキリと分かった。
「あれ? アナスタシア様は?」
マーガレットの声に、それぞれが周りを伺う。
確かにアナスタシアの姿が見当たらない。
皆が慌て出す中、落ち着いた様子でエミリアがアーニャに歩み寄る。
「貴方の主人はどこ?」
「なんの事でしょうか」
「隠しても無駄よ。あの人に何かあったら貴方がそんなに落ち着いていられるわけがないもの」
「………」
「それで、私がお嬢様の居場所を知っていた場合、どうなさるつもりですか?」
「そうね、迎えに行こうかと思っているわ」
「迎えに、ですか?」
「そうよ。私があの人に何かしてあげられるとは思えないもの…」
エミリアは遠い目をしつつも落胆はしていない。
「………そうですね。迎えに…」
相変わらず皆アーニャの表情は読み取れなかったが、何かほっとした様な雰囲気を感じた。
「でしたら私もご一緒しますわ」
「私も」
ラダとマーガレットも手を上げる。
「それで良いかしら?」
ハリスや護衛の騎士たちに尋ねる。
「もちろん」
ハリスも乗り気の様だ。
しばらくしてやって来た2台の馬車に乗り込む。
1台は子供たちと護衛の騎士2人、もう一台に残りの騎士と侍女達だ。
本来なら侍女が子供たちと一緒に乗り移動中の世話をするところだが、万が一を考えて騎士が乗った。
アーニャは御者の隣に座る。御者も砦の場所は知っていたが気持ちの問題だろう。
馬車は一旦街を出る。防衛の観点からこの街にショートカットするコースは無いのだ。
街を出て大きく迂回して橋を渡る。この橋も有事には閉鎖できる様に持ち上がるタイプの橋だ。
気は焦るがこの街に他の道はない。空でも飛ばない限り到着はそう変わらないはずだ。
森の中の道をしばらく進むと馬車が止まった。
道が蛇行している為おそらく向こうからは見えないが、城砦のものと思われる建物の一部が見えた。
馬車を降り、砦がギリギリ見えない辺りまで近寄って待つ事にした。
少しして、砦の中が騒がしくなるのが分かった。おそらく屋上だろう。男たちの悲鳴が響き渡る。
「どうする?」
ハリスがみんなに、特にエミリアに確認した。
だがエミリアには届かなかった様だ。
エミリアがハリスの言葉を聞いていないなどと言うことは今までなかった。
ただ事ではないことを感じ取った。
その時、エミリアの頭の中に直接話しかける声がしていたのだった。
『真王の血を継ぐ姫よ、我が友を救って欲しい』
なに? 友? アナスタシアの事?
『そうだ、アレは強大な力を秘めてはいるが、脆く儚い。お前の力が必要だ』
そんな事を言われても、私もそんな力は無いわよ
『そうでは無い。手を差し伸べてやるだけで良いのだ。そこまでの道を切り開く力は我が貸そう』
どうすれば良い?
『なに、お前は既に手にしているだろう、我がお前の一族に託した力を…』
………
隠れ気味に様子を伺っていた集団からエミリアが抜け出し、ズカズカと道を進んでいく。
何かを感じ取った一同は固唾を飲んで見守った。
腰に佩た剣の柄を握り、後ろの仲間たちには聞こえない声で呟く。
「我を助けよ、我が名はエミリア=フォン=カールシュタイナー」
ガチャリと音がしてソードを吊り下げていたパーツが外れた。手にした剣を掲げると鞘を付けたままのレイピアの様だった剣に光の刃が被さり、ロングソードの様な外観になった。
物凄い力が溢れ出す。
おそらくこのまま振るっただけで砦を丸ごと吹き飛ばせる様な力だ。
と同時にエミリアの中からも今まで感じたことがない様な破壊衝動が湧き上がる。
全てを破壊したい。
剣がブルブルと振動し出す。
「はああああああああ」
エミリアが気合を入れて剣を振るう。一閃、砦の壁に人が通れるぐらいの穴を開ける。
光はそのまま砦を貫通して向こうの壁まで破壊した様だが、城砦ごと消滅させるには至らなかった。
「全てを破壊するとかダメに決まってるじゃない。私は光の魔法を使う聖女様なんでしょう?」
言葉は聞こえなかったが、剣が何か答えた気がした。
ドラゴンが人に与えた伝説の光の魔剣。その力が正式にエミリアのものとなった瞬間であった。
「行きましょう」
振り向いてみんなを呼ぶ。
「アナスタシア=フォン=バーンシュタインを迎えに」
エミリアのとおちゃんは何者なんすかね、ほんと(オ
エミリアの剣は王家に伝わる宝剣ですが、誰も抜くことが出来なかったので眉唾扱いされて、エミリアに渡されましたが、まあ、抜けないよねって言うアレ。
もうちょっと劇的にしたかったけど、私の表現力が足りませんでした。
皆さんの脳内で補完してね(オ




