3-14 悪役令嬢 VS 王子様
王子様と戦う回です
「これは一体どう言う事でしょうか、殿下」
「この状況でそんなセリフが吐けるなんて、本当に面白い女だよ、君は」
貴族の子息達が怪しい洞窟へと入っていこうとしたため、こっそり護衛していた騎士達と一悶着あったが、結局押し切られる形で中へと侵入することとなった。
たいして起伏もない明るい林の中に突如現れた人が普通に侵入できる規模の洞窟を何と呼べば良いのかすら分からないが、それすらも魔物の巣だから、と言ってしまえばそれまでだろうか。一行は洞窟と呼ぶには足元も良く湿気も少ない穴に侵入して行った。
「魔物云々よりもまずいんじゃないかしら、この洞穴…」
エミリアが背中を丸めてアナスタシアに縋り付くように歩いている。
「大丈夫ですよ、きっと」
この穴の正体を知っている唯一の人間であるアナスタシアは余裕顔だ。
魔物も居る事は居るがどうとでもなるようにしてある。
それより、一番怖いのは先ほどからいやらしく目配せをしている少年たちの方だろうか。
当然と言えば当然だが、嫌な予想は悪い方へ的中する。
洞窟内で魔物とエンカウントしたその時、少年たちが動いた。
わざとグループが分裂するように動いたことにより、アナスタシアは王子やその取り巻きと突き当たりにある少し開けた空間へと追いやられてしまう。出口の狭くなったあたりには見張りの少年が立っている。
「こんななりですが、私は魔物ではありませんよ」
この世界でのアナスタシアはこちらの両親の面影があるとは言え、やはり美しい銀色の髪の美少女だ。
「そんなつもりはないよ。ただ、ゲームをしようじゃないか。他の連中が来るまで生きていたら君の勝ちだ」
王子が嫌らしい笑みを浮かべる。
「あら、私が勝ったら何を頂けるのかしら」
「その心配はないよ。はじめから君に勝ち目のないゲームだからね」
アナスタシアの軽口に王子が剣を抜く。
「だが、そうだな。記念に君を剥製にして僕の秘密の部屋に飾ってあげよう。本当は中身にしか興味ないんだけどね」
縦に振り下ろされた剣を軽く横に体をひねりながら躱す。
少年の剣にしては鋭い。そしておそらく人を切った事がある剣だ。
「なるほど、それで殿下には婚約者がいらっしゃらないわけですか」
「君は察しがいいな」
横に振り抜いた剣を一歩下がって躱す。
「だが、その察しの良さは違う使い方をするべきだったな」
次の攻撃を踏み込んで躱す。王子の攻撃とは反対側に回り込んだ。
ひらりひらりと巧みに攻撃を躱していくので、傍目にはあまり凄い動きをしているようには見えなかった。
「ひとつ、断っておきますが…」
そう言って横にスッと移動すると、王子の胸にウィリアムの剣が突き刺さった。
「私、後ろにも目がありますのよ」
ウィリアムに顔を向けて、ふふっと笑うアナスタシア。
「う、うわあああああ」
ウィリアムが慌てて剣を引き抜いて後ずさる。
王子はそのまま倒れ込む。即死だ。
アナスタシアが誘導して急所に一撃が入るように持って行ったのだ。
そんな事はアナスタシア以外には想像も付かない事だが。
「どうした!」
「な、何があった?!」
騎士達が駆け込んできたのを見てとっさに剣を鞘に納めるウィリアムになかなかやるなと感心する。
「こ、この女が、その短剣で殿下の胸を刺した」
アナスタシアを指差して叫んだ。
側で見ていた少年たちも同意する。とっさにそこまで出来るのは大したものだ。
「本当か?」
騎士の問いに肩を竦めるアナスタシア。
「流石にそれは不敬に当たるのではないかしら? 王子がこんな物で刺されて死んだなどと…」
アナスタシアは腰に下げた短剣を抜いて見せる。
りっぱな、どこかの家の家宝と言われれば信じてしまいそうな造りに反して、刀身に見立てたそれは革で出来ていた。
「な、なんだって…」
それを見たウィリアムの顔が青を通り越して真っ白になっている。
「なぜそんな嘘をついた。話を聞かせ…」
「うわあああああああああ」
突如ウィリアムは叫びながら話しかけた騎士や周りの少年を押しのけて走り去った。
騎士の1人が後を追っていく。
入れ違いにエミリアが駆け寄って来た。
「大丈夫? 何があったの?」
アナスタシアの手を取る。
エミリアは騎士のそばにいたので危害を加えられたり面倒な目にあったりはしていないはずだ。
アナスタシアがそうなる様に位置どりをした。
「大丈夫です。どうやら殿下は魔物狩りではなく、マンハントがしたかったみたいですね」
「みたいですねって…」
足元に転がる王子の遺体を見ると、騎士が状態を確認している。
エミリアの視線に気がつき首を横に振る。
「帰りましょう。送ってくださる?」
騎士に護衛を頼むアナスタシア。
呆然として動けなくなっている少年たちを無視してエミリアの手を引き出口に向かった。
「くそっ、なんでこんな事に」
林の中を走り続けた。
追跡して来ていた騎士は上手く撒けたようだ。
「あの女、あの女さえいなければ、あの頭のおかしい王子に取り入って美味しい思いが出来たのに、いや、出来ていたのに。全部、全部、あの女のせいだ。くそうっ」
自分の異常さは棚に置いて死んだ王子を馬鹿にし、アナスタシアへの恨みを募らせるウィリアムだった。
なんかこう、アッサリしてしまう悪い癖が(単に書けないだけと言う




