2-23 馬
馬に乗らない騎士はなんとかって言うのはなんのネタだったか忘れましたが、馬を用意する回
砦は牛に突入されて壁を破壊されていたが、だいぶ応急措置が終わっていた。
瓦礫を積み上げたり、命の魔法で土砂を積み上げて穴を塞いだ程度だが。
何故か砦内の城のような建物の壁を破壊して来た牛だったが、城壁自体に損傷は見られなかった。
砦から森まではかなりの距離が荒地になっていて、森自体二つに別れていると言って良いほど広い道になっていて見通しはいい。
見張り台からたくさんの馬が向かってくるのが見えたが様子がおかしい。
そう、馬が向かってくるのだ。
人が乗っている馬は疎らで放牧した馬を誘導しているような動きだった。
だが、それにしては馬具を付けている馬ばかりなのだ。
「何だお前ら」
砦の門は閉じたまま見張り台の上から声を掛ける。
「俺たちは冒険者だ。白いマントの魔女に頼まれて馬を届けにきた」
「ちきしょう、なんで急に戦争なんて…」
アナスタシア達が泊まっている古い砦から王都に向かって2日ほどの街が敵の部隊の接近に備えて準備をしていた。
「西隣の何とか言う国とはもともと仲が悪かったらしいぜ」
「西って、つまり王都は既にやられたって事か?」
「おそらくな」
この世界も魔物がいるために各街はたいてい城壁のような壁や堀で囲まれているのが普通だ。
流石に戦争の装備で押し寄せてくる軍隊には少々心許ないが。
「よーし、十分に引きつけてから射てよ」
指揮官らしき男が塀の上や見張り台の上の兵士や冒険者に指示をだす。
それぞれ弓やボウガンを構えている。
本来なら冒険者は国に属さず、戦争には参加しない場合が多いが、今回は突然の侵略で相手の動きが分からないこともあって街にいたほとんどの冒険者が防衛に手を貸していた。一応、ギルドを通した依頼という形だ。
達人の弓矢は風に乗って数キロ先まで届くというが、普通の兵士の射程距離は100mにも満たない場合が多いだろう。敵の騎兵が迫る。
「結構な数じゃねえか」
「騎兵だけでも50は居ねえか?」
塀の上の冒険者が息を飲むと、どこからかバサバサと布が風に煽られる音が聞こえる。
「悪いが、攻撃するのは待ってくれないか。馬が欲しい」
正面の門の上に白基調の服に白いマントを纏った人物が舞い降りた。
「無茶を言うな、この状況で騎兵だけ射抜くのは無理だ」
指揮官らしき男が怒鳴る。
「私がやるさ」
そう言って門から飛び降りると、ふわりと地面に降り立った。
左手に持った大きな本を翳すと、勝手にページが捲れて足元に光の円が描かれる。
次の瞬間それが一気に広がり敵の足元を通り過ぎた。
ボロボロと馬から落ちる異国の装備を身に付けた兵士たち。
馬もなぜか混乱する様子も見せず落ち着いた様子で街の前のスペースに集まってくる。
「な、なんの手品だ?」
「芝居か何かか?」
「夢、か?」
目の前で起きた光景が信じられず、呆然とする者達に向かって白マントの人物が話しかける。
「冒険者に依頼がしたいのだが…」
「と言うわけなんだが…」
「その人物には心当たりがあるが、こちらもどこの人間なのかも分からん」
「まあ、良いさ。馬を確認して受け取りにサインさえくれれば文句はない」
冒険者の男はそう言って紙を差し出す。
金自体は前払いで既に支払われていて、ギルドに報告するだけらしい。
「馬の数は報告通りだ。半分以上はこの国の馬具だな」
馬の納品を見ていた騎士が声を掛ける。
「そうか」
手続きを終えて冒険者が出発しようとしたところ、間の抜けた声が聞こえてくる。
「ひーん、離して〜」
見ると黒いローブを纏った銀髪の少女が馬に遊ばれている。
袖を噛まれていたのをなんとか離してもらったかと思うと、今度は襟を咥えられている。
振り解いて逃げると肩とか裾を咥えられたり、鼻で突かれたりしている。
「なんで子供がいるんだ?」
「子供…、そうだな…」
「?」
「つい忘れてしまうが、まだ子供だな」
「良く分からんが、まあ良いか。じゃあ、俺たちは街に戻る」
「ああ、ありがとう。助かったよ」
冒険者を見送ると今度は騎兵がやってくるのが見える。
味方の、と言うか王都を守っていたはずの同僚だ。
「我々は1度南下して街道を移動してきたのだが、途中敵騎兵の追撃を受けたところを白いマントを羽織った魔王を名乗る人物に加勢してもらい、いや、加勢などと言う物ではなかったか…。とにかく馬を得てここまでたどり着くことができたのだ」
「そうか、ご苦労だったな」
「王族や為政者の生死は不明。王都は既に制圧されている」
「…」
「ただし、商業区と平民街を制圧しているのは勇者たちだ。状況を見て交渉には応じてくれると言っている。長くはもたんだろうが」
「そうか、勇者は人間同士の争いには加担しないとはじめから宣言していた。市民を守ってくれていると言うだけでも感謝せねばな」
「後は、南の森の巨大ゴーレムはどちらにも加担する気は無いようで、こちらもあまり近くことは出来ないのだが、敵の進行もそれなりに防いでくれているような感じだった」
「その魔王と言うのは、俺たちの味方なのか、それとも…」
「………」
馬が順調に厩舎に納まっていくのを眺めていたアナスタシアが、また後ろから馬にイタズラされていた。
なるべくアナスタシアは加担しないで現地民を働かせる予定だったのですが、手詰まりです




