2-22 盾
メイド回 ラブコメ要素を入れたかったようです…
子供の頃から背が高かった。
肌も白くはなく、髪もくすんだ癖っ毛だった。
姉達は細く小さく綺麗な金色の髪をした美しい娘達だった。
「お前は身体がデカい以外に何の取り柄もないんだから貴人の盾になって死ね」
貧乏男爵家の4女に生まれた私はそんな風に言われてメイドになった。
その頃には平均的な男性と同じ程度の身長とちょっと逞しい体格に育っていた。体格なりの力や体力はあったものの人並みといえば人並み。特別な才能でも有れば騎士にでも成れただろうか。
「なーにが盾になれだ、ふざけんなって話だよなー」
幸にして、そういった事態に直面することもなく、なんとなく話のネタくらいにしかならなかったわけだが。
そう。あの日までは。
私の少々面積が大きすぎる身体は大事な仲間を完全に覆い隠し、見事に救うことが出来たのだ。
「私と違って、リョナなら敵を倒してみんなを救う事が出来るから…。ふふっ、案外悪くないな、こう言うのも」
そんなことを言ったら盛大に泣かれた…。
彼女の持っていたアイテムで見事復活、結果的に私のやったことは最善の結果を生んだ。
でも、散々怒られた。後で。
きっと死ぬまでずっと何かにつけて引き合いに出されるのだろう。それまで付き合いがあればだが。
私はその日、命の恩人が同時に2人出来た。
直接救ってくれた友と、それを実現させる魔道具を作ってくれた異世界からきた勇者様。
私とリョナがアナスタシア様を追うと言うと騎士アナルが同行すると言う。
おそらくアナスタシア様を追っているであろうセフレ殿下の元に行きたいと言う。
なるほど納得な話である。
騎士と言うのも基本的に貴族だが、別に私が媚び諂う必要もなければ、盾になる必要もない。むしろ、彼らが魔物から私たちを守ってくれたりもした。気を失ったリョナを背負う私のために持ってくれていた荷物をこのまま持とうか、とまで言ってくれたりした。ちょっと、いや、かなり嬉しい。
私が見目麗しい淑女だったら、こんな扱いをされるのが普通だったのだろうか。
騎士様達が紳士すぎて勘違いしそうだ。辛い。
瓦礫に腰掛けた騎士アナルを見つけたシリアナが隣に腰掛けた。
「お疲れですか?」
「………」
向けられた視線が熱を帯びているように感じたシリアナが焦って口走る。
「そ、それとも長旅で溜まりました? 抜いて差し上げましょうか?」
やっちまったー、これはないわー
「いや、そう言うのは勘弁してくれ」
騎士が目をそらして答えた。
「ですよね〜、私じゃ逆に勃つモノも勃たないですよね」
ヘラヘラ笑って誤魔化すシリアナ。
考え込んでいた騎士が意を決して顔を向ける。
「むしろ逆だ。こんな状況で口にするのは失礼かと思って我慢していた」
「へ?」
「私は貴方に好意を持っている、と言っている」
「え? でも、私、こんな背だし…」
真剣な眼差しにどう答えて良いか分からなくなるシリアナ。
「身長なら私の方が大きい、と言うか、私にはちょうど良いバランスだと思う」
「身体だって、こんなだし…」
「私には触れただけで壊れそうな人の相手は難しいだろう」
「肌だって…」
「私は気にしないし、貴方が気になると言うなら化粧でも何でもすれば良い…」
シリアナが涙目であわあわ言っているのに気がつく騎士アナル。
「すまん、困らせたかったわけではないのだ」
そう言って立ち去ってしまった。
「………」
1人、瓦礫に腰掛けたまま彼の立ち去った方向を見つめていた。
「どうしました?」
「?! あ、あ、アナスタシア様?!」
今度はシリアナのとなりにアナスタシアが上品に座り顔を覗き込んでくる。
小さくて可愛らしい。
「良かったらお姉さんに話してごらん」
慈愛に満ちた微笑みに一瞬話そうになるシリアナだが。
「…アナスタシア様って14歳ですよね…」
「ちっ」
バレたか、と顔を逸らすアナスタシア。
「『ちっ』? アナスタシア様ってそんなキャラでしたっけ?…」
「14歳ですから」
「…」
「こう言ってはなんですが、この国はもうダメです」
改めて真面目な口調で話始めるアナスタシア。
「…僭越ながら、そう言った発言はお控えになった方が…」
シリアナも座り直して落ち着いて返すとその言葉をアナスタシアに手で制される。
「将来の話ではないのです。王都は既に陥落、さらに騎士の称号がセフレ陛下を君主と認め機能した以上、王家でまともに人を率いる事が出来るのはもはやセフレ陛下だけです」
「!…」
「この国を明け渡すことはないとしても、おそらく元の暮らしはないでしょう」
「…」
「決して後悔のないように…」
「………」
「うーん、アレはアレでありな気もしますが…」
「どうしました?」
何か独り言を言っているアナスタシアにリョナが問いかけながら視線の先を見ると、騎士アナルとシリアナがギクシャクしながらも話をしている様子が見える。
「まるでブリーダーですね…」
「そこまでおこがましくはないと思うんですが」
「私たちは既にアナスタシア様に生かされている存在ですから、それでも良いと思います…」
「そんなことを言っていると、貴方にも適当な男性を押しつけますよ」
「いえ、私は結構です」
そう言うと慌てて離れていくリョナだった。
私に恋愛感情がないので、ラブコメとか難しいです…




