2-16 追跡
主人公がぶらり旅を堪能している間にみんなは苦労している話です
「これだけ探して見つからないと言う事は…」
「と言う事は?…」
「もう、彼女を追い越してしまったのでは?」
「えー」
異世界から召喚された勇者、立花 命はセフレ王女と共に王都を旅立ったアナスタシアを追跡していた。王都を発った事自体は自主的な物だったが、そこには王都を出てから抹殺しようと言う王国側の企みがあった。
アナスタシア抹殺を指示された部隊と接触した際はついに人間と戦わなければならないのかと覚悟もしたが、王女の「あなたたちの主人は誰ですか」と言う一言で解決したのだった。
命令したのは幸いにも王家の人間ではなかった様だった。国王自らの命であれば、流石の王女様の言葉でも止められなかったかもしれないからだ。
正直アナスタシア抹殺の是非を説いても意味がないので命令の破棄だけでその場は収めた。
おそらく王都に戻って騒ぎ立ててもあまり意味がないだろう。
「我々も細心の注意を払って追跡して来ましたが、痕跡すら発見できず…」
追跡のプロである彼らの憔悴しきった様子が捜索の困難さを物語って居た。
「あの人はいったい、どうなっているんだ」
頭を抱える。
「足跡は殆どない、夜営の痕跡もない、目撃者もない…」
「アレだけ目立つアナスタシア様が途中の街で目撃されて居ないと言う事は、まだ、街まで来て居ないのでしょうか」
「もしくは、追跡される事を予知して何らかの手を打っていたか…」
みんな頭を抱えた。
「なんだかやたらと世話になっちまったな」
街の入り口の番人がアナスタシアを見送る。
「いえ、変な物を飲ませちゃってすみません」
「変な物とか言うなよ」
「えへへ」
奥さんに渡した薬を飲んだ様だし、彼が困る事はもうないだろう。
問題があるとすれば御近所さんか。
ベッドが壊れたり床が抜けたとしても、それこそアナスタシアの知ったことではない。
「じゃあ、また縁があったら」
「変な挨拶だな。まあ、縁があったら」
アナスタシアが生まれた世界もこの世界も魔物が徘徊する危険な世界だ。
普通に隣町に行こうとして死ぬものもいる。
一度別れた人と再び会える可能性は必ずしも高くない。
アナスタシアはたまたま近くに来たと言って立ち寄ったから同じ門から出てしまったので、しばらく戻ってそこから街を迂回する事になる。お金には余裕があるから次の街からは変な嘘をつかなくても大丈夫だろう。
隠密度を上げるついでに周囲に探索魔法を放つ。
通常の探索魔法は水平に放つ物だがアナスタシアは空に向かって放つ。
魔法限界高度の10,000mに達した魔力は跳ね返って地上に向かうのだ。
これにより山があろうが谷があろうが問題ないし、通常の探索範囲より遥かに広いエリアを探索できるのだ。
そもそも普通の魔法使いの魔力は10,000mも飛ばないが。
王都でアナスタシアの世話をしていた2人のメイドと騎士が4人、王都を離れアナスタシアやそれを追跡する王女を追っていた。
敵国の侵攻により王城周辺がほぼ壊滅していた。
「私はアナスタシア様の後を追うよ。あんたらは勝手に王都から離れられないだろ?」
アナスタシアの魔道具によって回復した騎士たちが混乱する様子を見て、小さい方のメイドことリョナが宣言した。
「じゃあ私も行こうかな。あんた1人じゃ大した荷物も持てないだろ」
大きい方のメイドことシリアナが同行すると言う。
「…」
騎士の1人がシリアナの声に反応するが少し考えてから、発言する。
「私も同行しよう。殿下は現状を把握していない可能性が高い」
現状を把握しないまま飛び出しても危険だし、何の報告にもならないと言うことで、アナスタシアの置き土産である各種アイテムを持った騎士たちが生き残った者たちを集めて回ったが、戻ってくるのにさほど時間は要らなかった。
本来なら動かすことも出来ない様な重傷だった者が自分で歩いて来ることができたからである。
中級ポーションで酷い怪我、上級ポーションなら骨折などの重傷も即座に回復できるのだ。
「既に王族や宰相ら為政者の姿はなく、反撃するだけの戦力もなしか…」
「では、我々は予定通り殿下の後を追う。残りは勇者と合流して市民を避難させてくれ」
最初に名乗りを上げた騎士を含め4人の騎士とメイド2人が荷物を背負い徒歩で旅立つ。
すでに馬を用意することすら不可能だった。
残った者たちは夜の闇に紛れて王都の中層に篭城していると思われる勇者や彼らが保護している市民と合流する計画だ。
日が傾き暗くなってきていたがむしろおあつらえむきだった。
「その鎧と武器抱えてよく歩けるね」
シリアナが騎士に声をかける。
騎士は全身プレートメイルに武器、大楯を背負ったものもいる。
それに当面の食糧やアイテムなどを入れた袋を担いでいる。
「判断が難しいところだ。この先で装備をそろえられるのかどうか…。もしも足手纏いなら我々は置いて先を急いで欲しい。殿下の身も心配だ」
「今のところ、遅れ気味なのは…」
「…ごめん」
瞬発力はあるが持久力がないリョナが早速ペースダウンしていた。
主人公を出しつつ、一緒にいない人たちの様子を描くのは難しいですね




