2-8 南門の近くの宿
お泊まり回?(微妙に違う
「魔女グッツ持ってきたんだ」
「魔女?」
命の言葉にアナスタシアが首を傾げた。
「子供の頃、言う事ちゃんと聞かないと、魔女の薬を飲ますぞ、って、魔女の薬にはイモリやミミズやカエル、蝙蝠の目玉とか入ってて〜、って脅されたなぁ」
「そんな薬があるんですか?」
「子供に言うこと聞かせるための嘘だよ〜」
「私の周りには子供を騙す風習は無かったですね」
「その言い方されると、なんとなく蛮族感」
「そこまでは言ってねーです」
命が宿の部屋でポーション作成を始めたアナスタシアを見てそんな話になった。
貴族などが泊まる高級な宿なので、ベッドも大きいし、寝室とは別に寛ぐためのリビングがある。
2人部屋だが、アナスタシアのメイド2人も一緒に居ても全然余裕がある大きな部屋なので、リビングの方で道具を広げて作業を始めたのだった。
「ほとんど日課になってるのと、薬草は2〜3日しか保たないのでもったいないから」
下準備した材料を小さな壺みたいな鍋で煮始める。
卓上コンロとか有るわけがないので魔法道具と言う奴だろうか。
むしろ鍋そのものに加熱機能が有るのかも知れない。
「ふーん」
「ポーションに加工してしまえば、1年以上保つらしいですよ」
「でもさあ、アナスタシア様は、怪我とかするの?」
「?」
容器に移された薬液に魔力を付与しつつ命が呟いた。
アナスタシアが首を傾げるとなんでもないと誤魔化した。
ポーションの詰め替えが終わって後は魔力を込めるだけだと言うので、命は風呂に入ってくると言って席をたった。
「シリアナ、リョナ、命様にお湯を用意してあげて」
命がギョッとした気がするが、気がつかな方振りをする。
どうやら、命にはそのままの単語で伝わっているらしい。確認はしないが。
命は自分で頭を拭きながら、アナスタシアが風呂から出てメイド2人に甲斐甲斐しく世話をされているのを眺めている。風呂といっても少量のお湯で身体を洗って拭うような感じなので日本の風呂とはだいぶ違う。1人では大変なのは間違いないが、現代日本的な世界から来た命的には自分だけ裸で服を着たメイドに何かを掃除するかの様に洗ってもらうと言うのは馴染めないのだ。
いっその事シャワーの魔法とか開発出来たら便利かも知れない。いや、タンクを天井近くに吊す事が出来ればシャワーを実現する事自体は可能か。そもそも、シャワーと言う発想がこの世界の人間やアナスタシアには無いのかも知れない。バスタブ自体はそんなに違って見えないから、お湯を作る魔法が出来たら湯船を作ることは出来そうだが、床が抜けるだろうか…。
アナスタシアを眺めながらくだらない事を考えていたら、不審な目で見られた。
「アナスタシア様は貴族って感じだね、まあ、実際そうなんだろうけども」
「?」
「いや、メイドさんに全部任せてる感じが、ね」
「私も相手によっては緊張したり不快に思う事もありますが、この2人はほとんど家族同然なので、特に安心して任せられますね」
「家族、ね」
命の感覚で言う家族は親兄弟、将来的には自分の旦那と子供が家族になるのかな、と言う感じだが、アナスタシアの感覚では血縁者だけでなく、その屋敷で働く使用人まで全て家族になる。家の定義と言うか規模が違うのだ。
ただ、この2人はあくまで他家のメイドなので、アナスタシアの感覚でも本当の家族ではないわけだが。
「あ、でもアナスタシア様のお世話ならしてみたいかも」
「ほえ?」
命のセリフにシリアナがドヤ顔に近い笑顔でニッと笑った。
夜はこの広い部屋に2人で寝る事になる。
もともとそう言うふうに出来ている宿なので、使用人の寝室はそれなりの部屋が用意されているのだ。
その辺も命は馴染めないが、アナスタシアはそう言うものだと思っている。
アナスタシアの場合は冒険者としての生活もあったので、別そう言う宿でメイド達とそう言う宿なりの泊まり方でも全く問題ないのだが。
翌朝、アナスタシアは何か柔らかい物を押し付けられている感触で目を覚ます。
命が抱きついている。
どうしてこう、寝ていると絡まれるのだろうか。アナスタシアがそんな事を考えているとリビング側のドアが開いてメイド2人が入ってくる。
命が驚いて飛び起きる。
アナスタシアに抱きついていたのがバレた。
とかではなく、寝室にいきなり他人が押しかけてくるのに慣れないらしい。
命は自分で着替えて、アナスタシアはメイドに着せ替えて貰っている。
今日はドレスではなくこちらに来た時に着ていたローブだ。
他の連中に合わせるのも面倒なので、朝食は部屋で食べる。
軽食とお茶。
「そう言えば、アナスタシア様はこっちに来た時その格好だったのよね」
「そうですね。向こうではこんな高級じゃ無い宿に泊まってて、部屋から出ようとしたらあそこに繋がってて、気がついた時には戻れなくなってました」
「向こうでは魔法使いとかだったの?」
「まあ、似た様な感じでしたね。魔法使い、と言って良いのか分かりませんが」
上位職の魔導師である。
「えっと、なんだ、こんな事聞くのはアレかもなんだけど…」
「はい?」
「お湯を出す魔法とか出来ないかな」
「ほえ?」
もうちょっとコメディー寄りに出来ないものかと思ったりも




