2-3 書庫
女子会
アナスタシアは城の書庫にいた。
薄暗い、本棚が並ぶ部屋だ。
そしてここはその中でも本来は入ることが出来ないエリア、禁書庫とでも言うのだろうか、だった。
勇者として召喚されたにも関わらず、特に能力もない、と言う事になっているアナスタシアは、勇者の事を調べ自分も〜などともっともらしい事を言って許可を得たのである。まあ、言葉だけではなかったかもしれないが。
この世界の本も羊皮紙がメインで、革の表紙の大きな本が主流だ。
一冊一冊が大きくて重い。
メイドのシリアナが本を運ぶのを手伝ってくれる。
小さく細いアナスタシアには頼れる侍女だ。
同じくメイドのリョナはアナスタシアと背丈も体格も変わらないので、高いところの本を取るなどの作業は不向きだが、必要な本を探したりするのは得意なようで、ちゃんと住み分けがされている。
同時に召喚された3人は高い能力を示したこともあって勇者としての訓練を受けている。
アナスタシアも見学したが運動能力向上+エクストラアーツと呼ばれる必殺技を使用でき、さらに魔法も使えるらしい。男性2人は新たな力を気に入ったらしく嬉々として訓練に励んでいた。
女の子は2人より高い能力値を示したこと自体は悪くはないと言いつつ現状に疑問を抱いているようだった。
「なるほどねぇ」
本を読みながらアナスタシアが独言た。
「何かお分かりになりまして?」
いつの間にか王女の1人が机に向かうアナスタシアの横に立っていた。
「これはこれはセフレ王女。こんなところへお一人ですか?」
王女の名前が言いづらいせいか表情が硬くなってしまった。
「そんなに警戒しないで頂きたいのですが…」
王女が少し悲しそうな顔をしたので、ちょっと反省した。
「私の居た世界にも『勇者召喚』と言う御伽噺はありましたが、それはあくまで魔王討伐という固定された明確な目的が存在していて、それが終われば元の世界へ帰れる、と言う事になっていました」
アナスタシアの話にシリアナの顔が曇る。
「ですが、今回の勇者召喚の目的は王都周辺の魔物討伐、しかも、魔物が根絶やしにされたら帰れるか、と言うと、現在に至るまで繰り返されているところを見ると、その可能性は微妙」
王女の表情が消える。
「そして、召喚された勇者は強力な力を持っていますが、それは元からのものではなく、こちらに召喚された際に何らかの形で付与された力、らしいです。彼ら曰く」
静まり返る中、それに気づかないフリをして本に目を落としたままのアナスタシアが続けた。
「つまり『勇者召喚』とは、異世界から召喚したので問題ありませんよ、と言う体で行われた、魔法による人体改造…。国家による生体兵器製造なのではないですかね」
王女の顔が真っ白になっている。
「勇者召喚は20年から30年に一度行われているようですし、使い捨てなのでしょうね…」
「あ、あの、お父様に、確認…」
そう言って駆け出そうとする王女の手を掴んで引き止める。
「それは、止めてもらえますか?」
アナスタシアは困り顔で微笑んだ。
「あの、あなたはそれで、その…」
「いえ、今言ったのはあくまで仮説ですし…」
混乱する王女とは正反対にアナスタシアは冷静だった。
「あなたは元の世界では公爵家の令嬢だったのでしょう?」
王女が申し訳なさそうにしている。人の上に立つ事になるのだからもうちょっとしっかりした方が良いのでは無いかと心配になるが、お国柄かもしれないし、余計なお世話か。
「お聞きになられましたか。確かにそうですが、これでも私、冒険者でもあるんですよ」
胸に手を当てて背を伸ばし余裕の表情をする。
「冒険者?」
「ダンジョンに潜ったり」
「ダンジョン?!」
「怪物を倒したり」
「怪物を?!」
「悪い貴族を倒したり」
「?!」
「している人たちとパーティーを組んで連れて行ってもらったりしていました」
ちょっと身体をくねらせて戯けて見せる。
「えーっ」
「私の能力値は見たのでしょう?」
「あ、はい。見させていただきました…」
戦闘力は、はっきり言って王女の半分も無かった。
アナスタシアは王女の様子を見ながら楽しそうに微笑んでいる。
「まあ、実を言うと王妃様になるよりも冒険の方が魅力的なのですよ。他の勇者の方々の気持ちは分かりませんが」
「冒険ですか」
「せっかくの異世界ですし、堪能しないと」
「凄いですね、あなたは」
「そうでしょうか。ふふふっ」
「概ね同意」
どいつもこいつも、突然声をかけるのは止めてほしい。気がついていないフリをするのも、急に声をかけられてびっくりするフリをするのも大変だから。そう思いながらアナスタシアが振り返ると、本棚の側面に寄りかかって立つ立花 命の姿があった。
「いつの間に?!」
王女が素で驚いている。
本棚から離れて近づきながら付け加える。
「私らの周りに居る奴らの中には戦争をやりたがっているっぽいやつもちらほら居る気がする」
命は小声で呟く。
今度はパッと離れる。
「で、あんたは何者なんだ? 本当のところ」
アナスタシアに向かって問いかける。
「私は…」
王女が息を飲む音がやけに大きく聞こえる。
「異世界から召喚された勇者ですよ?」
両手を上げて降参のポーズで答えるアナスタシアだった。
お姫様は外観全然考えてないけど、まあ、みんな自分の中で王女様イメージってあるだろうし(




