2-2 謁見
アナスタシア様のかっこいいところを書きたかったのです。たまには
「お身体は大丈夫ですか?」
湯あみをするアナスタシアの身体を洗いながらメイドが尋ねた。
「ええ、もうすっかり」
バスタブに裸で座らされたアナスタシアが答えた。
細くしなやかな身体にまとわりつく銀色の髪が艶かしい。
バスルーム、と言っても防水された部屋では無く、綺麗なお屋敷の一室の真ん中に足の生えたバスタブが置いてあり、メイドが桶や水差しの大きなものにお湯を入れて、と言う形だった。
勇者召喚の儀。
異世界から勇者と呼ばれる存在を呼び寄せる儀式が執り行われ、4人の勇者、いや、3人の勇者と1人の少女が召喚された。3人は同じような世界から来たらしく、見た目の印象も能力も近かったが、アナスタシア1人、明らかに人種も服装も全く別で、その能力はこちらの世界の一般人にすら及ばないものだった。
「私はお世話させていただきますシリアナと申します」
「ごふっ」
背の高いガッシリした体格のメイドが名乗った。メイドと言う仕事も体力が必要な面もあるだろうが、まるで騎士か冒険者ではないかと言うくらい強そうなメイドだ。
アナスタシアは名前を聞いて吹き出したが、幸いにも吹き出したのだとは気がつかれず、返って心配されてしまった。
「ごめんなさい、ちょっと、喉が」
適当な事を言って誤魔化した。
「リョナです」
小さい方のメイドの名前はアナスタシアにはピンとこなかった。
明るくフレンドリーなシリアナに対して、リョナは口数が少なく大人しいタイプのようだ。
勇者として召喚されたにも関わらず、特に能力が確認されなかったアナスタシアは冷遇されていて、付けられたのはメイド2人切りだった。他の3人には大勢のメイドに使用人、護衛の騎士がついている事などこの時のアナスタシアは知らないわけだが。
「シリアナ…、とリョナ、ね」
翻訳スキルのバグだろうか。おそらくこの感じだと尻は尻で通じそうだし、穴は穴で通じそうである。もしかしたら、この世界にも国がいくつもあって、この国から見た外国の名前なのかも知れない。国に寄っては変な名前を付ける事で逆に厄除けになる、と考えて変わった名前を付けるところも有ると聞いたな、などと考えるのだった。
召喚された翌日、国王との謁見があると言う事で、身を清めさせられていたアナスタシアは、化粧やドレスの着付けも全てメイドに任せていた。
「なんだか、慣れてらっしゃるようですけども…」
背の高い方のメイド、シリアナが恐る恐る尋ねる。
「ええ、こう見えて私、公爵家の娘で王太子の婚約者ですので…」
湯あみをするのも、ドレスを着せられるのも、もともとメイド任せだったと言うと、シリアナの顔色が悪くなった。
将来の王妃が異世界に勇者として本人の承諾なしに連れてこられたと言うのだ、心配になるのだろう。当然、異世界の王国から苦情が来ることはないわけだが。
「そ、そうでしたか」
それきり無駄口も叩かずに黙々と支度が進んだ。
メイドに案内されて回廊を歩いていると、他の勇者3人と合流した。
やはりと言うかなんと言うか、3人はアナスタシアよりも仕立ての良い物を着込んでいるように見えた。間違って紛れてしまったとかそう言う扱いなのだろう。
突き当たりが大きな扉になっているところに着くと、メイドたちは廊下の脇に並んで頭を下げた。
ここから先は自分たちだけが入るようだ。
扉の両側に立つ兵士らしき男たちが観音開きの扉を開く。
中は奥に広い広間で、一番奥が高くなっていて玉座らしき物が見える。
玉座周りは無人だが、部屋の両端に貴族と思われる男たちが並び、なにやら話をしている様子が伺えた。
身長190前後と思われるゴリマッチョを先頭に180近い細マッチョ、女性としては長身かつ体格の良い娘が続けて入り、最後は明らかに華奢で身長も低いアナスタシアであった。人種的にアナスタシアは他の3人より大人びて見える顔立ちのはずだったが、それでも1人だけ子供と言う印象だった。
平常心を装いつつも緊張気味な3人に対して軽快な歩みで謁見の間に向かったアナスタシアだったが、部屋に踏み込むと同時に変貌した。
それは高貴な者の姿だった。
1人安っぽいドレスを着せられているはずだが、それすらも美しく煌びやかに見えた。
気高く気品にあふれた所作。言葉では表せない威圧感を放っていた。
すっと背を伸ばし優雅に歩く姿は小さいはずのアナスタシアを大きく見せた。
今の彼女にはその身を守る騎士も、後ろ盾となる家もないと言うのに、謁見の間はまるで戦勝国の使者を招いた敗戦国の様相を呈していた。誰もが押し黙り目を泳がせている。
玉座からだいぶ離れたところ、指示を受けていた場所に4人が横に並び、しばらくすると王族の入場を知らせる声が聞こえる。国王と思しき男を先頭に王妃や王子、王女らしき者が奥の扉から入ってきた。
他の3人が棒立ちの中、カーテシーで国王を迎えたアナスタシア。
王と王妃が椅子に座り、子供たちはその後ろに並んで立った。
段の下、両脇に立った貴族たちの様子がおかしい事を訝しみながらも、アナスタシアに頭を上げるように告げ、国王は優雅な動きで姿勢を正したアナスタシアの迫力に息を詰まらせるのだった。
しばらくの沈黙の後、王がやっとの思いで絞り出すように簡単な挨拶を済ませ、細かい話は宰相に任せると言う事で謁見は終わった。
王家の人とか臣下の人たちとかちゃんと設定決めたら良かったのかもしれないけど、そう言うの苦手なんよな。そう言うのちゃんとしたら話数稼げゲフンゲフン




