第21話 お嬢様を拾う話
あまり良いサブタイトルを思いつかず…
森の中には似合わない貴族の令嬢らしき女の子が倒れていた。
どうやら馬車に轢かれた上で此処に捨てられたらしく、下半身がめちゃめちゃになっていた。
普通に考えたら生きているはずはないんだが、ここはそう言う世界。
「冒険を続けますか?」
「あの、助けてくれてありがとうございます」
女の子の服はボロボロだったので、着替えのシャツを着させた。背徳感。
「いや、俺はたまたま通りがかっただけだから」
「もしかして、神様ですか?」
「いや、俺はただのポーターだ」
「ポーター様?」
女の子が首を傾げる姿が可愛らしい。
「いや、ポーターは仕事の名前、簡単に言えば荷物運びだな。ここは天国でもないし、俺は神様とかではないです」
どうも自分を神か何かと思って崇めようとしているように見える令嬢を必死に説得する。
「そうなんですか。おかしいですね。私は馬車に轢かれて死にかけていたはずなのですが」
立ち上がるとぴょんぴょこ跳ねて見せる。
「うーん。一応秘密にしておいて貰えるとありがたいんだが」
「はい」
「『なんか凄いポーション』を使いました」
「はあ、そうなのですか」
神様より信じられないようだ。
実際、普通に信じられる話ではない。
「とりあえず、お礼をしたいのですが、その『なんか凄いポーション』と言うのはどのくらいの金額の物なのでしょうか…」
「金額か。金額な。聞くところによるとオークションで金貨数千枚とか」
「金貨数千枚?!」
流石のご令嬢も飛び跳ねる金額だ。
「いや、俺は平民だからオークションに参加することも出来ないんだけどな」
「なるほど、確認はしようが無いと言うことですか。ですが、今の私の身体を見る限り、相当な価値である事は間違いなさそうですね」
自分の身体をさすりながら考えている。
「自分に使う予定はないから、まあ、今回みたいな事があった時に持ってて良かった程度にしか考えてないんだ」
「凄いですね…。でも困りました。流石に私にはお支払いできる額ではありませんし、どう恩を返したものか…」
自分の頬に手を当てて困りましたという仕草をする。
「ほんとに大した物じゃないんだがな。そうだ、ちょうど手持ちも無くなったし、いっしょに取りに行くか?」
「よろしいのですか?」
「むしろあんたが良ければって話なんだが」
「ぜひ」
「さて、その格好じゃ困るな」
「そうですね」
裸ワイシャツみたいになっている自分の格好を確認する令嬢。背徳感。
「メニューは使える?」
「めにゅー?」
「こう言うのだ」
男の前に半透明な四角い板が出てくる。
「なんですか、それ。初めてみました」
女の子の服装が男装冒険者のコスプレっぽい格好に変更された。
一旦格納してから装備することによって、体格などに合わせて服が変形するのだ。
「これはこれでアレだな」
背徳感。
「?」
コテンと首を傾げる姿が愛らしい。
「あとは、自分の職業は分かるか?」
「仕事はした事がありませんが」
「いや、そうじゃなくて。って、普通そうなるか。んー、職業って言うか、冒険者適性?みたいなのがあるんだよ」
「冒険者?! 私にもあるんですか?」
なんだか嬉しそうだ。
「メニューの、ステイタスで確認できるはずだ」
「えっと、ブレイバー、らしいです」
「珍しいな。えーっとたしか、ブレイバーは弓だったかな」
手持ちの弓を渡した。
自分では使わなくてもちょっと良いのが出たりするとなんとなく取っておいたりするのは普通だと思うがどうだろうか。メニューなどと呼んでる謎能力で格納する分には嵩張らないし。
アナスタシアが宿屋の食堂で食事をしていると、衛兵のような格好の男達に声をかけられる。
「そこのレディー。申し訳ないがフードを取って顔を見せては貰えないだろうか」
口調は丁寧だが、言っている事は失礼極まりない。
お忍びの貴族とかだったら大問題である。
と言うか、アナスタシアは実際、貴族の令嬢なわけだが。
ああ、でも、長い事逃亡まがいの生活をしているから、家での扱いがどうなっているか分からないわね…
「ナンパには見えませんが、何か問題でも?」
そう言いながらフードを下ろすアナスタシア。
美しい銀色の髪が露わになる。
透き通るような艶やかな肌に、眉毛や長いまつ毛も銀色なので、神秘的な何かに見えてしまう。
食堂に居た他の客達も息を飲む。
「あの?…」
灰色の瞳に吸い込まれそうになって固まっていた衛兵のような格好の男が我に返る。
「し、失礼。…人を、そう、人を探しておりまして、確認させていただいた次第です」
しどろもどろに返事をする男たち。
「そうでしたか。…あまりフードを被ったままと言うのは、よく無いかしら…」
アナスタシアが髪を弄りながら呟く。
後半は話の続きというよりは半分独り言のような感じだった。
「い、いえ、貴方はフードを被っていた方が目立たなくて良いかと思われます」
「そうですか? とりあえず、探し人が見つかると良いですね」
「はっ、ありがとうございます。食事の邪魔をしてすみませんでした。我々はこれで」
男達は焦ったように早歩きで出て行った。
「何か、あったのは間違いなさそうね…」
アナスタシアはフードを被りなおすと食事を再開しつつ聞き耳を立てた。
アナスタシアの情報収集魔法だ。本人は魔法を使っている自覚がないようだが。
他の食事客達も、視線を元に戻すのだった。
わりと1話完結が好きなのですが、こう、つづく、みたいにした方が尺は伸ばせる感。
いや、結局ネタがなければ続かないわけですが…




