第19話 ポーター
前半パートではほとんど活躍しなかったポーターの彼がみんなと別れた後の話になります。
なぜか異世界から召喚された勇者様に助けられ、冒険の旅なんかしていたが俺の本職はポーターだ。
梯子状のフレームに背中が痛くない様に縄を巻いたりクッションを付けハーネスで背負える様にした背負子を担ぎ、冒険者たちの荷物を運ぶのが仕事だ。主に水や食糧に医薬品、入手したアイテムや倒したエネミーから取った素材なんかを運ぶ。
ダンジョンではあまり必要ないが、山や森を探索する場合はテントなんかも運ばないといけないからかなり大変だ。
逆に言えば、ポーターを雇わずに冒険に出れば、それらを背負った上に戦わなければならないわけだ。
とは言え、ポーターは戦えない腰抜けだの、冒険者のおこぼれにあずかろうとする寄生虫だのと言う奴らも多い。
俺は客を選り好みするのでそう言う奴らの相手はしない。
まあ、冒険者のパーティーは5人以上いるのが普通で、何人かそう言う奴が混ざってる場合もあるが、どうも今回のはそれとはちょっと違うっぽいかな。
「何か特にっつーのはあるか?」
出発前の打ち合わせの時だった。
「…」
アーチャーの少女が、俺のことをじっと観察している。
俺が見たまんまの年齢だったら、惚れられたかな?と舞い上がりそうな熱い視線だった。
残念ながら俺はいわゆる転生者と言うやつで、人生2周目だ。
確かに肉体は若く、いろいろ持て余し気味だが、そこまでがっついたりはしない。
「…水と医薬品は魔法使いと僧侶が居るから最低限で構わない」
「おお、それは助かる。水ってやつはそれだけで結構な重量になっちまうからな」
どうやらリーダーの戦士君は彼女の視線を勘違いしたらしく、言葉が刺々しい。
いやー、若いって良いね。つか俺も10代だったな。
だが、職業的な問題があった。
ダンジョンを探索する場合、たいてい先頭は斥候もしくはリーダーの戦士。
ポーターは移動中は後衛の前あたり。戦闘中は後衛の中かその後ろがポジションだ。
例の少女の視線と、リーダー君の視線が複雑に絡み合って居心地が悪い。
俺が彼女に色目を使わないことが分かってくれたのか、リーダー君は自分の実力を見せ付けることでアピールしようと考えたらしいことが探索エリアから伺えたが、あまり無理をするのはいただけない。まあ、いちいち言わないが。
ちょっとキャパオーバーのエネミーの群れを片付けている最中にそいつは来た。
巨大猪に角やらなんやらを追加した様なエネミーだ。体高2m近い。
「くそがーぁっ」
リーダー君が無理やり剣をたたき込んだ。
分かる。分かるが無茶だ。
分厚い皮に剣を弾かれ浮き上がった身体にエネミーの角が突き刺さり、振り払う勢いでそのまま壁に叩きつけられた。
「しゃーねーな。今回は俺にもちーと責任あるからな。特別大サービスだ」
エネミーとリーダー君の間に立ちはだかり腰に刺した2本のナイフを両手で抜いた。
全長30cmほどのナイフだ。どう考えても巨大なエネミーと戦う武器ではない。
だが、この世界にはいくつかのルールがあった。
一部の武器と職業の組み合わせでは、武器の長さは意味を持たない。
そして、剣士系職の持つ武器は決して折れることはなく、その威力は装備者の能力に大きく依存する。
明らかに、弱点を突いたとしても毛皮すら貫けそうもない短いナイフでも、装備者の能力に見合った攻撃力が発揮されるのだ。
突進してくるエネミーをサクサクと切り裂く。
表面しか切れないはずのその攻撃は巨大な猪を葬った。
「…」
少女が険しい目つきでこちらを見ているが、今は先にしないといけない事があるんだ。
「ダメだ、私の魔法では助けられない」
ヒーラーが無念そうに呟いた。
「これを使いな」
ポーションを一つ投げてやる。
「ポーション?」
ヒーラーが不審がる。
「まって、これ、最上級ポーション…」
少女がアイテムの正体を言い当てる。
「正解。首が繋がってれば欠損はおろか装備まで元通りになるって伝説があるヤツだ」
みんな目玉が飛び出すほど驚くのは良いが、早く使ってやれ。
「間違いなかった。あなたは双剣士レベル89…」
「鑑定スキル、か」
「うん…」
話を聞いていた他のメンバーたちも驚いている。
当然だ。レベルキャップを開放して30になるやつも滅多にいない世界で89ってのは、ぶっちゃけ異常だ。
ついでに言うと双剣士と言う職業も、[体力・防御力-20%、素早さ+20%]って言う、普通に考えたらネタ職と言われてもおかしくない設定だ。今の俺なら防御力もそこいらのシールダー以上だが。
「私の鑑定スキルがおかしくなったのかと思った」
「それでちらちら見てたのか」
「ごめんなさい」
「まあ、確かにマナー違反かも知れんが、お前はそのくらいして身を守った方が良い。見た目とかアレだからな」
「…」
おっとセクハラはいかんね。
「そんな事よりさっさとここを片付けて移動しようぜ」
「あ、ポーションの代金はどうしたら良い。正直オレには…」
リーダー君が困っていた。そりゃそうだ。伝説のアイテムで命を救われたんだから。
「出世払いで良いぜ」
「しゅっせ?」
「Sランクパーティーにでもなってがっぽり稼げるようになったら奢ってくれって事さ」
「あ、ああ。努力するよ」
街に帰って解散した後で、声をかけられた。
「なんで双剣士なのにポーターなの?」
「ポーターって言う職業はないんだぜ? みんな本職は戦士とかだ」
「…」
「いや、すまん。オレは戦闘とかあまり好きじゃないけど、冒険は好きなんだ」
「そっか…」
まだなにか言いたげだったが、またな、と言って別れた。
主人公が居ない話とか正直、みたいな事を他人の作品を読みながら言っている割に、この先ほとんど主人公が活躍しないので唸っています…