第17話 旅の終わり
他で書いた魔王を倒した話がベースになっていますが、アナスタシアが暴走する展開にしたので、あちらを読んだ人にも優しい仕様。
荒野に立ち尽くすレイラ。
王国の西側の国境近く、魔王のダンジョンが発生したことで荒れ果てた土地だった。
ダンジョンの中には立ち入らなかったので中の様子は分からない。
やがて金色の髪をツインテールにまとめたリボンを引きちぎると、弱々しい声で呟いた。
「帰ろう…」
魔王のダンジョンに向かうアナスタシア達だったが、その行程は信じられないほど順調だった。
それもそのはず、そもそもこの世界の全てがレベル20前後を基準にしているのだ。
魔王の軍勢も同様だった。多少高難易度に設定されていたところで、たかが知れていた。
レベル80前後の戦士が10人以上、歴代でもトップクラスの能力を持つ聖女。
そして、魔王。
もとい、普通の魔法職のレベルマックスを軽く凌駕した魔導師。
もはや蹂躙である。
ダンジョン内で待っていても変わらないと判断したのか魔王がダンジョンの入り口がある荒野で待ち構えていた。
魔王は人と言うより何か現象のような存在だった事もあり普通の攻撃が効かないと言う一幕も有ったが、戦いは一瞬で終わった。
魔王と共にルークが消滅することによって。
「待って、何? 何が起こったの? ねえ」
アナスタシアがレイラに詰め寄る。
「終わった…、終わったんだ、全部…」
目をそらしたレイラが力なく答えた。
「異世界から召喚された勇者は、魔王が倒されれば帰っていく、と、言われているが、現実は違うんだ。魔王と同質量、性質が正反対の力である勇者をぶつける事によって、魔王を消滅させる、それが勇者召喚の正体だ」
レイラが目を泳がせながら説明する。
「そ、そんな…」
思わず後ずさるアナスタシア
「そうさ、私は知っていた。初めから全部知っていたんだ」
俯いていたレイラが顔を上げ、目を見開いて叫び出した。
「全部知っていて、分かっていて、彼を異世界から呼び寄せ、魔王の元に連れてきたんだよ」
「そんな、それじゃ、私たちのしてきた事は、調子に乗って魔王のダンジョンまで来たのは間違いだったって事?」
「え?」
「この戦いが終わったら、そうしたら、あなた達が笑って暮らせる日が来ると信じてた」
「な、何?」
「みんな、あなたが心から笑って過ごせる日々を願って戦ったのに。こんな事なら…」
アナスタシアが頭を抱える。
後ろで様子を伺っていた仲間達もみんな同じ気持ちらしい事がなんとなく伺えた。
「待って、ねえ…」
レイラが困ってアナスタシアを止めようとしたその時、何かを思いついたアナスタシアがレイラの両腕を掴んで引き寄せる。
「もう一度、彼を呼ぼう」
「え?」
「そうよ、もう一度召喚の儀式をして彼を呼び戻すのよ」
「そ、そんなの、無理だよぅ」
「無理じゃない、やるんだ」
「だって、もし、もしも出来たとしても、そうしたら、魔王が…」
「別に勇者として召喚しなければ良い」
「あうあう」
「召喚には何が必要なの? 魔力? 命? 私の命を使っても良い。聖女のあなたが居れば死んでも復活できるから」
「そんなの、私だって魔力を使い尽くして復活魔法なんて」
「私のバフをかけておけば3分も掛からず完全回復するよ」
必要なのは魔力と生命力の両方だが、儀式に使われたのは特別な魔法回路で王国中からこっそり集められたそれだったと言う。
「我々も、我々の命も提供します」
レイラの護衛部隊だ。
「我々は死んでも殿下を守れる様に一度死んでも復活できるスキルやアイテムを持っています。使ってください」
「私もお嬢様の幸せのためなら命も厭いません」
とソフィーさん。
「俺は1残しで頼むわ」
ソロは冗談めかして。
レイラはあうあう言いながら涙でぐちゃぐちゃになっている。
アナスタシアのブースト魔法で生命力や魔力がさらに強化されていく。
膨大な魔力が渦を巻く中、全員の頭の中に直接声が響く。
『盛り上がっているところ悪いが、ワタシも力を貸そうではないか』
アナスタシアをも凌駕する絶大な力が、上空から降りてきた。
空を覆い隠していた雲を吹き飛ばし、晴天の空から現れたそれは…
ドラゴン。
あの神殿跡に静かにひとつの星が舞い降りた日、レイラの冒険の旅は終止符が打たれた。
異変に気付いた近衛騎士団を中心とした、王国の軍勢が押し寄せてきたのだ。
アナスタシアとアナスタシアを監視している事になっているフェットは、軍勢の先頭に立つ男、アナスタシアの婚約者ラインハルトの接近を確認した直後に逃走。ドラゴンも姿を消した。
アナスタシアの様子を見たドラゴンが2人を連れて転移したようだ。瞬時に姿を消す。
この世界では転移が使える人間はほとんど居ない。人間は。
平民のソロは同行を固辞。
ソロの能力などは確認しなかったのか、特にお咎めなどはなく解放された。
主戦力だったとは思われなかったのだろう。
ぶっちゃけ実際そうは見えないのだ。
レイラはレイラの護衛10名と侍女のソフィーを連れて王都に帰還することとなった。
その後は、異世界からの勇者召喚について頑なに口を閉ざし、再び召喚することも拒否したため、レイラはそのまま軟禁されることとなったのだった。
王都の西に魔王のダンジョンが生まれてわずか1年ほど、彼女にとっては半年ほどの旅路であった。
最終回っぽいけど、まだまだ続くんじゃよ。