アナスタシアちゃんの魔法教室
なんとなくぼーっと魔法の設定とか考えてた時のメモ的なやつをお話っぽくしてみた。
オチは分からない人には分からない感じかも。
かつて世界は魔王を名乗る神の一柱によって滅亡の危機に晒されていました。
創造神の力に嫉妬したそのモノは、この世界を破壊する事で自分の力を示そうとしたのかもしれない。
その力は絶大で、人類では太刀打ちできませんでした。
創造神はこの世界を守りたいと願いながらも手を出す事を躊躇いました。
そのモノもまた、神が作りしこの世界の一部だったからです。
ソレを打ち破ったのは1人の魔法使いでした。
最強の魔法でソレを倒したものの、相討ちになって倒れました。
その身を呈してこの世界を救ったのです。
「その魔法を作った功績で私は魔導師と言う職業を洗礼で賜りました」
「え、魔法を作った功績で魔導師? おかしくないですか?」
職業は子供の頃に受ける洗礼によって与えられる。魔法を作った功績で魔導師になったと言うことならその時点では魔法がなかったと言うことになる。転職という機能もあるが、洗礼で賜るとは言わないだろう。
ちなみに、この世界の洗礼はアナスタシアの後を継いだソフィアが最初の聖女として世界に普及させた魔法システムで、スキルやステータス、アイテムボックスや魔力を貯蔵するタンク、呪文や必殺技の情報を格納する機能などが一括して付与される魔法儀式だ。
「神様には時間という概念がないので、この世界が生み出された遠い昔も、今も、遥かな未来も、意味がないので、例えば今は存在しない魔法が未来で開発されたとしても、何気なく今使えたりする様なことも起こり得るのです」
アナスタシアは前世の記憶を持たないが、魔王を名乗る神と相討ちになって死んだ魔法使いはアナスタシア自身でした。後に来世で自ら生み出す魔法によって世界を救ったのです。それは別に歴史が変わったとかではないのでした。
「なんだか凄いんだか良い加減なんだか…」
「現在の魔法の基礎に関しては、私が直接魔法がない時代まで遡って作って来たのですけどね」
「……?!」
この世界の魔法は神との契約と、それを行使すること。
必要なのは魔法陣などと呼ばれるサインと呪文と呼ばれる契約を行使するための契約文。
一部の例外を除いて契約者はアナスタシアであり、アナスタシアと神が使用を認めた形で他の魔法使いたちは魔法を行使している。ある程度改変も可能になる様に契約を決めたのはアナスタシアと神であり、多少使い方を変えた魔法は存在しても、新たな魔法などはほとんどない。
毎回、魔法陣を描くのは大変なので、魔法陣を登録できる道具、魔道具を作った。
ついでに呪文を代わりに唱えてくれる様にもした。
ところが、これで通じるのはアナスタシアだけだった。
普通の人は神との契約を行使しようにも連絡のつけようがなかったから。
そこで目をつけたのが魔力。
魔力はたまたま人間が魔物と名付けた存在の持つ力だったために魔力と呼ばれているだけで、悪魔や魔族等とは直接は関係がない。魔族も魔法を使うので全くの無関係ではないが。
魔力は神がこの世界を作る際に飛ばした情報伝達のためのエネルギーで、それが物質化したのが魔素。
物質と言っても空気に近いため、余程圧縮しない限り肉眼では見えない。
この魔力には物理世界に干渉する力と、神に連絡を取る電波の役割がある。
つまり、膨大な魔力があれば、直に物理世界に干渉することも可能だが、それはまた別の話。
人間は魔力を扱う能力も蓄える器官も持たないため、魔法によって与えられたストレージを利用する。
魔力タンクは自動的に周囲の魔素を吸引して満タンまで備蓄する。
補助魔法やスキルによって吸引するタイミングや速度などが改善されるが、初期は就寝時に取り込みほぼ一晩掛かる。これにより、1日に使える魔法の回数に制限が出来るわけだが、レベルを上げスキルなどを取ることによって、常時回復したり、極端な話、魔法を使用している最中に回復し、すぐに次の魔法を使える様にすらなる。
「この蓄えた魔力を断続的に放出することで信号として神に契約の行使を要請するのです」
「なるほどーってさっきから魔物の大群と戦っていると言う自覚あります?」
「そう言うあなたも話に付き合う余裕があるようですが…」
その時、巨大なゴブリンの亜種がアナスタシアを強かに殴った。丸太の様な棍棒で。
「?!!」
吹き飛んだのはゴブリンの方だった。
「少なくとも私は全耐性300あるので、攻撃されたくらいではなんともなりませんので」
通常、攻撃耐性は多くても50までだ。
特殊なユニークスキルがあるものがたまに50を超える程度。
それでも全耐性などと言うことはなかった。
「300って何?」
「攻撃耐性が100を超えると受けたダメージ分回復し、200を超えると受けたダメージを反射します」
「それって…」
「ほぼ無敵ですね」
「………」
「ちなみに、対人限定ですが、敵対した相手に自動で手持ちのデバフをかける、と言うユニークスキルがあるので、相手が人間であれば攻撃を受けるまもなく敵対した時点で相手は能力低下+状態異常フルコースで死にます」
「………」
「それで、魔法を使う場合ですが…」
「え、まだ続くの?」
「まずいですか?」
「いえ、お願いします…」
魔力は魔法で使える様になっているだけなので、魔法使いが頑張ろうが気張ろうが基本的には規定値しか使えないし、使いすぎたからと言ってペナルティーもない。
最初のうちは魔力量を増やそうとか考えてしまいがちだが、魔力はレベルの上昇とともに増えるし、何より、1日2回が4回になったところで大した違いはないので、魔力総量よりもいかに早く回復する様にするかが重要だろう。
使う魔法に関しては、アナスタシアの持つ魔導書は全ての魔法を網羅しているが、一般的な魔法使いの持つ魔道具にセットできる魔法の数は数種類であり、複数の魔道具を持ったところで十数種も扱えれば多い方だろう。
「その限られた魔力と呪文の組み合わせで最適な運用を出来る様に考えて育てるのが理想ですね。例えば、魔力増加呪文、魔力回復時間短縮呪文、攻撃呪文、の3つを基本として、攻撃呪文の消費する魔力をすぐに回復して、複数回攻撃できる様になる組み合わせでスキルを取得する、とか」
「え、スキルポイント、攻撃力と魔力に振っちゃいましたよー」
「罠ですそれ」
「がーん」
「でも、有用なスキルは基礎力を多少上げてからでないと取れないので、これから工夫するで、大丈夫だと思います」
「ほんとですか」
さっきから群がる魔物に魔法を連発出来ているのは、アナスタシアが使った魔力増加フィールド、魔力回復時間短縮フィールド、攻撃力増加フィールドなどのバフフィールドの恩恵だ。
通常のバフは一回とか、効果時間が数秒、とかの制限があるが、アナスタシアのバフフィールドはそこにいるだけで効果がある上に、解除するまでフィールドが維持されるのだった。
もっとも防御フィールドも張ってもらっているため、何もしないで待っていても問題ないのだが。
「ぎゃっ、な、何?!」
突然大地が揺れ、無数の鳥が叫びの様な鳴き声とともに飛び去った。
代わりに空から落ちてきた巨大な何かが土煙を上げる。
「ど、ドラゴン?」
土煙の中から現れたのは、屍の様な巨竜だった。
「ドラゴンゾンビーですね。この世界のドラゴンは不死かつ唯一無二の存在なので、ドラゴンがゾンビ化する、などと言う事はないんですけどね」
「えっと?」
「ドラゴンを模倣した死霊、と言ったところでしょうか。私が作った魔法とは別系列の力で、基本的に魔法無効、と言うことになっています」
「え? そんなのが居るんですか?」
「どうしましょうか。私が倒してしまってはあまり面白くないですよね」
魔物も、それを討伐するために集まっていた騎士や冒険者も阿鼻叫喚で逃げ惑っている。
「面白くなくて良いのでサクッとお願いします」
「そうですか? じゃあまあ、サクッと」
どこからか大きな革表紙の本を取り出し前に翳すと、大きな鎖が引かれる様な重々しい音が鳴り響き、破壊音とともに本の表紙に描かれていた鎖と南京錠が吹き飛んで、天使とも悪魔とも取れるイラストが現れた。
バサっと開いた本のページがバラバラと勝手に捲られながら、光でできた本のページが飛び散って足元に巨大な魔法陣を描き出す。アナスタシアが歌う様に意味不明な呪文を唱え始める。神代語だ。
魔法陣の外周に十二の魔法陣が浮かび上がり、光の柱が並び建つ。
アナスタシアの声が反響するかの様に重なって荘厳な鐘の音の様な響きを生む。
光の柱からもアナスタシアの声がするのだ。
この世界にはいくつかの魔法があるとされているが、基本的に神を介して精霊に働きかけ、物理現象を引き起こすに過ぎない。だが、アナスタシアのこれはそうでは無かった。
奇跡。
神がそう有れと示した通りに世界が改変される。
そう、理由も理屈もなく、アナスタシアのために敵を消滅させるのだ。
「………」
「はい。サクッと」
「サクッと、でしたね」
「あ、今のは魔法とはちょっと違うので〜」
「そですか」
「なんとかなったみたい、ですかね」
「…貴方なら簡単に収拾つけられたんですよね?」
「そうですね。でも、私がこの辺りを守り続けられるわけではないので、ここの人たちに頑張ってもらうしかないので。と言いつつかなり余計なこともしましたが…」
「余計、ではない、と、思います…、たぶん」
貴方自身が神様とかなのでは、と言いたかったがやめておいた。
言ったところで意味はなさそうだったからだ。
神がこの世界を作り出すのは、これから1万年と2千年ほど先の事だった。
一緒にいたのはたまたま知り合った魔法使い初心者です。この世界の初期職業はほぼ戦士なので、たぶん何かの都合で転職したばかりの魔法使いちゃんと知り合ったとかそんな感じかな。