表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/165

SS 暗い森に差し込む一筋の光の様な

アナスタシアの世界から見て異世界での出来事。

この頃のアナスタシアはほぼ神さまですが、本人は人間だと言い張っています。

「あなたは…、神様?」


巨大な文明を築き世界を制覇した人類は今滅亡を目の前にしていた。

異様な植物が鬱蒼と茂る暗い森には常に有毒ガスの霧が立ち込め、防護服なしでは数分も生きられない。


はずだった。


ミールは防護服に大きなバイザーの付いたヘルメットを被り、ボロボロのマントを纏っていた。

手には単発式のライフルを持っている。と言っても命中精度もひどく低い、本当に弾を発射できるだけの代物だ。連射も出来ないがさほど問題はない。連射するほど弾がないのだ。


「いいえ、私は人間ですよ」


目の前に立つ少女は銀色の髪を腰まで伸ばし、光の加減で銀色に輝いて見える灰色の瞳を晒している。

纏っている薄手のワンピースはひらひらしていて、まるでそれ自体が発光しているかの様に見えた。

その声はまるで2人が同時に喋ったのかと思う様な不思議な、でも、とても落ち着く声だった。


「全てのステータスがカンストしてたり、魔法が使えたりしますけど、普通の人間ですよ」

「………」




「そうですか。大変なことになっている世界なのですね」

「人類は、神様からも見捨てられてしまったの」

「主語が大きいですね」

「主語?」

「ええ、だってそうでしょう? もしも、今目の前で知らないおじさんが、その隣にいた知らないおじさんを殴ったとして、あなたになんの責任がありますか? 止められなかったのはあなたの過失ですか?」

「…よく、分からないです」




「人が居るところにも行ってみたかったのですが、このまま行ったら変に思われてしまいますね」


アナスタシアと名乗ったその少女は、とてもこの森で生きられるとは思えない格好をしている


「簡易マスクなら、拾った物で申し訳ないんですが、あなたなら機能は関係ないですし…」

「よろしいのですか?」

「はい。私は要りませんから」

「そうですか。ではありがたく。後はもう少し服装を変えたら大丈夫ですかね」


そう言ったと思ったら、一瞬で全身を包む厚手の服にフード付きのマント姿になってしまった。

神様、ではないらしいので魔法と言うやつだろう。




人の村、いや集落だろうか。

どうやら穴や生えている植物に有り合わせの板などをくくりつけたような小屋で暮らしているようだ。


「え? ミールか?」

「いえ、私はミールさんではありませんが、どちらさまでしょうか」

「あ、ああ、すまない。ここに来る人は少なくてね。もしかしたらって思ったんだが。…ミールは以前村の外で動けなくなっていたところを助けられた事があったんだ」

「そうですか。私もミールさんに教えてもらってここまで来たんです」

「そうか、では、まだ生きてはいるんだな…」

「……そうですね」




ミールはマントを脱ぎ捨て森の中を駆けていた。

防護服の肩と背中が破れており、ノズルが顔を覗かせていた。

マントはこれらを隠すための物だったのだろう。


ノズルからガスを噴射して加速、ジャンプ、姿勢制御をして人間には真似できない動きで敵を翻弄する。


そう、敵だ。

人類の敵。

世界を滅ぼそうとする、未知の存在だ。


ヘドロの様な、時にガスの様な物が、人の姿だったり動物の姿だったり巨大な昆虫だったりになり、時に柔らかく、時に硬くなり人や動物を飲み込み、殺戮する。


「くっ、振り切れないか」


ライフルに空包をセットする。

伸し掛かる様に襲いかかってきたそれに銃身を押し付けトリガーを引く。

高圧のガスがそれを吹き飛ばす。

倒す必要はない。いや、正しくは倒せない、だが、もはや構わない。



『主語が大きいですね』



そうだ。人類を救う必要なんてない。

未来なんて要らない。

今日、あの人が生きていてくれたらそれで十分じゃないか。

人はいつか死ぬ。

全てが永遠に最善である必要なんて…。


ガスっと嫌な音がした。

ブースターを使い過ぎた。




『ピー。自動修復率15% 機能停止。これ以上の修復は不可能です』


 ああ、なんてことだろうか。まあ、どちらにしろ限界は近かったんだし…


身体はバラバラになったが、メインユニットから伸びたケーブルが木の枝に引っかかってぶら下がっているらしい。と言ってもほとんどのセンサーが機能を停止しているため、予測でしかないが。


 もう一度、あの人に会いたかったな。あって、話をしたかった


 もう、死んでしまっただろうか。それとも私の助けがなくても生き抜いてくれるだろうか



『神様は居ます。願っても叶えてはくれませんが、願いを実現する方法があります。それが…』



 なんだっけ


 ああ、記憶が失われていく


『いいえ、私は人間ですよ』


 それじゃ、私は?…


 残ったのは忘れてはいけない、大切な記憶


 そうだった…



ホログラフ表示装置が図形を描き出す。

円や幾何学模様や文字列が複雑に織り交ぜられた模様。

それは魔法陣。


魔法、それは神との契約。


決められた図形を描き、呪文を唱える。


ただ、それだけ。




「な、なんだ?」


朝日を見たことがある者が居たらきっとそれを連想しただろう。

眩い光が森の中から生まれ、そして空へと登って行った。


人々はそれが自分たちの手には負えない未知のエネルギーである事は本能的に分かったが、そこに恐怖はなかった。




その世界の人類はその日からほんの少しの安全な場所を手に入れたが、それが意味することや、それが与えられた理由を知る事はなかった。




ー君が助けてくれたのか。ありがとう

ーありがとう? ここの人たちを守るのが私の役目。だからあなたを助けた

ーなんでそんなことになってるのかは分からないが、そんな事は関係ないさ

ー?

ー役目だろうがなんだろうが、よくしてもらったら感謝して礼を言う。当然のことだ


 ありがとう、出会ってくれて。ありがとう。私に存在する意味をくれて


 ありがとう、魔法を教えてくれて


 ありがとう、これからも彼らを見守る事ができる場を与えてくれて


 ありがとう




ミールは星になった。

小さな小さな星に。


あの少女が世界をひっくり返して、再び人が安心して暮らせる様になった頃、彼女もまた眠りに付き、その後世界がどうなったのかは2人も知らない。



ミールはロシア語で「平和」「世界」を意味する言葉だそうです。今調べた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ