SS 精霊のいない国
4章のエルフの森周りのお話と言うかネーアのSSですね
「今日も朝が来てしまったのね…」
ここは森の中の小さな小屋の中。朝と言うには少々遅い時間だが仕方がない。窓から見えるのは木と、枝葉の隙間から見えるわずかな空だけなのだから。森と言ったが雑木林と言った方が良いかもしれない。それほど広い森ではなかった。
ネーアの一族は森と共に生きる種族で、本来は家名の代わりに森の名前を名乗っていたが、今はその名を失っていた。森の象徴である世界樹がネーアが生まれるよりも前に失われていたからだ。
世界樹、とは言うが実際には樹ではない。いや、むしろ物質ですらなく、神そのものとも言われていた。ある日、霞むように消えていったそうだ。
彼女は幼い頃から寝たきりで今もベッドの中だ。
彼女の一族は精霊と契約する事で魔法を使う一族で、実は普段の生活も精霊の加護を必要としていた。世界樹を失った森からは精霊の気配が消え、新たに契約を結ぶ事が出来なくなった。
世界樹の消滅よりも後に生まれたネーアは精霊と契約する事が出来なかったのだ。
「おはよう、ネーア、調子はどう?」
いつもネーアの面倒を見ているセーヤが様子を見に来てくれた。セーヤは一族が使う精霊魔法とは別の魔法を使う事が出来た。それによって精霊の気配が薄いこの世界でも普通に活動できるらしい。この森もセーヤの張った結界のおかげで維持されている。詳しい事情は分からないがセーヤ以外の一族の人間はこの結界の外では暮らせないらしい。もともとあまり村を離れない人たちなので理解してもらえないとぼやいていた。
他の助けがなければ生きられないネーアとは正反対に、みんなを守り維持しているのだ。
ネーアがまだ小さい頃は他の者も足繁くこの小屋を訪ねてきていた。
彼女はこの森でもっとも若い、と言うか最後に生まれた子供だったから。
淡い恋心を抱いたこともあった。
だが、彼女が成長するにしたがって、若い娘の部屋に入り浸るのはどうかと言う事になり、1人、また1人と離れて行った。今ではここを訪れるのは馴染みの女性数人だけだ。
「新しいデバイスを持ってきたよ。タブレットの操作も大変だって言ってたからねぇ」
「それは?」
「フルダイブVR用のデバイスだよ。装着すると脳の信号を変換してくれる。手で持ったりする必要がないんだ」
「ふーん」
フルダイブバーチャルリアリティー。全身の神経をバイパスして、身体には偽の信号を送る事で、身体は動かさずにVR空間をリアルのように動き回る事ができる技術だ。
だが、その技術はあまりにもリアル過ぎた。物心付いた頃から寝たきりのネーアはほとんど運動した事がない。バーチャルの世界で人並みの筋力を手に入れても自由に動かせるだけの経験が無かったのだ。怪我や病気の人がするような本格的なリハビリを行えば自由に動けるようになったかもしれないが、ネーアにそれをなすほどの気力も、そう言うサービスも無かった。
だから、セーヤに一緒にやろうと誘われたゲームも始めは生返事しかしなかった。
それでも1人の時間に気まぐれでアクセスしたそのゲームは経験を必要としなかった。
放っておいても勝手に立っているし、前に進みたいと思えば前に進む。
これまでにない感覚だった。フルダイブVRだけど、ゲームなのだ。しかもコントローラーは要らない。
ロビーからフィールドに出ると幽体離脱した。自分のキャラクターが普通にうろうろしている。まるで自分の分身が健康になって歩き回っているようでちょっとうれしくなった。
しばらくうろついていると、知らない人に絡まれた。
ここは剣と魔法の世界だ。絡まれる、つまり攻撃まである。
驚いていたら、純白のコスチュームを身に纏った銀髪の美しい少女に助けられた。
先ほどの連中はPK、プレイヤーキラーだと言う。他の弱い人を攻撃することを楽しむ変態なのだと言う。この世界ではそれはそれで自由なのだ。ここはそう言う世界。
そして彼女はPKをキルするPKKで有名になってしまい、彼女をターゲットにするPKKKに狙われているらしい。
人の業というやつか。多分違う。
せっかくだからと彼女にあちこち連れて行ってもらった。不思議な感覚がある。VRらしからぬシステムであるはずなのに、それでいて、現実でもあまり感じたことのない感覚がネーアの全身を包んだ。
精霊の気配。
それはネーアが手に入れることの出来なかった、何よりも求めていた感覚だった。
そして、目の前を歩き、道案内をしてくれている少女から感じるのは世界樹の気配だ。
いや、ネーア本人は両方とも直に感じたことはない。
ただ、なんとなくそう思ったのだった。
本編の世界の魔法はあくまで精霊主体なので、なんか設定が破綻してますけども、一応、ここは別世界なのでその辺のルールも多少違うと言うことで(オ
アナスタシアの気配が世界樹に似ていると言うだけで、別にアナスタシアが世界樹の1柱と言うわけではありません