SS 旅の途中
旅の途中で巻き込まれた、ちょっとした事件の顛末
「見たところ、貴族の馬車とそれを襲う野盗に見えるのだが」
「なんだ貴様!」
問い掛けたのは2人の冒険者だ。
長身の剣士とローブを着た小柄な少女。
返事は質問で返されたが、即座に別の答えがあった。
「見られたからには生かしてはおけん。殺せ」
「分かりやすい返答でありがたい」
馬車を襲っていた野盗と思われる集団が剣士に襲いかかる。
少女の方には気がついてもいない。気配を消しているのだ。
旅の途中、この国の王都に向かう道を歩いていると、林を抜ける道で騒ぎに遭遇した。
「野盗の様ですが、手を貸しても良いですか?」
「構いませんよ。私は手を出さない方が良いですかね」
「そうですね」
と言う感じで一応、状況確認しようと話しかけたところ戦闘になったのだ。
10人ほどの男たちの内4人ほどが襲いかかる。
「汚い格好をしているが、騎士か何かですか」
「何者だ、貴様」
そもそも我流で身に付けた動きではなさそうだし、連携も取れている。
根っからの野盗や冒険者崩れと言う動きではない。
剣で斬りかかられたので抜剣する。
同時に2人の攻撃がせまり、剣で逸らしながら1人に斬りつける。
直後後ろから襲い掛かられるが左足を斜めに引いて身体の向きを変えて攻撃を躱し、その流れで後ろから来た敵を斬りつける。
次々と襲いかかる野盗を捌くのに手一杯と言う風を装いつつ馬車の側に移動して、どさくさに紛れて馬車を攻撃しようとする者たちを蹴り飛ばす。
半分を切った辺でバラバラに逃走しだした。道を戻る者、2人が来た方に逃げる者、林の中に逃れようとする者…。
「もう大丈夫だと思いますよ」
馬車の中に声をかける。
少女が怪我をした護衛と御者に回復魔法をかけた。
「助かりました」
馬車の中から出てきたのは高貴な雰囲気の青年とその従者と思われる者たちだった。
「いや、こちらは不用意に声をかけたら襲われたので撃退しただけですから」
「なんとも不思議な御仁ですね」
話を聞くと、彼は王位継承権を持つ王子だが、他の継承権保持者に命を狙われているのだと言う。
今度、決闘で王位を決める予定だが、その前に消そうと言う魂胆ではないだろうかと言う事だった。
「その決闘というのは本人でなければならないのですか?」
「当日私も行かねばなりませんが、戦うのは代理でも構いません。と言うか向こうの代理はこの国の勇者です…」
「勇者ですか。面白いですね」
「おもしろくは…」
「良ければ私にやらせては貰えませんか?」
「は?」
と言う事で揃ってこの国の王都を目指す。
途中幾度か攻撃を受けたがなんなく排除された。
むしろ楽しんでいる様で、万が一の場合も彼女の魔法が有ればまず危険はないので、などと言っていた。
決闘当日。
王都にあるコロシアムで行われる。
「なるほど、ハンデ戦と言うわけか…」
戦うステージがある場所に続く部屋に武器の類が並んでいる。
あまり良い質の武器はない様だが持ち込みは不可だと言われた。
「ではあえてコレを選ぼう」
剣士が選んだのは造りは悪くなさそうだが銅で作られた剣だった。
部屋を出て観客席から見下ろされたステージに立つ。
背後にこちら側の王子とその向かいつまり正面におそらくは相手側の王子らしき人物とその取り巻きが見える。
右側に居るのが現国王と重鎮達だろうか。
反対側の通路からフル武装の剣士が現れた。
おそらく魔法で強化された上に装備者を強化する魔法のかけられた鎧をまとい、背中にはこれまた魔法の気配がある大剣を背負っている。
「くっくっく、貧乏くじを引いたな。大人しくしていれば苦しまずに死なせてやろう」
「どうやら本当に外れを引いたらしい。勇者と戦えると聞いて期待したのだが…」
「なんだと?! この期に及んで負け惜しみとは馬鹿なやつだ。死ね!」
絶対的有利を確信した勇者が大剣で斬りかかる。
剣士は銅の剣で迎え撃つ。
剣が合わさった瞬間、ガシャンと間の抜けた音と共に砕け散った。
大剣が。
「なにーっ?! 魔法で強度も攻撃力も限界まで強化した剣が砕けただと? な、なんだその剣はー!!」
「お前達が用意してくれた銅の剣だが?」
「ふ、ふざけるな、そんなはずがあるかっ」
この世界にはいくつかのルールがあった。
真の戦士が持つ剣は決して折れることはなく、その攻撃力は使用者の力に依存するのだ。
※便宜上戦士と呼んだが、彼のジョブは剣聖である。
「そんなことより、早く手を再生しないと出血多量で死ぬぞ?」
「は?」
見ると勇者の両手は切り落とされており血が滴り落ちていた。
「うっ、うわああああ」
「どうした? 勇者なら魔法が使えるだろう?…」
「し、死ぬ、た、助け、て」
「…そもそも勇者ですら無かったか。残念だったな」
その時、観客席の相手側王子と思われる人物が何か指示を出した。
勇者の出てきた通路から、人型の巨大な何かが現れた。
手に丸太を棍棒の様に持ったトロールだ。
ドスドスと地面を揺らしながら剣士に向かったトロールが丸太を降り下ろす。
いや、振り下ろそうとしたが腕がポロリと落ちた。
剣士が切り落としたのだが、もこもこと肉が盛り上がり見ている間に腕を再生してしまった。
「私がやりましょうか?」
「そうですね。倒せない相手ではありませんが、時間の無駄ですし」
小柄な少女がいつの間にか剣士の隣に居た。
もしかすると初めからいたのかもしれない。
少女はどこかから大きな革の本を取り出して翳す。
最初の方のページが勝手に開いたかと思うとトロールが光出した。実際には無数の魔法陣を光が描き出しているのだが、密集しすぎていてトロールが光って見えるのだ。
「【着火】(×40兆)」
一瞬にして白い灰になったトロールだったそれが風に舞う。
全ての細胞を同時に燃やしたのだ。初級魔法【着火】で。
「ば、化物かっ、そ、その女を殺せ!!」
観客席にいた相手側の王子と思われる人物が少女を示して叫んだ。
次の瞬間にバタバタと人が崩れ落ちる様にして倒れた。
少女のユニークスキルだ。敵対した人間にデバフをかける。
麻痺、毒、能力低下、回復疎外、etc. 一つ一つは本来大した物ではないはずだが、そのレベルが尽くあり得ないほどの高レベルで、普通の人間はほぼ即死なのだった。
「ちょっと大事になりすぎてしまってすみません」
「いえ、確かに大変なことにはなりましたが、むしろ有り難いです。何かお礼をさせてもらえませんか?」
「では、書庫があったら見せてもらえますか? そのための旅なので」
終わり
最強ヒロインとほぼ最強ヒーローでお話を作るのは大変なのです(