5-26 王国ですか
本日2回目の更新かな?
「こんにちわ、陛下」
「あ、レイラ様。酷いですよぉ〜」
「いきなりね」
「あの木は大丈夫なのかしら」
山の方を見上げながらレイラが呟いた。
街の東、王国の中央にある山の頂上から空に一筋の線が伸びている。
どこまで続くかも定かでない線にしか見えないそれは、先日アナスタシアが植えた木だ。
植えたと言うか、奇跡によってそこに発生させた、のだが。
もはや距離を取っても、どこまで伸びているのか分からなかった。
空を覆う様に何かが広がっている気がするが、日が陰る様な事はない。
「大丈夫、あの木は心の綺麗な人にしか…」
「そう言うのは良いから」
「むう」
話を途中で切られてしまったアナスタシアが口を尖らす。
「誰にでも見えるってわけじゃないのは本当。あと、かなり強力な結界が張られているから、そんじょそこらの人間では悪さ出来ないでしょうね。たぶん」
「たぶんって」
「少なくとも私1人では無理」
「アナスタシア様が無理なら、ほぼ間違いないわね…」
神気を帯びた事により神界と繋がりを持ち、そこから神の力を取り込み、世界中のダンジョンとも繋がった事で魔力も集めているため、もはやこの世界にありながら神にすら匹敵する、ドラゴン等と同等の力を持つ存在になっていた。
「この世界の住人が嫌われる様なことでもしない限り、私たちが死んだ後もずっとこの世界を見守っていてくれる、んじゃないかな…」
「それは難しいところね…」
新しく生まれ出た未知の存在を仰ぎ見る2人だった。
「毎日美味しいものが食べられて、王城の書庫の本が読み放題、何か間違ってましたか?」
「いえ、その通りですけどぉ」
この涙目でレイラに苦情を言うピンク色の髪をした美少女はレイラやアナスタシアに騙されて王位に付いた現国王、ヘンリエッタ女王だ。ここは女王の執務室。本来はアナスタシアやレイラでも軽々しく入れるところでは無いのだが、色々誤魔化して潜入している。
「本日は王家に伝わる秘宝の剣をお持ちしました」
アナスタシアが恭しく細いレイピアの様な剣を差し出す。
「アナスタシア様もいらしてたんですね。て言うか、それ伝わってないですよね」
「ふふふ、分かってしまいましたか。ようやく見つけ出して来ました」
「またそう言う…」
そう言いつつ受け取った剣は細い鞘に入ったレイピアの様に見えるが、抜ける気配はない。
腰に佩く為の紐が付いた金具が取り付けられている。
「この剣はドラゴンが自ら鱗を変化させて作った剣で精霊の加護が施されているので…、そうですね、さすがに神殺しまでは適いませんが、マテリアルボディーを破壊して物質界から追い返せるくらいの力はあるので、もしも貴方に難癖付けるものがいたら、これでやっつけちゃえば良いと思います」
「神を撃退って…。そんなの私なんかに持たせて大丈夫なんですか?」
「いいえ、順番が逆です。これを持っていても問題ない様に王位についていただきました。正当継承者である貴方に…」
「前にも聞きましたけど、なんでそんなに自信満々なんですか?」
「見れば分かります」
「分かりませんよ…」
微笑むアナスタシアを訝しむ女王だった。
「貴方達も陛下の事を頼みますね」
「出来れば貴方様も城で大人しくしていて頂きたいのですが」
「私はもう王族ではありませんからね」
レイラが声をかけたのは、レイラの護衛を務めていた騎士のうちの1人だ。
10人の内、2人が王城に務めていて、2人が辺境伯として国境付近に領地を構え、残りも3人ずつそれらの地で国防に当たっている。レベル99、伝説にもそうそう現れないほどの騎士達である。彼らが国境を守っている限り、余程の事がなければ攻め入られる事はないだろう。
むしろ、勇者に聖女、大賢者、それにドラゴンの加護を受けし王女にレベルカンスト騎士が10人居ますなどと言う事が正確に隣国に伝わった日には逆にその力を恐れて連合を組んで攻め込んできかねないので、対外的にはその辺はボカしている。
少なくとも現状ではこちらが余程余計な事でもしない限り、他国といざこざになる事はないだろう。
「本当に、なんで私なんでしょうか。と言うか、どうして私で良いのでしょうか」
女王が疲れた顔で呟く。
「貴方を選んだのは純粋に私が見ていて楽しいからですが…」
「え」
アナスタシアの爆弾発言。
「…この国は、魔王のダンジョンが発生した際に大きな被害を受けたのですが、その際の被害の大半は仲間割れでした。王を追い落とし権力を握ろうとする者、実際に実力行使に出て殺害に及ぶ者まで出ました」
「こわっ」
「その後、さらに王太子となったラインハルトの王太子妃をめぐる派閥争いなどで、やはり色々ありまして…。最終的にはその辺の争いに勝利した者達も、先王の凶行によって多数が権力を失いました」
「えっと、それって…」
「そうです。この国の貴族はもはやほとんど残されていないのです」
「ええええっ」
「貴方にはこの国の象徴になって欲しいんです」
その為に優秀な騎士と大臣をアナスタシアとレイラが配置した。
もちろん、元の地位にあった時の人脈を利用してだ。
「無理だと思います」
「そう言うのは良いので」
「ええええええ」
突然登場して面倒に巻き込まれる女王様。
いったい誰なんですかね(