5-21 西の荒野ですか
本日2度目です
「ダンジョンがあるのに寂れたままなんですね」
国境付近は荒れ果てた荒野のままだった。
あの日もここに来たのはルークとレイラとソフィー、それにアナスタシアだ。
勇者パーティーと魔王との戦いが行われているとの報告を受けてラインハルトが駆けつけた時にはすべて終わっていた。
「ここは強力な魔物や魔族が出る割にアイテムとかはほとんど手に入らないとかで、冒険者もあまり訪れないみたいですね」
メアリーが教えてくれる。そう言った一般的な知識についてはメアリーの方が詳しい。
この世界はレベル20前後が普通で、30を超えると英雄の領域などと呼ばれるくらいのレベル帯であり、魔王のダンジョンはレベル40でどうにかギリギリと言った難易度になっていた。従って、ラインハルトやメアリーくらいの戦闘力を持った冒険者なり騎士でも集団でどうにか攻略できるかどうか、と言うところなのだ。
ちなみにほとんどの仲間は他の高レベル者と一緒にダンジョン攻略をしているうちにレベル29から30へのレベルキャップを開放したパワーレベリングだが、ルークとラインハルトは自力で突破したある意味本物の英雄だ。
現在のレベルはラインハルトとメアリーとソフィーとリリィがレベル30台、ルークやレイラ、ソロが90台、最近は他所で活動している元レイラ親衛隊がカンストであるレベル99だ。アナスタシアと違って上位職への転職が出来た者は今のところ居ない。ちなみにアナスタシアは大賢者レベル99だ。
「あの日、私がくる前に光の速度で逃走したそうですね。あの時は本当に残念でした。ひと目お会いしたかった…」
ラインハルトが珍しく苦情めいたことを言う。
光の速さどころか瞬間移動で逃げていた。
「あの、あれは、その…」
アナスタシアは返事に困って狼狽てしまう。
婚約者と笑って会うには色々とありすぎた。
別に浮気をしていたとか心変わりをしたとかではないが。
今だって、こうやってラインハルトから歩み寄ってくれなければ会話もできないだろう。
その婚約自体解消されたと言うか消滅した現在、余計に顔を合わせづらいわけだが。
「あ、来たのね。仕事の方は大丈夫?」
「一通り片付けてきたぜ。なんか最近面倒な事件が多いみたいだが」
魔王討伐のもう1人の立役者、ソロが現れた。
近くまでリリィにユニークスキルで運んでもらったので拠点にしている家のある街から一瞬で到着だ。
アナスタシア的にはナイスタイミング、である。
王都を迂回して西の荒野まで馬車で普通に来たら一月ぐらい掛かるだろうか。
「こっちもネクロマンサーが暴れたりゴブリンの群れが出たりしたよ」
ルークが答えた。
「私の方もゴブリンは手伝いましたね」
アナスタシアは変な理由で絡まれたりしていたが、いつも通りなので気にしていなかった。
「久しぶりに冒険らしい冒険になりそうなダンジョンだが、非戦闘員のお嬢さん方はどうする?」
ソフィーとサラとリリィは基本的に戦闘しない。
リリィの戦力はダンジョン内では使いにくい。
もちろん、戦わないから居なくて良いとはならないわけだが。
「わ、私もご一緒します」
ただ1人思案していたサラが同行を表明したことで、全員で行くこととなった。
死の恐怖に抗って同行を決意したサラには申し訳ないが、アナスタシアの魔法で、おそらく魔族に殴られようが魔法で焼かれようが怪我一つしないだろう。変に勘違いすると後で面倒がある戦闘員とは違うので全力の補助魔法がかけられているのだ。
荒野に踏み入ると魔物が襲ってくる。
ダンジョン自体は地下だが、この辺りもダンジョンのエリアに入るのかもしれない。
荒野は国境の向こう側にある森の手前まで続いており、真ん中より少し西側が高くなっていて、崖の様になっており、そこに洞窟の様な物が見えている。おそらく、それが魔王のダンジョンと呼ばれたソレの入り口なのだろう。
普段はあまり戦闘に参加しないレイラが嬉々として聖なる光の槍を飛ばしている。
聖女の神聖術は悪霊とか魔物などに対して高い攻撃力を発揮するのだ。
「………」
「アナスタシア様は戦うのが好きですか?」
寂しそうにしているアナスタシアにラインハルトが話しかける。
「…そう言えば、私は戦うのが嫌い…だった…はずですね…」
「…私は、戦うのが好きです」
「え?」
「貴方を守るのために戦えるのは至上の喜びですし、戦う姿を貴方に見てもらって、カッコいいと思ってもらえたら良いなと思ったりします」
「あ、あの、それは…」
「貴方は居てくれるだけで良いんです」
「え?」
「もし私たちだけでは太刀打ちできない様な敵が立ち塞がったりしたのであれば、手を貸して頂ければありがたいですが、貴方は無理に戦わなくて良いのです」
「そう、なんですか、ね…」
「そうです。貴方は存在しているだけで尊いのですから」
両手を取って見つめられて真っ赤になるアナスタシア。
自分の手を包み込む大きな手が熱いくらい暖かい。
「え、お、あ、う、い…」
2人の様子に気がついたレイラがムフーっと言いながら光の槍を飛ばした。
たびたびレベルがどうとか書くわりに、あまりしっかり考えてないので、間違えてたらすみません