5-10 海を臨む丘ですか
本日3回目?の更新になります。
「護衛を依頼とは言ったものの、そちらは…」
「ああ、こいつらも冒険者仲間だから気にしなくて良いぜ」
ラインハルトとルークはいかにも軽装備の冒険者と言うスタイルだが、アナスタシアは金糸の飾りの入った上等そうな黒のローブを着た銀髪の令嬢、レイラに至ってはどう見ても侍女を連れてお忍びで出て来てしまった白いワンピース姿の金髪の令嬢。
ソフィーは完全に侍女だ。むしろここまで完璧な侍女も珍しいほどの侍女だ。そもそも王女付きの侍女だから然もありなん。
傍から見ると冒険者に扮した騎士と冒険者の護衛2人を付けた令嬢2人とその侍女と荷物持ちにしか見えない。
メアリーはソロがただの荷物持ちではないことを知っているが。
「あと、これは俺の奴隷」
リリィの肩を抱くようにして紹介する。奴隷と言う扱い方には見えない。
「………奴隷、ですか」
一応、奴隷を示す腕輪をしてはいるが、仕立ての良い服を着て髪も綺麗にしているため、普通の平民より見た目は良いくらいだ。ただし、リリィの顔立ちは異国の人間と言う感じで、こちらの人間には美人には見えない。
だが、ソロにとっては馴染みのある顔立ちの美少女に見える。それもそのはず、ソロは日本人の転生者であり、リリィは本人も覚えていないほど小さな頃にこちらの世界に渡って来た転移者だ。そのせいか無限倉庫と言うチートスキルを持っている。
ちなみに奴隷を示す腕輪は魔法のアイテムで開放することも可能だが、ソロにリリィの状態を知らせたり、逸れた際に呼び寄せる機能がついていて便利なのでそのままにしている。この国の法律的に腕輪を外しても奴隷は奴隷として扱われるため対外的に何も変わらないし、余計面倒が増えるからと言うのもあるが。
「…主に夜のお相手をさせていただいています」
「えっ…」
リリィの発言にメアリーは目を見開いて口を開けて驚いている。貴族の令嬢にあるまじき顔になっているので侍女のサラに怒られた。
「変な言い方すんな」
「すみません」
ソロもリリィに注意する。何も間違った事は言っていないが。
リリィの無限に荷物をしまえるスキルは便利だが、あまり人前では使えないので仕事には利用されていなかった。
「とりあえず、続きは移動しながらでも」
「そうだな」
奴隷をそう言う目的で買う男が居るのは知っていたが、女の趣味がちょっと特殊な事にショックを受けるメアリーだった。だがそこは貴族の娘なので切り替えも速かった。
「今更ですが、なかなか凄いパーティーになってしまいましたね」
「そうですね」
アナスタシアとレイラだ。
メアリーはピンク色のドレスを着た令嬢、サラはエプロンなどはしていないがいかにも侍女と言ったワンピースだ。
華奢な令嬢3人、侍女2人、護衛2人に荷物持ちと奴隷…。
不心得者から見たら格好の餌食だ。
だが、その正体はメイドのサラを除く全員が英雄の領域と呼ばれるレベル30超えのドリームパーティーだ。アナスタシア以外のメンバーだけでも世界を征服できるくらいの戦力だったりする。
リリィはレベルが高いだけの非戦闘員だが、所持しているゴーレムが軍隊をも凌駕する戦闘力だったりする。
「アナスタシア様が居るのに盗賊が襲ってくるのはどうしてなの?」
みんなに聞こえないように小声でルークが尋ねる。
アナスタシアにはアナスタシアに敵意を向けた人間にデバフを自動でかけると言うチートスキルがある。アナスタシアのレベルアップに伴って強化されたデバフは相手を即死させるほどの威力があるため、狙われても襲われる事はまずないのだ。
「認識疎外の魔法を使っているので、そもそも私に敵意を向けられないの」
「あー、そう言う事なのか」
こそこそ話す2人の様子にレイラの機嫌が悪くなって来たので話を終了した。
メアリー達と合流した街を出て数日。木々の隙間から光る物が見えるようになって来た。
「海ですか?」
「海ですね」
森を抜けると海を臨む高台に出た。
「ここもアナスタシアと言う名の少女にまつわる伝説が残る土地ですね」
メアリーが語り出す。
「この丘がですか?」
「ここもですが、あの海もそうです」
現在の王国は東西に広い土地を持ち、中央より西に王都を構えている。
その王国建国前にあった国は南北に広い土地を持ち、この辺りに王都を構えていたと言う。
そして、その南側、現在海になっている場所に魔王のダンジョンが現れた。
大陸は魔王とその配下である魔族、魔物たちに蹂躙され人類は滅亡の危機に瀕していた。
「それを、強大な魔法でダンジョンごと消滅させたのが、大魔法使いアナスタシア様だったと言われています。一説によれば大聖堂に用意されていた古の儀式を使ったとかなんとか。実際にはアナスタシア様を含むほとんどの方が亡くなったらしいので、真相は分かりませんが…」
「そんな、魔法で大地をえぐり海に沈めるなんて、どれだけの魔力が…」
侍女のサラはメアリーの語る伝説に否定的だ。
「魔法とはそもそも神との契約。必要なのは契約とそれを行使するための儀式…。本来そこに限界などは存在しない…」
アナスタシアが呟いた。
微妙に本編と繋がってたりしますので、良かったらそちらも読んでね(ここだけ読んでる人が居るか分かりませんが