5-3 冒険者ギルドですか
「私、冒険者ギルドって3回目くらいです」
アナスタシアが楽しそうに先頭を歩いている。
ここは田舎の街のメインストリート。
街路樹の立ち並ぶ道だ。
「生活費とかはどうしていたんですか?」
少し距離を開けて歩くラインハルトが尋ねる。
アナスタシアを追ってきた彼だが、紳士だ。必要以上に近づいたりはしない。
「教会で闇ヒーラーとかしてましたね、最初の頃は」
違法である。
「それは教会への寄付をネコババ…」
「あっ!」
慌てて目を逸らすアナスタシアが可愛い。
「べ、べべべ別に必要以上に取ったりはしていませんよ、ええ」
言い訳を始めたアナスタシアにラインハルトが目を細めて微笑むと、透き通る様な白い肌が見る見る赤くなって行く。
「まあ、貴方が女神みたいなものですし…」
「や、止めてください、そう言うの」
手をブンブン振って止めようとする。
「アナスタシア様ってあんなキャラだったか?」
後ろから付いてきていたソロがルークやレイラに聞く。
「良いですね、乙女ですね」
レイラが楽しそうだ。
そう言うレイラもルークにべったりなわけだが。
ここは王国の中央にある山の麓にある田舎街。規模はそれなりに大きいが、王都もそれほど遠く無いため、こちらに拠点を構えるものは意外と少なかった。
街の南北にダンジョンがあり、東は山、西に耕作地帯が広がり、一次産業が盛んだ。
街の中央に向かうと役所などが集まったエリアがあり、その外れにあるのが冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドは街の行政と密接に関係しているが、あまり綺麗では無い冒険者や、モンスターの死骸を抱えたポーターなどが出入りするので端にあるのだ。
逆に言えば正面にあるのが冒険者ギルド、と言えなくも無い。
「あれ? ここは随分と雰囲気が違いますね」
中に入ってすぐのところでアナスタシアが見渡して呟く。
「ここは酒場が別になっているタイプですね」
冒険者ギルドは、場所によっては荒くれ者が集まり酒浸りだったりするので、綺麗な所と荒れた所の差が大きい。
「こんにちは。ラインハルトと申します。しばらくこの街に滞在することになったのでご挨拶に伺いました」
ラインハルトが受付嬢に滞在報告をする。Aランク冒険者は危険なエネミーなどが出没した際に討伐に参加する義務があるので所在をある程度ハッキリさせておいた方が便利なのだ。ルール的に義務にはなっているが、むしろそう言う仕事を待っている者がほとんどだが。
もちろん、ラインハルトも冒険者をしているのはアナスタシアを守れる男になりたいと言う目標から来ているので、危険なモンスターどんとこいである。
「Aランク冒険者のラインハルトさん?! ちょうどお願いしたい案件がございますー」
受付嬢が興奮して依頼書を用意した。
ラインハルトが受付を終えて連れのところに戻ろうとすると、人が集まっていた。
「ちょっとソロ、最近サボりすぎじゃ無いの?」
「今度ポーターを依頼したいのですが…」
「今度お酒でも…」
「え?パーティー組んだの? 言ってよー」
ソロが女性冒険者に囲まれていた。
「どうしてくれようか」
「リリィに言いつけてもあの子はアレだし」
アナスタシアとレイラの目が座っており、どす黒いオーラが上っている。
リリィはソロをご主人様だと思っているので、ソロに対して怒ったりはしないのだ。
「あ、あの、ラインハルト様ですか?」
ソロの様子を眺めていたラインハルトに冒険者が話しかけた。
褐色の肌に栗色髪の女冒険者だ。妖精の様なアナスタシアとは対照的に健康的な印象だ。
服装も革鎧にズボンにブーツと地味だがしっかり冒険者している。
「え? ああ、そうだが」
「お初にお目にかかります。私は冒険者のレベッカと申します、えっと、一応Bランクです。お噂はかねがね伺っております…」
興奮して捲し立ててくる。
レベッカと名乗った冒険者ごしに向こうを見るとアナスタシアが目を剥いて昼間の猫の様な顔をしている。
「討伐隊に参加されるのですよね? ご一緒させてください」
「あ、いや、おそらく参加はすると思うが仲間に相談してからになるから…」
「え?仲間ですか? あ、ああ…」
いつの間にかみんなでラインハルトの方を見ていた。
レベッカ視線だとそこにいるのは
どこかのお嬢様2人
その侍女
低ランクの剣士
ポーター
と言うメンバーで、つまりラインハルトはどこかのお嬢様の物見遊山のお供をしているのだろうと考えた様だ。
実際には
大賢者
史上最強の勇者
史上最強の聖女
最強の双剣士
下手な戦士より強い侍女
で、Aランク冒険者のラインハルトがおまけなのだが。
相談の結果、主にラインハルトが戦うと言う事で、モンスター討伐隊に参加する事になった。
表向きの職業的には
Aランク冒険者、剣士ラインハルト
Cランク冒険者、戦士ルーク
Cランク冒険者、ポーターソロ
Fランク冒険者、回復師アナスタシア
Fランク冒険者、神官レイラ
と言う構成になった。
侍女のソフィーさんは途中まで付き添いと言う事にして最後までついていくと言う計画になった。
よくよく考えたら途中においていく方が危ないのでは? とか言って誤魔化す予定だ。
山菜を取ったり狩りをしたり、ダンジョンでアイテムを拾ってくるような仕事を一次産業に入れて良いのか迷ったのですが、調べてもよく分からなかったので気にしないでください(頭悪い