第12話 ハンター
聖女VS聖女(嘘
まばらに木が生える草原が見渡せる林の中にいくつかの人影があった。
「いくつか仕掛けてありますが、獲物の風上になるところにある臭い袋を壊します」
男が弓で茂みに設置された油紙と皮でできた玉を射抜く。
白っぽい粉の様なものが巻き散らかされる。
「アレは?」
アナスタシアが矢を射った男に尋ねる。
「アレは発情したメスの臭いに似た成分が混ざっていると言われている粉です」
「…」
しばらくすると、風下から雄の鹿が現れて、茂みに近づいていく。
「男ってやつは…」
アナスタシアが呆れ気味に呟く。
バレない様に近づきつつ、弓を引く。
放った矢が光を纏い鹿の心臓を貫いた。
「これは、真似できないわね…」
「本来は加熱すると無効になる毒を使った毒矢などを使いますが、私にはコレがあるので」
「あー」
それはそうよね、と納得するアナスタシアたちだった。
「なんか、一気に大所帯になっちゃったな」
ルークが呟いた。
「そうね」
「俺、ルーク、しばさん、姫さん、姫さんの従者が4人で、8人か」
ソロが数える。
「姫さんとはなんだ、姫さんとは」
レイラが反応する。
それはそうだ、普通だったらその場で処刑ものだ。
「いや、冒険者ネーム? まさかこの団体に本物のお姫様が混ざってると思うやつは居ねえべ?」
「そ、そうかの?」
実際には一応外も歩ける、ぐらいのドレスにブーツ。あからさまに普通ではない鍛え抜かれた騎士の様な冒険者と、おそらく下級貴族出のメイドを連れた少女だ。
これほど怪しい冒険者はそうそういない。
「…実はもう1人いるんだけど」
アナスタシアの言葉に、みんな「え?」っと言うが、その中に聴きなれない声が混ざっていた。
「お気づきでしたか…」
木の影から弓を背負った男が現れた。
「うおっ」
みんなが驚いて仰反る中、アナスタシアがさらっと答える。
「分かるわよ、丸見えだもの」
「いやいやいや」
アナスタシアは魔導書を手にしてから常時探査魔法が発動しているが、自分が探査していることに気づいていなかった。
「探索斥候のプロ、フェットよ」
アナスタシアが紹介する。
アナスタシアの実家の家来らしい。
「いえ、猟師ですが」
「似た様なものでしょ?」
「…ええ、まあ、必要に応じて人も魔物も狩りますが」
「…」
密偵とかじゃないか、と思ったが誰も突っ込まなかった。
むしろ聞かなかったことにしたいのだ。
「で、なに? 姉さんに言われて私を狩りに来た?」
「まさかそんな。私は「監視せよ」と言う命令を受けたので「監視していた」だけです」
「そっ」
アナスタシアは自分に敵意がない事を知っていたが、あえて自分の立場を示す様な態度を取った。
一応、貴族の令嬢なので。
「………」
今日は夜営なのでフェットが狩った鹿の肉が夕食だ。
レイラは脂汗だらだらで目をそらしている。
狩りの様子から解体まで見てしまったのだ。
「大丈夫ですか?」
侍女が心配してパンやスープを勧めている。
「大丈夫、こんなのは慣れよ慣れ」
アナスタシアが肉に齧り付く。
「お嬢様は随分とワイルドになりましたね」
料理担当のフェットが言葉を選びながら話しかける。
一応今は冒険者だし、身元を隠して旅をしているからと言われている。
「さんざんエグい物を見せられてきたからねぇ…」
アナスタシアが遠い目をする。
「見せられたって、空中にいるワイバーンを爆砕させたりしたのは自分じゃないか」
ルークが突っ込む。
「いや、アレは、焦って、間違えて上級爆裂魔法を使ってしまっただけで、事故よ、事故」
ー 間違って上級爆裂魔法? ー
一同、唖然としてしまうが当然のことだろう。
気がついていないのはアナスタシア1人だ。
「ところで、聖女様は何ができるの?」
アナスタシアがレイラに尋ねる。
「い、異世界からの勇者召喚と、あと、神聖魔法、が少し…」
だんだんと声が小さくなってしまう。
ここまでの雑談の内容からレイラは気づいてしまった。
旅の途中で噂に聞いた黒衣の聖女はアナスタシアだ。
街一つ、丸ごと怪我人を回復させたり、地滑りした山を元に戻したり、海辺の街を丸ごと津波から守ったり、どこまでが事実かは分からないが、この女ならやりかねない。
自分の魔法など、無いも同然なのではないか、そう思った。
「そっか、なるほど。勇者召喚はユニークスキルかエクストラアーツ扱いでレベルに関係なく使えたけど、神聖魔法はレベルが低くて初歩の魔法しか使えないってところかな」
アナスタシアが考察を述べる。
「………」
レイラは項垂れてしまう。
「じゃあ、明日からダンジョンでレベル上げからだね」
「え? 私は何も役に立てないんだぞ?」
「だからレベル上げするんでしょ?」
「………」
困り顔でアナスタシアを見上げるレイラ。
自信満々の笑顔で見つめるアナスタシア。
「それとも帰る?」
「いやだ、連れてって、私も強くなりたい」
「まあ、俺も転職したばかりの低レベルだから、よろしく頼むわ」
ソロがレイラに、と言うよりみんなに言った。
「それで良いよね?」
ルークやレイラの従者にも確認して、翌日から近くのダンジョンに向かうことになった。
と言っても、初めからそのつもりだったわけだが。
狩人の人はもうちょっとパーティーメンバーっぽくしたかったんだけど、キャラが立たなかったのでサポートメンバーになりました。サブタイトルがハンターなのに…