4-29 降臨
いよいよ第4章クライマックスです。
第4章最終回はお昼頃に公開する予定です。
げっそりと痩せメガネをかけたソバカスだらけの魔女。
引きずる様に長い漆黒のローブはボロボロで、同じく黒い魔女の帽子を被っている。
青白い手足は骨と皮だけの様に細い。
プレイヤーは真っ暗な部屋でパソコン機材を並べたテーブルの前の椅子に座っている。
普段はここでハッキングやプログラムを開発したりしているのだ。
だが、この部屋もまたバーチャル空間だった。
本当の彼女はベットの上に寝かされたまま。
パソコンを操作する事もままならなかった。
彼女の名前はネフィリニーア。
最も歳若きエルフ、ネーアだ。
彼女は夢を見ていた。
永遠の帝国、自然豊かな精霊の気配溢れるこの世界が実在する。
確かに、明らかなオーバーテクノロジーによって実現されたゲームではあるが、そんな風に考える方が非現実的だ。だが彼女は信じていた。いや、信じたかったのだ。それが事態を悪い方に向かわせてしまった。
ネーアがエターナルエンパイアオンラインを調べる事によって、その技術に着目する組織が出てきてしまったのだ。彼女1人では大したことが出来ず、協力を求めたりもした事があったから当然である。
帝国の中では現実ではまともに歩き回る事も出来ないのに、いや、歩き回ったことすらないのに、願うだけでなんでも出来た。流石に戦闘とかは無理だったが、銀髪の女騎士が彼女をエスコートしてくれた。いろんなところに連れて行ってくれた。小さなアバター越しではあったが、ネーアには幸せな時間だった。
守らなければならない。
どんな手段を使ってでも。
だが、それは彼女1人では不可能だ。
事前に綿密な情報収集を行った。
助けを求めた戦士達は想像を遥かに超える力で戦ってくれてはいるが、防戦一方だ。
地平線から無限に湧き続けるグロテスクな化物達。
彼らの力を最大限に発揮できる様に、準備を積み重ねてきた。
だが、そんな物では到底太刀打ちできない事はネーア自信が一番良く分かっていた事なのかもしれない。
「ああ…」
いつの間にか冒険者達の防衛線を超えて化物が迫ってきていた。魔女の格好をしていても魔法一つ使えない。何も出来ないネーアに戦う術はなかった。ゲーム世界で攻撃を受けてもキャラクターだけの事だが、簡単にはリスポーン出来ない現状ではそうも言っていられない。
激しい衝撃音、襲い掛かられて思わず閉じてしまった目を開けるとそこにいたのは黒い溶岩石の塊の様な巨人だった。彼女が作り出した、いわば半自動で戦うロボットだ。この世界風に言うならゴーレムだろうか。本来なら命令しなければ具現化すら出来ないはずだった。
「なんで…」
敵をなぎ倒す巨人。
「そうか、お前はもうこの世界の住人なんだな。私は、私はこの世界を、守りたかった。とか綺麗事を言っているだけの偽善者だ」
無数の怪物たちが巨人に伸し掛かる。
「力もなく、他人まで巻き込んで、この世界の住人達に、迷惑をかけるだけの存在、か。ああ、神様でも誰でも良い、助けてくれ、奇跡でも、なんでも良い、この世界を…」
目の前に化物が迫る。彼女が他の戦士達をこの世界に繋ぎ止めている事に気づいたのだろう。一斉に襲ってきたのだ。
「違うだろ!」
ラージシールドを構えた騎士の鎧の様な装備の戦士が割り込む。
「リフロクトストライク!!」
そんな技はない。
無数の技とスキルが複雑に組み合わさったコンボが怪物達をなぎ払う。
「あんたが自分で言ったんじゃねーか!!」
派手なガントレットを付けた軽装備の格闘家が敵に突っ込んでいく。
「マッハブリザードパーンチイイイイイイイ!!」
そんな技はない。
無数の拳筋が吹雪の様に視界を塞ぎ、渦を巻き、敵を吹き飛ばしていく。
「信じる心が力になるとーーー。超神聖光線んんんんん」
そんな魔法はない。
クロスさせた手からまるで一筋の光の様に無数のセイクリッドジャベリンが打ち出される。
「いいいいいいいいいやっほおおおおおおおおおおおおうううううっ!!!!」
反動で足元が崩壊するのも構わず敵をなぎ払う。聖女の様な姿の女性とは思えない叫びを上げながら。
「ファイナルデッドエンドおおおおおおお」
そんな技はない。
身長2m近い巨体を駆使して振り回した大剣が無数の斬撃を撒き散らし最後は爆発した。
「奇跡は起きるのを待つんじゃねえ、自分で起こすんだ。そうだろ?」
魔女は傷つき擱座した巨人に歩み寄った。
その目は涙で霞んで良く見えなかったが、黒く大きな巨人が分からないほどではなかった。
「私自身が一番、いえ、私だけが信じられずに居たのですね」
巨人に触れる。
「信じましょう、そして貴方に天駆ける翼と、全てを切り裂く爪を与えましょう」
黒い巨人が光出す。
「この世界を守りなさい。いえ、守りましょう、共に」
2人が光に包まれ融合する。
巨大だった身体はむしろ人並みに縮み、表面はツルツルになる。
全身を包んでいた光が頭上に集まり、光輪となった。
「ネーア…」
イノやリッカやマテラと共に戦っていたセーヤが何かを感じて振り向くと光の柱が立ち上っていた。
ネフィリニーアは100年以上もの間、離れることのなかった自分の部屋から初めて自らの意思で出た。永遠に終わることのない旅路へと。
語彙がないので、名もなき戦士達(本当は頭の上に表示されているはずだが)の必殺技が格好悪いですが、これはみんなその場の勢いと雰囲気で叫んでいるだけだから、という事でお願いします。ふひひ。