4-27 鯖落ち
本日2度目の更新です。
「ワシの作る世界はいつもすぐに滅んでしまうんじゃな…」
ヨルムの感覚は人間と比べるとだいぶ違う為、すぐと言う表現もアレだが、今回は本当に10年ほどしか経っていなかった。
この世界に唯一の存在、ドラゴンであるヨルムは孤独だった。
それを誤魔化す為に長い眠りについている間にその背に土が積もり大陸となり森や都市が生まれた。
その営みを窺っていると自分の分身を操って遊ぶゲームと言う物の存在を知った。
ヨルムはこれならば自分もそこに混ざって一緒に暮らせると考えて、このエターナルエンパイアの世界を作り上げたのだった。
サイバー攻撃により通信回線が不安定になり、帝国から冒険者達の姿が消えた。賑やかだった街も冒険者ギルドにも人影は少なく、あてもなく冒険者を待ち続けるNPCが寂しげに立っている。
この世界の住人達は急な状況の変化に自宅に籠っているのか、街中には見られない。
なんだかんだ言っても、プレイヤーが操る冒険者によって安全が確保されていた面もあるからだ。
冒険者達が探索していたエリアも静まり返っていた。
エネミーも標準配置された最低限の頭数があてどもなく彷徨うだけだった。
小さなドラゴンメイド、ヨルムは1人帝都を離れ森を抜ける。腰から生えた小さな蝙蝠の羽は力なく垂れ下がり、蜥蜴のような尻尾を引きずって歩いた。ここも普段は少し歩けば冒険者に出会うと言うほど人がいて、そこかしこで戦闘が行われ賑やかだった。
摘まれる事もなくなった薬草が風に揺れている。
しばらく重い足を引きずるように歩いて行くと、荒野が見えた。
こんなところに荒野などと言うエリアはなかったはずだ。
乾いた土がひび割れ、風が吹くと砂埃が舞い上がる。
多少起伏が有るくらいで見通しは良い。
地平線を埋め尽くす何かが蠢きながらこちらに向かってくるのが見える。
ヨルムは荒野に踏み込むと力なく立ち尽くす。
鼻の奥がつんとする。
このゲームに登場する動物やエネミーなどのテクスチャーやボーンデータがめちゃくちゃになったような気味の悪い塊が蠢きながら近づいてくる。それらも元々はヨルムと千代美が協力して作り上げた物だった。
かなり高度な技術によって生み出されたらしきそれらは、この世界を生み出し維持しているはずのヨルムや千代美にすら対抗することが出来なかった。いや、詳しく調べれば対応できるかもしれないが、そんな時間は与えてくれないだろう。
「いっそ奴らごとこの世界を消し去ってくれようか…」
独言る。
「そいつは困るな」
ヨルムが顔を上げると大剣を背負った大男が立っていた。
「え?」
「「化物を倒すのはいつだって人間だ」ってな」
派手なガントレットを付けた男が掌に拳を打ち付ける。
「そして、世界を守るのは勇者の仕事」
イノやリッカ、マテラ、セーヤも居る。
続々と冒険者達が現れる。
刀を装備したファンタジー侍、ハンマーを担いだちびっ子、聖職者のローブを纏った魔法使い、いや聖女だろうか。いわゆる魔法使い風の杖を持ったプレイヤーもいる。
キョロキョロするヨルム。
『すみません、敵の攻撃が激しくて、わずかな人数しか送り込めませんでした』
「千代美っ」
どこかから千代美の声が聞こえてきた。
ヨルムは涙と鼻水でグチョグチョになっていた。
海岸でのレイド戦の後、ネット上の敵からの攻撃で帝国から切り離されたプレイヤーたちは必ず戻れるようにすると言う言葉を信じて待機していたのだ。エターナルエンパイアオンラインの世界の危機に力を貸して欲しいと言う願いを叶える為に。
「それで、アレはなんなんだ?」
プレイヤーの1人が誰にと言うわけでもなく聞くと、一番後ろから怪しげな魔女が現れて答えた。
「詳しく説明しても分からない者も多いと思うから必要な説明だけするわ。いま帝国は外の世界から侵略されている。その敵がアレ。そしてあなた達はアレを倒せるようにしてある」
「つまり、余計な事を考えずに、アイツらをやっつければ良いって事?」
「正解」
「分かりやすくて助かる」
魔女の作ったプログラムによって、プレイヤーは意識する事なくエターナルエンパイアオンラインをプレイする事によってサイバーテロやウィルスプログラムに対応できるようになっているのだ。ヨルムや千代美ですら気づいていない部分を利用する事によって。
つまりこちらもハッキングである。
とは言え、アナスタシアの仲介で許可を受けているので犯罪ではない。
「エターナルエンパイアオンラインと違う点がひとつある。技や魔法の制限は存在せず、プレイヤーの想像力に依存する。つまり、恥ずかしい言い方になるが、信じる心が力になる…」
「良いじゃん、恥ずかしいくらいがちょうど良いと思うぜ」
「ああ、何せここは剣と魔法と冒険の世界だからな」
魔女の言葉に逆に盛り上がる冒険者、プレイヤー達。
「ごめんなさい、貴方は解析できなかったから改造できていないの。下がっていてくれますか?」
魔女がヨルムに告げた。
「仕方あるまい。みんな、この世界を任せたぞ」
「「「おおっ!!」」」
技術的な話は分からなくて良い加減ですみません
ヨルムは千代美のやっている事が良く分かってないし、千代美も帝国の全てを把握しているわけではないので穴があるんです。たぶん(