4-17 レイドボス
相手集団の真っ只中に突入したリッカが放った全体攻撃【断罪】が炸裂した。
全員が入るサイズまでエフェクトが広がり、全員の頭上にオーバーキルを示すダメージ値が表示された。
ほぼ全員が即死だった。
いや、即死自体はしたのだ。
数人、死亡した際に消費して復活することができるアイテムを所持していた。
さらに、仲間を復活させるアイテムを使用した。
30人ほどが復活、さらに復活したプレイヤーが復活アイテムを使った。
体力自体は半分だがほぼ全員が復活した。
自動復活アイテムはレアなアイテム。仲間を復活させるアイテムはそれなりに手に入るアイテムだ。
「………」
リッカが少し不機嫌な顔をしていると、背後に背を合わせる様にアナスタシアが現れ、納刀した。
広がるエフェクトが再び全ての相手を突き抜けた。
【断罪】だった。
これによって再び敵を一掃した。相手集団に生き残りが居なくなった事で倒れていたキャラクターがブロック状になって分解する様に消えていく。プレイヤー同士のレイド戦で無限に再挑戦出来る様だと終わらなくなってしまうので、リスポーンして直ぐに戻ってくる、と言うことは出来ない様に遠くの街にリスポーンするのだ。
「カッコよく決めたかったのに…」
地面に両膝と両手をついて項垂れるリッカ。
「ああ、ごめんなさい」
「いやいや、詰めが甘かったのはこいつだから」
謝るアナスタシアをイノが宥める。
「でもまあ、カッコ良かったし、凄かったよ」
リッカの頭を撫でる。
「ほんと?」
リッカがガバッと顔を上げてイノを見上げる。
「それは、良いけど、これどうする?」
マテラが足元に転がる小さな棺桶の山を示す。
フィールド上で死亡すると一部のアイテムをロストして棺の中に収められた状態でその場所に残す事になる。ユニークアイテムや上位のレアアイテムなどは使用者が登録されているので失わない。クエスト関係のアイテムなどは消失する。
ゲーム内通貨はギルドに預けられる銀行機能があるが、持ち歩いていた分はドロップする事になる。
「勝者の権利だしお金だけ貰っとく? あと、なんか面白そうなアイテムとかあるかなぁ」
「流石に50人分くらいあるから調べるのもめんどいね」
苦笑する。お金に関しては全て回収すると言うコマンドがあるが、アイテムはそうは行かないのだ。所有者に遠慮してもこの数がここに転がっている以上、元の持ち主のもとに戻ることはないだろう。
「とりあえず、一度ギルドに行くけどどうする?」
イノとアナスタシアはクエストの報告とかがある。
「私らもデイリー回しに行くよ」
「えー、そんなー」
すでにデイリークエストのオーダーは受けているらしく、リッカはマテラとセーヤに連れ去られてしまった。
「…と言うか、よくよく考えたら今からギルドに行くとさっきの人たちが居るのでは?」
「街はあそこだけではないですし、大丈夫じゃないですかね」
アナスタシアと手を繋いで街まで歩いて帰る。
「…居ない、みたいですね」
「そうだ、ね」
アナスタシアとイノが近くの街のギルドの入り口から中を伺っている。
本当は入り口の外から中を覗きたかったのだがシステム的に無理だった。
ギルドの外は見下ろしアクションゲームで、中はFPSと言うかフルダイブVRなのだ。
「とりあえず、オーダーの報告して、その後どうしよ」
「そうですねぇ」
手を繋いでカウンターに向かう2人だった。
「「「「………」」」」
「負けた…」
「負けちゃいましたね…」
「手も足も出なかった」
リスポーンした団体がギルドロビーに現れた。ここは上位エリアの中にある街だ。今回のメンバーは全員ここを起点に活動しているプレイヤーだった。上位エリアの街なのでアナスタシアたちが居る街とは違う街だ。
自動復活アイテムは基本的に1つ使用したらロビーに戻らないともう一度使うことが出来ないため、2回全滅した場合、そこで終了なのだ。そもそもレアアイテムなのでたくさん持っている者も少ないが。
「スキルアーツ【断罪】ってあんなに強かったんですね。知らなかった」
「俺も、とりあえずダメージ与えておけばボーナスが得られるエクストラアーツを使う前提だと思ってたわ」
「おれ、経験値乞食とかって使ってるヤツを罵ったことあるわ…」
「ダメージ7000とか出る【断罪】がおかしいって。ゲージいくつだよ」
「30とかじゃね?」
「そんことある?…」
「復活することを見越してゲージ貯めてタイミング合わせてくるアナスタシア様も流石のレイドボスって感じだったなぁ」
「いや、アナスタシア様の後ろに真のボスが隠れてたんだぜ、実は」
「まじか」
「あ、俺も見た、メイド服のドラゴン」
「私それロビーで見たことあるわ」
「ロビーにレイドボスとか笑う」
「全く勝てる見込みがねえなぁ」
今回のリーダー格が全員の意見を総括した様な言葉を呟いた。
「ふっふっふ、そんな貴方に耳寄りな話が」
声の方を見るとげっそりと痩せたメガネをかけたソバカスだらけの女が立っていた。
引きずる様に長いローブはボロボロで、魔女の帽子を被っている。
「それ絶対ダメなやつじゃん」