4-16 レイド
「いや、あんたらを探してうろうろしてたら、こんなになっちまっただけなんだがな」
そう言う割に前衛の戦士たち、後衛には魔法使いに射撃職と見事な隊列を組んでいる。
ダンジョンの大空洞の一つに50人近いプレイヤーが集まっていた。
対するこちらは、前衛3人と攻撃型魔法使い、それに中衛のエルフ、もといアーチャーが1人だ。
「ひとつ聞いても良いですか?」
ゲーム慣れしていないイノが相手のプレイヤーに尋ねる。
「なんだい?」
「アナスタシア様に勝ってどうするんですか?」
「ゲーマーに何でゲームするんですか?って聞いてどうするんだ?」
「なるほど?」
言いたい事は分かる。分かるがピンとこない。
「一通りイベント終わって次何をしようって思ってたら、すごい奴が居るらしいって噂を聞いた。探しても見つからなくて諦めかけたところで普通にうろうろしていると聞く。挙げ句の果てにパーティー組んで遊んでるとか言い出すわ、連れてる連中も並の強さじゃ無いときた。チャレンジしないんだったらむしろ何しにログインしてるのって話だよ」
「それに、プレイヤーは期間限定ボス以上にいついなくなるか分からないしな」
「うーん、そう言えばアナスタシア様は対人戦嫌いどころか、積極的にPKKしてたんだっけ」
「その口ぶりだと、こちらもチームで良いのかな?」
リッカは割と乗り気みたいだ。
「恥ずかしい話、この人数でも1人倒せる自信がないんだが、まあ、そっちの好きにしてもらって構わんよ。相手してくれるんならな」
「どうします?」
アナスタシアが仲間に尋ねる。
「それは、1人でやっちゃって良い?って意味かな?」
「あー、そこかー」
円陣を組んで相談。そんな事しなくてもパーティ内ボイチャなので相手には聞こえていないはずだ。設定を間違えていなければ。
「良い機会だし、レイドって言うのをやってみるのも悪くないんじゃない?」
「向こうからしたらレイドだろうけど、こっちは6人だよ?」
「6人?」
「1人見てるだけで参加する気なさそうなメイドが居るけど」
「あー」
ちらっと後ろを見ると岩の影から手を振っているロリメイドが居る。
「こっちは手加減とか出来ないけど、良いかな?」
「あ、ああ」
とりあえず、みんなで戦うのも面白そうだと言う事で決まった。
交渉していた男たちが自陣に戻る。
先頭に並んでいる数人は防御力の高いタンクだろう。このゲームだと防具と言う概念がないから見た目防御力低そうな装備のプレイヤーも居るが概ね鎧やら盾やらを装備している。やはり気分は大事。
その後ろに居る戦士たちは攻撃力優先の戦士だろうか。
そして攻撃型魔法使い&射撃職、最後尾に支援系魔法使いらしき一段が固まっている。
アナスタシア側は、イノとアナスタシアは軽装戦士、リッカがパーティを組んでいる関係でタンク寄りの戦士、セーヤが弓と剣で遠近をカバーできる中衛のため、攻撃型魔法使いのマテラの支援に回る。マテラは必要に応じて補助魔法も使えるが、今回は必要ないと判断した。
相手側は戦士を中心にバフがかけられた。
相手の魔法職から攻撃やらデバフやらが飛んでくる。後ろまで飛んできそうなものをマテラとセーヤが撃ち落とす。アナスタシアとイノはひらりひらりと避けてしまう。リッカは大剣で切り落とすかガードで無効化する。
前衛のイノとリッカが相手のタンクと接敵する。
イノは能力的に動きは良いがアイテムは中級レベルだから往なすくらいしか出来ない。
リッカは紛うことなきトッププレイヤーだ。流石に人数差がキツいはずだがこちらも3人を相手に善戦している。
戦闘開始前。
「ふふふふ。こちらもバフをかけましょう。『回線強化』」
イノとリッカの回線速度が3倍になった。
「…それ、チートというやつでは?」
「何を今更、です」
「まあ、確かに…」
アナスタシアは直にこの世界にいるので回線速度の影響を受けない。
というわけで、アナスタシア、イノ、リッカの3人は相手が認識出来ない時間と時間の間を認識できるのだ。
例えば、振り下ろされた剣が次の瞬間当たるとする、イノとリッカはその手前を2段回感知できることになる。
当然、本来は感知できないタイミングで動く事は出来ないが、2人は動くことが可能なわけだ。
「キリがないね」
「いっちょお姉ちゃんにかっこいいとこ見せちゃおうかな。スキルアーツ【審判】」
リッカが一瞬で敵に肉薄して撫で斬りにするとジャストアタックのエフェクトが発生する。
再び他の敵に一瞬で肉薄を繰り返す。
「速い」
「なんだ、このスキルは」
「ダメージは軽微だ」
「回復する」
敵が混乱する。
リッカが敵の中を駆け回る。
「待て、回復は…」
1人が気がつくが時既に遅し。
【審判】は敵に攻撃を入れる事でゲージを溜めていくのが目的だ。
つまり近場の敵が回復して攻撃する機会が増えればその分だけゲージを溜めることが出来る。
ジャストアタックに成功するたびにゲージが溜まるが、ゲージの上昇にしたがって判定がシビアになって行くためゲージを一定以上に貯めるにはかなりのテクニックを要する。
今、アナスタシアのバフとリッカの反射神経がゲージを最大である32まで押し上げた。
「【断罪】」
リッカが大剣を振り払うとエフェクトがリッカを中心に広がり、敵プレイヤーキャラを突き抜けた。
アナスタシアの回線強化は魔法です。
プログラムとかではないので、サーバや通信回線の影響を受けません。