4-12 エリアボス
転送された先は円形の闘技場の様になった隔離されたステージ、いわゆるボスエリアだ。
何故そんな強いモンスターがこんな狭いところで大人しくしていてくれるのか分からないが、必ずボスが居るエリアである。とは言え、上位エリアに行けば通常のフィールドでもエンカウントするので、ここは巣、と言えなくもない。
まあ、ゲームなので。
「お留守みたいですね」
アナスタシアはゲームをした事がないが、この状況には心当たりがあった。
「ボスと最初に戦う前には派手な演出があるんだよ、たぶん」
そう言いながら上を見上げるイノ。
「ほら、来たみたい」
上空から巨大なモンスターが降りてくる。
炎をイメージしたと思われる真っ赤なドラゴンだ。
「いきなりドラゴンかぁ」
「随分とおっきいですね」
派手に炎を上げながら舞い降りた赤いドラゴンが決めポーズで吠える。
四つん這いになった状態で背中まで3mほど有るだろうか。
初心者エリアに現れるエネミーの大半は人よりも背が低いモンスターや猛獣っぽいキャラクターなのでまるで別ゲーだが、この手のゲームには意外とありがちだ。
アナスタシアもこの世界では初めての相手であるが、リアルで巨大エネミーを見ているのでそれほど驚きはしない。本物のドラゴンは最大で数百メートルだ。流石にドラゴンと戦ったことはないが。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
いつの間にか繋いでいた手を離す。
2人別々に走り出しながら武器を抜く。
2人とも武器はコモン武器、つまり初級エリアで手に入る武器、の中で一番強いやつだ。
攻撃力は200前後。
イノはソード、刃渡り1mほどの諸刃の剣だ。
一説によると諸刃の剣を剣と呼ぶらしいので、諸刃の剣とは、と言うのはどうでも良い話。
アナスタシアの武器はカタナだ。
剣同様に説明すると、片側にしか刃が付いていない剣を剣に対して刀と呼ぶ。ちなみに片刃両刃は刃を付ける際に片面だけ削るのが片刃、両面を削るのが両刃だ。一般的なソードは両刃で諸刃の剣、一般的な日本刀は両刃の刀となる。片刃には出刃包丁などがある。本当にどうでも良い。
アナスタシアが普段装備している孤月は素で攻撃力が2000以上あるのでこう言うところでは使わない様にしている。
コモン武器のカタナは強い物になるにしたがって長くなるので、時代劇などで見かける刀に比べると幾分長い。ゲームのシステム上、武器の長さと攻撃のリーチは関係ないのであくまで見た目だけだが。
「おわっ」
ドラゴンがイノに向かって突進したのを回避して避ける。
振り向いたドラゴンが炎のブレスを発射する。
ちょうどイノとアナスタシアが1直線に並んでいる。
「ふふっ、上手いな」
感心しつつブレスをガードで食い止める。
エフェクト自体は長く伸びるが、最初の当たり判定を防いでしまえば攻撃判定は無くなるのだ。
「アナスタシアっ!!」
「はい」
アナスタシアがエフェクトの残る炎に添ってドラゴンの顔面に突撃する。
イノがアナスタシアを追って突進するとドラゴンが回転して尻尾で殴ろうとしてくる。
今度はアナスタシアがジャストガードからのカウンター攻撃で無効化してくれたところに攻撃を入れる。
イノがアナスタシアを見ると、なぜかイノを見てニヤニヤしている。
「なに?」
「さっき「アナスタシア」って呼んでくれましたね。うふふ」
「いや、とっさで舌が回らなかっただけ…」
ドラゴンが炎を吐いて牽制しつつ飛び上がった。
上空から火炎弾を撒き散らす。
「きゃっ。私たち、遠隔攻撃ないですよ」
「こう言うのはしばらく待っていれば降りてきてくれる、はず」
とは言え、もはや2人にドラゴンの攻撃は全く利いていないので、降りてきたら袋叩きだ。
ゲームでなければ降りては来てくれないんだろうなぁ、などと考えているとドラゴンが着陸した。
リズミカルに攻撃を受け止めつつ攻撃する。アナスタシアに至ってはガードではなくカウンターになるので、ドラゴンが攻撃するたびに逆にダメージを受けている。
ドラゴンの攻撃が激化して、全方位攻撃なども織り混ぜ始めるがそれすら全て防がれもはや虐めの様相だ。
アナスタシアが上昇を含む攻撃を連続で繰り出し、その勢いでドラゴンの背中に乗る。巨大生物であり飛行するドラゴンは普通の動物だと防御力が高い背中に弱点がある。イノはその場で姿勢を低くしゃがみ込み、そのまま真上にジャンプして最高高度で突進スキルを発動、ドラゴンの頭部に肉薄する。
2人の攻撃が頭部と背中の弱点に同時に炸裂。
ドラゴンが倒れ込み沈黙した。
「ふー。思ったより順調だったね、って言ったら怒られるかな」
「ふふふ、経験が役に立ちましたね」
「そうだね」
アナスタシアの言葉に苦笑する。イノこと命は勇者経験者だ。
「戦利品は〜、お、レアのソードだ」
「私はレアの杖ですね…」
ここで言うレアと言うのはコモン武器や、その上のアンコモン武器よりも上のレアリティーの武器、と言う意味である。プレイヤーが売買していたりするので買うことも不可能ではないが、普通の武器屋では売っていない武器のことだ。
「うーん、アナスタシア様はユニークアイテムの刀を持っているから、魔法使いもしたら?って事かな?」
「魔法使い…」
珍しくアクションっぽい内容になったかしらん?とか思っているのですが、自分ではよくわかりませんね。
武器とかなんとなく剣とか刀とか槍、で済ましてしまうので、たまーにどんなのか書くんですけど、これはちょっと違うかなと言う気がしなくもない