第10話 転生者
新キャラ紹介回になります。
「逃げろ、スタンピードだ」
溶岩の中が抜けて出来た洞窟のような通路のダンジョンに夥しい数のエネミーが暴走する。
大型犬やゴリラくらいあるエネミーだ。普通に接敵しただけでもこれだけの数がいたらどうしようもないのに、それが幅5mくらいの通路を津波のように押し寄せてくる。
ダンジョン。
エネミー、いわゆるモンスターやら魔物やら言う存在が徘徊している危険な迷宮。
そんな物はとっとと埋めてしまえと思ってしまうが、どうもそう言うわけにもいかないらしい。
エネミーから取れる素材やアイテム、そう言った物を集めて売ることで生活している人たち、それらを買い求め、利用する人たちが居るのだ。
まあ、強力なエネミーが大量に居るのだから、出口を埋めて塞いだりしたら今度はどこから出てくるか分からない、と言うのも有るのかもしれない。
ダンジョンに潜る人間は色々居るが、一般的にはダンジョン内を探索し、アイテムを集めたりする事を生業にしている冒険者と、その集めたアイテムを運ぶために冒険者に雇われたポーターとが居る。
そして今日も冒険者について歩くポーターが居た。
彼には前世の記憶があった。
平和な街で戦いなどとは無縁の世界で生きていた。と言う記憶がある。
確かに、この世界では知られていない知識が役に立った事も無くはないが、どちらかと言うと、戦ったり生き物を殺したりと言ったことに抵抗がある分、むしろ不便だった。
「よし、これも運んでくれ」
冒険者の1人が角だか牙だかを渡してくる。
「おう、相変わらず手際が良いな」
背負子を下ろして括り付ける。
馴染みの冒険者が雇主なので軽口を叩いても問題ない。むしろ
「お前も良い体格してるんだから、ポーターなんかやめて冒険者になれば良いのに」
なんて言葉を躱す方が大変だ。
「いや、俺は才能ないからなぁ。出来るならとっくにやってるぜ」
「それもそうか」
生き物? かどうか分からないがエネミーを攻撃したり、時には人間同士のイザコザとかある。
正直、無理だ、そう思っていた。
この冒険者パーティーはいつも身の丈に合った仕事しか請け負わない。
いや、ポーターを雇う時は。
自分たちが面白そうだと思うような仕事の時は自分たちだけで出かけるのだろう。
ギルドからの信頼も厚く、ランクアップも間近なのでは無いかと噂されていた。
仕事の関係だが、こちらに生まれ変わってから出来た、数少ない信頼をおけるやつらだった…
気がつくと、魔物の死骸がいくつか転がっていた。
スタンピードで一緒に移動していた他の魔物に轢き潰されたのだろう。
「おー、噂通りすばしっこいポーターらしいな」
「よく生きてたなぁ。わははははは」
柄の悪い冒険者が近づいてくる。
「なんだお前ら」
壁を背にして警戒する。
「なんでも良いだろ、とりあえず、その背負った荷物をよこしな」
「ふざけるな」
「ダンジョンで見つけた死体の荷物は発見者の物ってルールがあんだよ」
良く見ると雇い主たちの装備を持っている。エネミーにやられたのを取ったのか、こいつらが殺して奪ったのか。
「て、てめえら」
腰に下げた山刀に手をやる。
もともと戦闘用では無いそれは、ダンジョンの外、森の中を抜ける際に枝などを払うためのものだった。
だが、そんな事は関係ない。
「うおおおおおお!!」
叫び声を上げて盗賊に斬りかかる。
「バカめ、そんな物で冒険者の装備に勝てると思っているのかよ」
「だーーーーーっ! はーーーーっ!」
「しつけーんだ、死ねや」
思い切り蹴飛ばされて4mほど転げる。
「ポーターが勝てるわけねーだろ」
「ふん、冒険者崩れの盗賊なんかに言われたかねーな。ここがどこだか分かってねえようなお前らに」
「何ー?」
急に背後に気配を感じた盗賊が後ろを振り向くと、仲間の死体を両手にぶら下げ、1人の頭を咥えたオーガが立っていた。
「はっはっは。ダンジョンで騒いだらこうなる事くらい覚えておけよ、冒険者さん」
「て、ってめえごあがぁ」
肉塊になる盗賊。
「へっ、へへ、くだらねえカスを掃除する手間を省いてくれたことには感謝するが、まだ死にたくねえんだよな、俺は」
死体を全部落としたオーガが吠えながらその鋭い爪で攻撃してくる。
「くそっ」
山刀で防ぐ。
本来ならバラバラに砕け散ってもおかしくない様な攻撃だったがかろうじて防いだ。
この世界にはいくつかのルールが有った。
真の戦士が持つ剣は決して折れる事はない。
そして、戦士自信も例え重傷を負おうとも無傷の時と変わらぬ力を発揮できる。
オーガが左右交互に繰り出してくる攻撃をガードで堪える。
「さすがに、これはダメかもしれねえな」
だんだん気が遠くなって来た。
「冒険を続けますか?」
「そうだな、なんだかんだ言って冒険だったな。はは。ああ、続ける。続けるよ」
目を開くと目の前のオーガが真っ二つになって左右に崩れ落ち、その向こうに軽装な少年とマントの女が立っていた。
「パーティーの定員に空きがあるんだけど、入りませんか?」
「え? ああ、でも、オレ、何にも出来ねーよ?」
「大丈夫です。あなたには才能があるみたいなので」
「?」
そして怒涛のダンジョン踏破、ボス部屋からダンジョンの外に繋がるゲートを抜けた時にはレベルが29になっていた。
勇者の冒険には仲間が必要かなとか思ったけど、主人公と絡めつつ登場させるような話に出来たら良かったのかなとか思わなくもなく