表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

1000文字短編

努力という過ち

作者: をち武者

「君は魔法よりも学問の方が合っている、気付いてるだろ?」


 友人は言う。

 学問? そんな事をして何の意味がある、今この国に必要なのは魔法のスキルだ。


 確かに私は本を読むのが好きだ、知識を積み重ねる方が自分には合っていると思う。

 しかし偉大な魔術師たちは全ての精力を魔法へと注ぎ込んで来た。私もそれをするのだ、努力は決して裏切らないだろう。


 我が家は代々、魔法の名家だ。両親も私に期待している、それを裏切る事など出来るだろうか。

 友人には魔法の才能があった、きっと未来には偉大な存在となるだろう。だがそれは私とて同じ事だ。


「合わない努力は疲労するだけでなく、君自身をも歪ませてしまう」


 黙れ! そう言って少しでもライバルを減らす算段なのだろう。

 そんな口車に乗るつもりはない。


 私は彼と袂を分かち、魔法の道を究めんと努力に努力を重ねた。

 そしてある日、彼がなぜか魔法の道を断たれ、この都を離れたという噂を耳にした──。



 その時、私は少しばかり胸のすく思いを感じた。

 ざまぁない、人の足を引っ張ろうとするからだ。その報いを受けたのだ。

 そしてどうしようもない空虚さも感じていた。


 どうしてこうなってしまったのだろう。何が私を、そして彼を変えてしまったのだろう。

 彼は本当に魔法を愛していた、常にその力を信じていた。彼にとって魔法とは努力するものではなかったのだろう。


 授業の合間にコッソリと私に炎の花びらを見せてくれた、そんな彼の姿が懐かしい。

 私も彼のように楽しげに魔法が使える日が来るのだろうか……?


 いや、そんな事を言っていてはいけない。私には時間がないのだ。

 両親の為にも家の名誉の為にも、魔法の練習をしなくては。




 追記、父の猛烈なプッシュにより私も賢者の道を歩む事になった。

 親のコネだのと嫉妬する連中も居たが私は気にしない。


 しかし問題なのは、どう考えても私にそれだけの実力があるとは思えない事だ。

 一層励め、と父は言ったけれど、これ以上どんな努力をすればいいのだ。


 本が読みたい、そして彼の笑顔がずっと頭を離れない。

 だがこれは悪魔の誘惑だ、努力を続けていればきっと私も──。



 少しばかり疲れてしまった。

 どんな悪魔であろうが、また彼に会いたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] “正しい努力とは何か”を考えさせられました。 どちらも正解で、どちらも結果論なのかなぁと。 哲学的なお話。こういうの好きです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ