努力という過ち
「君は魔法よりも学問の方が合っている、気付いてるだろ?」
友人は言う。
学問? そんな事をして何の意味がある、今この国に必要なのは魔法のスキルだ。
確かに私は本を読むのが好きだ、知識を積み重ねる方が自分には合っていると思う。
しかし偉大な魔術師たちは全ての精力を魔法へと注ぎ込んで来た。私もそれをするのだ、努力は決して裏切らないだろう。
我が家は代々、魔法の名家だ。両親も私に期待している、それを裏切る事など出来るだろうか。
友人には魔法の才能があった、きっと未来には偉大な存在となるだろう。だがそれは私とて同じ事だ。
「合わない努力は疲労するだけでなく、君自身をも歪ませてしまう」
黙れ! そう言って少しでもライバルを減らす算段なのだろう。
そんな口車に乗るつもりはない。
私は彼と袂を分かち、魔法の道を究めんと努力に努力を重ねた。
そしてある日、彼がなぜか魔法の道を断たれ、この都を離れたという噂を耳にした──。
その時、私は少しばかり胸のすく思いを感じた。
ざまぁない、人の足を引っ張ろうとするからだ。その報いを受けたのだ。
そしてどうしようもない空虚さも感じていた。
どうしてこうなってしまったのだろう。何が私を、そして彼を変えてしまったのだろう。
彼は本当に魔法を愛していた、常にその力を信じていた。彼にとって魔法とは努力するものではなかったのだろう。
授業の合間にコッソリと私に炎の花びらを見せてくれた、そんな彼の姿が懐かしい。
私も彼のように楽しげに魔法が使える日が来るのだろうか……?
いや、そんな事を言っていてはいけない。私には時間がないのだ。
両親の為にも家の名誉の為にも、魔法の練習をしなくては。
追記、父の猛烈なプッシュにより私も賢者の道を歩む事になった。
親のコネだのと嫉妬する連中も居たが私は気にしない。
しかし問題なのは、どう考えても私にそれだけの実力があるとは思えない事だ。
一層励め、と父は言ったけれど、これ以上どんな努力をすればいいのだ。
本が読みたい、そして彼の笑顔がずっと頭を離れない。
だがこれは悪魔の誘惑だ、努力を続けていればきっと私も──。
少しばかり疲れてしまった。
どんな悪魔であろうが、また彼に会いたい。