聖光
ラストは最後の説明とエピローグです。
神足通か空間転移か、まさかの誠の出現である。
その後の私の周章狼狽ぶりは諸君の想像にお任せしたい。
「ま……誠?」
(博士になんてことするんだ魁人兄さん!)
「こここいつはおまえをモルモット代わりにしていたんだぞ⁉」
(宇野澤博士は妖魂と戦える能力者を探していたんだよ)
「よよよ妖魂⁉」
(いいからそこをどいて! 博士を治すから!)
私は黙って手術台から離れた。抗う意志は微塵も起きなかった。
まさに悪戯の最中を親に見咎められた悪童以下。浮遊する四肢のない少年がまとう清らかなる後光が私を圧倒した。
(誠くん──力を自在に操れるようになったようだね)
宇野澤の声がする。事情説明を兼ねて、テレパシーを用いた会話を私にも聞こえるように脳へ発信しているのだろう。
(まさか魁人さんが他人を傷つけようとすることが君の潜在能力を完全に目覚めさせる最後のトリガーだったとは思わなかったよ)
(すみません博士、すぐ足をくっつけます)
床に落ちた宇野澤氏の両足が手術台の上に乗った。時間を逆回しにしたかのごとく大腿部が結合、切断の痕すら残さず癒着した。
(ありがとう。ヒーラーとしての能力も一級だな)
(それより病院が危険です)
(奴らが侵入したらしいな)
(すぐに片付けます。兄さんドアを開けて)
私は言われるまま手術室の扉を開けた。顔を出してぎょっとする。
「あれは⁉」
通路をふさぐのはおぞましい粘塊質の物体。
昨日、病院を覆う霧の中で蠢いていた連中だった。魚の鰭やら獣の足やらが混ざり合い、眼球や毛髪や口唇が煮凝りになったような不気味な生きたゼリー。
流体型の一個の生物なのか、複数の集合体なのか。いずれにせよむせ返るような異臭を放ち、じわじわと廊下を前進してくる。
「あ、あれは何なんだ⁉」
「誠くんが言ったとおり妖魂ですよ魁人さん」
両足が治った宇野澤博士が落ち着き払って答える。
「妖魂ってなんだ妖魂って⁉」
「異次元の生物……〝侵略者〟とでも呼びましょうか。この病院の地下に異界へ通じる裂け目があり、そこから時々這い出てくるのを水際で食い止めていたのですが、これほど大量に出現するのは初めてだ。さては天敵の存在を感知して奇襲を仕掛けてきたか?」
「天敵ってまさか」
「誠くんです。彼は人類最強の超能力者です」
博士の太鼓判に我が弟は年頃の少年らしく照れ笑いを浮かべた。
(少しは納得してくれたかな兄さん? 反省は後でしてもらうとして、今は院内で暴れている奴らを殲滅するのが先決だね。行ってくるよ)
誠から放射する光の線が数を増す。頼もしいことこの上ない叡智の輝きではあるが、袖がだらりと伸びたパジャマが哀れをそそった。
「誠! これを羽織れ!」
私は自分のレインコートを投げた。ふわりと飛んで誠の頭にかぶさる。
(ありがとう)
男子ながら艶っぽい流し目を私に向けてきた。心臓が止まりそうだ。
(でも、後ろから見ると照る照る坊主みたいじゃない?)
「えっ⁉ べべべ別にそんなことないぞ」
(ま、いいや。行ってきます)
レインコートの裾を翻して、誠は廊下で怪物と対峙した。
(無限無量光!)
無垢と清浄の具現そのものの光線に妖魂どもが溶け崩れていく……。