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絡み合う人非人  作者: 泊脊令
8/10

転がり落ちて

あと二回で完結です。

 「やあ、先生、お目覚めかい」

 私はレインコートのフードから素顔をのぞかせた。

 「準備のために雨の中を家まで戻っていたもんで」

 宇野澤医学士を寝かせた手術台をぐるりと一周した。群青色のレインコートの裾から垂れ堕ちる雨粒が床の排水口へ吸い込まれていく。


 「病院というのは便利なところですなあ。麻酔薬もあれば、手術室もある。おかげであんたを拉致するのも拍子抜けするほど簡単だった」

 唯一奴の自由になるのは首だけ。ただし舌が痺れて声は出せない。

 すべて小川助手の協力の賜物だ。彼女の助言がなければ、宇野澤を捉えるのに絶好の隙を見出すことも、麻酔の適量もわからなかった。


 「聞かせてもらったよ。超能力研究の貴重なサンプルだって?」

 怯えた両眼が狂った魚のように泳ぐ。やはり図星か。

 「チンケな念力ごときじゃ満足な成果たらんと、目を潰し喉を潰し……最後は脳を軽く削り取るつもりだったらしいじゃないか」

 ノン──ノン──許しを乞うつもりか必死に首を振る。


 「別に謝罪なんか求めちゃいない。俺はもう人の心を捨てると決めたんだ。たった今から畜生道へ真っ逆さまだ。だからあんたも付き合ってくれ」

 手術台の下から電動ノコギリを取り出して見せた。

 「誠と同じ体になってもらう」

 回転する円盤ソーサーがサッと走らせる。

 ごろりと両足が転がり落ち、声にならぬ絶叫が手術室に響き渡った。


 「痛くないだろう? そういうふうに調合してもらったから」

 人非人キンナラ──人にして人にあらざる者。仏教では半獣の神のことを指すが、一般には人の道にはずれた極悪人、冷血漢、畜生鬼の意味で使われる。

 この病院には三人の人非人がいる。体の人非人と心の人非人。


 体の人非人は無論誠だ。四肢欠損、並びに視覚と発声能力の喪失、これらを以てまだ片桐誠を人間と呼ぶのは偽善であろう。

 そして心の人非人は宇野澤と私だ。功名のために弟を廃棄物にした宇野澤も人非人ならば、残酷な私刑を是とした自分もまた心の人非人だ。


 「さあて、お次は腕かな」

 (駄目よ! ひと思いに首をはねなさい!)

 女の声が命令する。うるさいな。好きにやらせろ。


 ノコギリを医学士の肩口に押し当てようとした瞬間、回転が止まった。

 「なんだ故障か?」

 どういじくっても充電したばかりの電動ノコギリは動かなかった。

 「動け動けこのっ!」


 (やめるんだ兄さん!)

 うろたえる私を叱責する声がした。どのような恫喝や怒声よりも私を掣肘するに絶大な威力を持つ声。

 おそるおそる振り向くと、病棟で寝ているはずの誠がいた。

 寝衣にくるまれて宙に浮いていたのである。


増えたポイントに感謝です。

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