業火
キャラ名は魔法少年漫画からの借用です。
少し変えて使っていますが。
前述したとおり、片桐誠は私とは父親違いの弟である。
去年病没した父との離婚後、母はすぐ新しい配偶者のもとへ向かい、数年の失踪期間を経て、所在を知らせてくれたときには誠はすでに八歳だった。
彼の印象を一言であらわすなら──きれいな目をした子に尽きる。黒々とした大きな目はまるで澄んだ夜空だ。星が横切るかと思えたほどだ。
「魁人さんだっけ? 僕のお兄さん?」
母は私の父とは二度と会おうとしなかったが、私には寛容で、おまえに弟ができたから会いにくるといいと電話をよこしたほどだ。
初めて引き合わされた日、少しはにかみながらも、子供らしい礼儀正しさをもって挨拶してくれたときは全身に震えが走った。
「僕は片桐誠! パパは違っても、よろしくね魁人兄さん!」
私は勝手に誓った。この子は俺の宝だと。
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「医師、誠はこの先どうなるんですか」
いくらか落ち着きを取り戻した私は、病院の一室で宇野澤博士と向き合った。
医師の隣には古風な白衣をまとった女性看護師が控えている。
「現状、生命を繋ぎとめるのが精一杯だと思ってください。本意ではありませんが捨てるのが手足だけだったのは幸運なんです」
新聞が報じたところによると、デパートの事故の原因はガス爆発だったという。誠の両親は焼死体で発見された。
なんたる無情。なんたる理不尽。何の落ち度もない明るく優しい少年が、通り魔のごとき災禍のために一瞬で両親と手足を失ったのだ。
もはや血を分けた身内は互いを残すのみである。
「お願いします。誠を助けてください。とってもいい子なんです。もはや僕に残されたたった一人の肉親です。僕の収入を全額治療費にあてます」
「開原さん、どうか冷静に」
床に手を着いての懇願を医師に諭された。
「楽観的なことは言えません。熱傷は治癒しても、免疫力が極度に低下していますので……。しかし、我々も最善を尽くします。あなたも泣くより笑顔です。弟さんの心の支えになってあげなくてはいけません」
きれいごとを──だがその通りだ。
「さあ、開原さん……」
「いえ、もう大丈夫です」
看護師が優しく立たせようとしてくれる手を拒んだ。
あまり女性に触られたくなかったのだ。