海と祈り
「誰得?」「私得」の変態小説これにて終わりです。
通読してくださった方、つまみ読みしてくださった方、ありがとうございます。
「申しわけございませんでした」
すべての悪霊が消滅した後、私は床に手を着いて宇野澤博士に詫びた。
「知らぬこととはいえ、誠の恩人になんてことを……!」
「まあまあ魁人さん。確かに足を切断されたときは参りましたが、弟さんがきれいに治してくれたことですし。終わり良ければすべて良しということで」
根は温かい人柄の博士は釈尊のごとき寛大さで私の愚挙を不問にしてくれた。
「それに小川が妖魂に取って代わられていたことに、ずっと気づかなかった私の責任でもあります」
通路の粘状の怪物たちが霧散した後には小川助手の死体が残っていた。一人でいるところを妖魂に襲われ、内臓を食い荒らされて傀儡にされたのだ。私をそそのかして宇野澤医学士を始末するために。
「それが誠くんを覚醒させのだから皮肉なものです」
博士の言うとおりには違いないが割り切れない思いも残る。
誠はまさに万能のエスパーに生まれ変わった。大量の妖魂の襲撃で負傷した患者や職員をすべて治癒し、死者さえも蘇生してみせた。だが、殺されて時間が経ち過ぎた小川助手は手の施しようがないとのことだった。
「僕に償えることがあれば何でも言ってください」
「では、彼の側にいてあげてください」
キィ……と車椅子が止まる音がした。
「外へ出ようか。魁人兄さん」
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数秒後、私は車椅子を押しながら朝の海岸にいた。
誠が目をつぶっていてほしいと言うので、素直に従うと、再び目を開けたときはすでに水平線が視界を覆っていたのだ。
「テレポーテーションとやらか?」
「そんなとこ」
ひさしぶりの海はいいものだ。白い波頭が感情を洗い流してくれる。
寄せ返す波の中で、砂粒に摩耗されたガラスの破片のように私の心も角が取れていくのが感じられた。
「なあ誠……」
「何?」
「一緒に暮らそうって話は白紙にしよう」
「どうして?」
きょとんとされて私は戸惑った。
「だって、僕が気持ち悪いって言ったろ。第一、今回の件で僕はとても君の保護者が務まる大人ではないと思い知らされたよ」
「うん、兄さんは駄目な大人だね」
訥々とした口調で言いきられた。覚悟してはいたが内心へこんだ。
「でも、いないと困るよ」
「えっ」
夢のような言葉に私は耳を疑った。
「エネルギーの浪費を避けるためにも普段は介助してくれる人が側にいてくれたほうがいいからね。兄さん以上に思う存分こき使える人間がいるかい?」
波音にまじってニャアニャア鳴く声が聞こえてくる。
誠は潮風に舞う海猫の群れを見上げた。
「気持ち悪いは言い過ぎたよ。結果論だけど、兄さんが血迷ったおかげで小川さん以外の人を助けることはできたわけだし」
「それじゃあ……」
年甲斐もなく涙が盛り上がる。幸福感が胸を満たした。
「兄さんはずっと全能のエスパー片桐誠の保護者兼マネージャーさ。側に置いておかないと何をやらかすかわからないからね」
諸君、私はこうして人非人へ堕ちた。しかし後悔はない。
最愛の少年の側にいることを許されたのだから。




