表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな夢を見た/展示車を勝手に運転した

作者: 青葉台旭

 ある朝、私は誰よりも早く出社した。

 夜が明けるか明けないかという時間で、町は薄暗く、通りには霧が流れていた。

 私が勤務している会社の隣は、ある国内自動車メーカー系列の販売店(ディーラー)だった。

 その販売店(ディーラー)にも、まだ従業員は一人も出社していなかった。

 今はもう手放してしまったが、数年前まで、私はその販売店(ディーラー)で買ったスポーツカーに乗っていた。

 ふと屋外展示車場を見ると、かつて私が所有していたクルマと同じ車種のスポーツカーが展示されていた。

 私の持っていた車は白だが、その展示車両は赤色だった。

 私は懐かしい気持ちになって、その展示車に近づいてみた。

 窓から車内を(のぞ)くと、イグニッション・キーが刺さったままだった。

 私は思わずドアを開けてその赤いスポーツカーの運転席に乗り込み、エンジンを掛けた。

 独特のエンジン音が響き、懐かしい気持ちが増した。

 悪いと思いながらも、つい出来心でギアを入れ、クラッチを繋ぎ、赤いスポーツカーを運転して自動車販売店(ディーラー)の敷地から道路へ出た。

 薄い霧に包まれた夜明け直後の町を、私は赤いスポーツカーを運転してぐるぐると何度も周回した。

 誰もいない町の通りを、目的地もなくデタラメにぐるぐると(まわ)り続けた。

 そのうち日が昇り霧が晴れて、人々が起きて会社や学校へ行く時間になった。

 私は、やっと自動車販売店(ディーラー)に戻り、展示場に赤いスポーツカーを戻し、何食わぬ顔をして自分の勤める隣の会社へ出勤した。

 どういう訳か、私が勤めている会社と隣の自動車販売店(ディーラー)は裏口どうしが(つな)がっていて、販売店(ディーラー)の従業員たちは、必ず、私の勤める会社の建物内を通って出勤した。

 事務机のモニターに向かって仕事をしていた私の横を、販売店(ディーラー)の営業担当S氏が通った。彼は、かつて私が白いスポーツカーを買ったとき何かと親切にしてくれた人物だった。

 S氏は私に挨拶をして、隣の販売店(ディーラー)と繋がっている通路の向こうへ消えた。

 数分後、販売店(ディーラー)の店長(彼は背の高いガッシリした体型の初老の紳士だ)が、ちょうど私の横を通り過ぎようとしたとき、S氏が青白い顔をして戻って来た。

 S氏は店長に「何者かが展示してあったスポーツカーを乗り回した形跡があります」と言った。

 それを聞いた店長の顔も、見る見るうちに青白くなっていった。

 S氏が続けた。「エンジンが熱くなっているし、距離計も昨日より100キロ以上も進んでいるし、燃料計の目盛りも減っています」

 店長が「本当なら、大変なことだぞ」と言った。

 私は、S氏と販売店(ディーラー)の店長の青白い顔を交互に見ながら、つい出来心を起こして自分が仕出(しで)かした事の重大さに気づいた。

 私は、S氏を部屋の隅に呼んで、小さな声で「赤いスポーツカーを乗り回したのは自分だ」と白状した。

 それを聞いた途端、いつもは温和なS氏の顔が鬼のようになって「あんた、なんて事をしてくれたんだ、(ただ)じゃ済まないからな」と言った。

 私は、その場から逃げ出したくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ