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黒紫色の理想  作者: 槻影
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第五話:保護動物と慈悲深い俺


 

 

「こ、突然これは一体何の真似ですか!? シーン殿ッ!!」

 

 三十人の兵士に囲まれて、その男がほざく。

 ドラゴンの皮で精製されたベストに、金糸で飾られた紺色のボトム。ターバンを頭に巻いた中年の男。その胸には、商人ギルドから上級商人と認められた証である蛇の巻かれた杖の造詣をしたブローチがある。

 

 名前なんだっけ?

 確か……どうでもいいか。

 

 

「お前、死刑」

 

 

 かつて俺に奴隷を売り捌いていた許されざる男は、高潔な俺の宣告に懺悔の涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話【保護動物と慈悲深い俺】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんあぁあッ!? な、なんで私が死刑なんですか!?」

 

「まず顔が気に入らない。身体も気に入らない。魂も気に入らない。よって死ね」

 

 奴隷を売り捌くなんぞ人間として最低だ。人をおもちゃか何かと間違ってんじゃねぇよ、このカスが。

 たとえ買う人間がいるとしても、売る事は悪事。そこらへんは放流は罪でもダウンロードはグレーゾーンなP2Pに似ている。

 

「納得いきませんッ!! 大体シーン殿にも何人か融通したでしょb8ぶぅ――」

 

「おいおい、人聞きの悪い事を言うなよ。俺は君と初対面のはずだがね」

 

 拳が野郎の脂で汚れてしまったじゃないか。

 壁に激突して頭を押さえる男。どうやら手加減しすぎてしまったらしい。

 これ以上喋らせておくと、聖人君主なみに善人な俺がルルに疑われてしまう。

 男のベストの襟を掴んで無理やり立たせる。

 さすが海千山千の商売人。その眼にはまだ俺に反抗する意志が残っていた。

 無知な奴は面倒だ。

 

「まず第一に、お前はこの偉大な俺が作った法を破った」

 

「法を――? とんでもないッ!!! 私達は法律を破るなんてことはいたしません。そこらのゴロツキじゃあるまいし」

 

「それが破ったんだ。いやはや、俺も君には期待していたのにな。こんな子悪党だったとは――」

 

「ッ……一体何の法を?」

 

「エルフ保護法だ」

 

 横目でこっそりルルの方を見る。

 何か考え込んでいるようだったが、確かに俺の言葉に反応して耳がぴくぴく動いた。

 エルフの村攻略作戦決行中のエージェントAが新たな報告を持ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「リーダーッ!! 村の結界、解体完了いたしました。これから侵略作戦に入りますッ!!!」

 

「保護だ」

 

「へ……あ、はい。失礼しましたぁッ!!! これからエルフの村の保護にはいりますッ!!」

 

「うむ、急いで全員を保護しろ。炎系の魔術を使う真性の魔術師が村を狙っているとの情報が入っている」

 

「ッ!! その魔術師はどんな術を使うのでありますか?」

 

「爆発、だな。おそらく一般の兵士が行うであろう火薬による破壊と酷似した爪跡をその村に残すだろう」

 

「承知しましたッ!!! して、結果は?」

 

「壊滅だ。おそらく村には何一つ残るまい。そうなる前に全員を"保護"するのだ」

 

「Yes,sir.」

 

 

 

 

 

 

 

 俺の部下は馬鹿ばかりである。

 だが、その中でエージェントAは他の馬鹿共よりは優秀な成績を誇っている。伊達にAの名を授けていない。

 走りさるAを見て、久しぶりに満足する俺。

 

「ッ……そ、エルフが保護されているなんてそんな話聞いたことないですよッ!?」

 

 そして満足している俺の気分を害する糞奴隷商人。

 空気読めよ。

 エルフを捕まえた時点でこいつの極刑は決定している。

 そして俺が刑を下すとき、その種類はたった三種類。たった三種類の正義の鉄槌。

 磔刑、流刑、死刑。

 もはや救われるべくもない。

 こいつはなかなか賢い奴だと思ったが、そうでもなかったか――

 

「交付したはつい三十分前だからな」

 

「はあ? 何言ってんだッ!! そんな事他の連中が認めるわけねえだろッ!!!」

 

「黙れ、俺が法だ。それにどこぞの誰かさんが言っていたんだが、商人の武器は情報らしいな。いやはや、エルフにさえ手を出してなかったらもうちょっと生き延びられたのに……」

 

「ふざけるなッ!! 奴隷の売買は連合の法で認められているッ!!」

 

「罪はエルフに手を出したことだ。奴隷なんざ知ったことではない。ああ、安心しておけ。お前が扱ってる商品達は俺が処分しておいてやるから……」

 

「第一級商人の俺にそんな不公平な理由で手を出して商人ギルドが黙っていると思うな!!! こんなちっぽけな公国、商人ギルドの力を持ってすれば――」

 

 やれやれ、こんな奴に一級の位を与えるとは、商人ギルドとやらの格もしれるもんだ。

 

 

 

 

 

「よろしい、ならば戦争だ」

 

 

 

 

 

 たかが商売人の奴らに負けるわけないじゃん。

 こんな小物のために動くとは思えないし、仮に動いたら殲滅してやる。

 経済制裁? なにそれおいしいの?

 商人ギルド……さぞや莫大な金を管理しているのだろうな。

 

「く、シーン!! 貴様狂ってるッ!!!」

 

「ふん、世界の新たな可能性を壊しかけたお前が俺をそう呼ぶだけの権利があるのか?」

 

 馬鹿と話していると馬鹿が移る。

 

 「な、何の話だ!?」とか言ってる愚人は置いといて、

 跪いたまま呆けているルルの耳を引っ張った。

 

 この耳見てると、引っ張ってみたくなるよね。

 

「ひゃッ!!!」

 

「ぼーっとしてるんじゃない」

 

 

 残念ながら普通の耳でした。

 分かっちゃいたけど、この世で解き明かしてはいけない謎のうちの一つを解いてしまった気分だ。

 

「な、何をする!!」

 

「……耳、性感帯じゃないんだな……」

 

「へ?」

 

「いや、なんでもない。反応見てりゃ分かるし。つまんねえ……」

 

 テンションがかなり下がってしまった。

 この世には夢も希望もないのか。

 あー、何だってこの世界はこんなにも俺に優しくないんだろう。……試練?

 

「シ、シーン殿……?」

 

「あれか。調教して、耳が性感帯で触っただけで飛び上がるほどびっくりして耳まで真っ赤に赤らめるようなエルフを育てろっていう神様のお告げかのお……」

 

「はぁ……」

 

 気の抜けた返事をするルル。

 また一つ懸案事項が増えてしまった。俺も甚だ多忙だな。

 なければ作る。これがこの世の真理。

 どうやらまたも選択肢は一つしかないようだし。

 

 ふと出口を見てみると、こっそり部屋から出ようとしていた奴隷商人が、衛兵に捕らえられていた。

 仕事第二号達成おめでとう。そして商人、空気読めよ。こっそり逃げるとか……

 

「ぐっ、は、離せ!!! 俺は、俺は何も悪い事はしていない!!」

 

「社会にはどうにもならない事もあるのだよ、ワトスン君。社会の闇という奴なのだ。俺が一番よく知っている。今まで俺の思い通りになった事なんて一度もない。勇者は雑魚だし、部下はアホだし、エルフの耳は普通の耳だ」

 

「ワトスン……? くッ……わ、わかった。金か? 金ならいくらでも払うッ!!」

 

「安心したまへ、ワトスン君。命は金では買えないのだよ。少なくとも俺にとって命は非売品なのだ。んー、強いて言えば美人の娘だったら君程度の命と交換してやってもいいが――」

 

「……わ、わかっ――」

 

「どうせ奴隷だろ? 君を殺して助け出し、感謝される事にしよう。おそらく自発的にここに働きにくるんじゃないか? その方が手間がない」

 

「そ、そんなッ!!!」

 

「ふむ、ここで一つ推理しようか。例えば、だ。このルルが逃げ出して、この悪が蔓延る世界においての唯一の正義の砦である我が屋敷に来てからまだ数時間しかたっていない。おそらく捕縛したエルフを売る暇もなかっただろう。だが、だ。これは所謂ただの予想。もし仮にもう売り払ってしまったエルフがいるとして、君ならどうする?」

 

「…………じょ、情報だッ!! 俺を殺したらもう二度とエルフは見つからないぞ!! エルフは俺しか知らない場所に隠してある!!」

 

「その言葉が聞きたかった」

 

 力を加減して腹を蹴りつける。

 崩れ落ち、高級な絨毯の上に吐瀉物を撒き散らす屑。

 まぁ俺が掃除するんじゃないし。

 落ち着いたところを見計らってそれの眼の前に顔を近づける。

 あー、くせえ。

 

「ところがだ、ワトスン君」

 

「ぐヴ……うぅう……グッ!?」

 

「完全無欠なビューティフリャーな俺は、対象の頭蓋を取り外し脳みそを抉り取って脳漿を調べるだけでその対象の生前の記憶を読み取るという神の御技を使えるのだよ。これがどういう意味か分かるかね?」

 

「ッ――――!?」

 

 顔が真っ青になる。

 あーあ、慈悲深い俺が、せめて数分だけでも命を延ばしてやろうと話しかけてやってるのに本当におつむが残念な奴だ。

 

 辟易しながら白目を向いた男の腹を蹴り続けていると、エージェントAが戻ってきた。

 

 

「リーダ――あ、失礼しましたッ!! お楽しみの最中でしたかッ!!」

 

「これが楽しんでいるように見えるのか……。もういいよ、何か用?」

 

「一○五五、村の保護が完了いたしました。死傷者0、負傷者……1、転んで鼻の頭を擦りむいた兵がいます」

 

「あー、そんなのどうでもいいわ。そんで、何人くらいいた?」

 

「雄性体が五十二、雌性体が八十三体、合計百三十五体です」

 

「ふむ……今この屋敷に空き部屋は何部屋ある?」

 

「大体五十程度ですね」

 

 考える。男はまぁ三人で一部屋くらいでいいだろう。というか、雄などいらん。捨てたいくらいだが心象が悪くなる恐れがあるからな。女が二人一部屋程度で四十一。何なら俺の部屋を開放してもいい。

 

「間に合うな」

 

「ぎりぎりですね」

 

「足りない時は親父様に旅行にでも行っていてもらおう」

 

 

 悪は滅びた。

 

 とりあえず村から"保護"したエルフ達の処遇を決めるため、俺は雑務に追われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、村はどうなった?」

 

「リーダーのおっしゃるとおり、燃やしました」

 

「はぁ? 燃やしたぁ?」

 

「す、すみません。爆破しました」

 

「おいおい、私が言いたいことはそういうことではない。それは少し違うのではないのかね? エージェントA。我らは"助けに"行ったのだよ?」

 

「ッ!! 失礼しました。撤退後、予想通り魔術師が現われ爆破した模様です」

 

「よろしい。以後、情報の伝達は正確にするように」

 

「Yes,sir. My Leader」

 

 

 

来週は忙しいかも。更新速度は果たして落とさずいられるか……

最近文章量が減少傾向にあるのでがむばります……

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