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黒紫色の理想  作者: 槻影
47/66

第三十六話:あれな組織と勧善懲悪の話

 

 

 

 ぴちゃぴちゃと言う音が鼓膜の奥底にこびりつくように私の脳裏を焼く。

 

 心に刻み付けるかのように。

 精神を侵すかのように。

 

 おそらくこの音を私は生涯二度と忘れまい。

 

 気持ち悪い? 否。

 恐ろしい? 否。

 

 それは人ならば確実に嫌悪を抱かざるを得ない禁忌極まりない光景。

 

 

 人食い《マンイーター》

 

 つぶれた死体を覗き込んでいた主がようやく立ち上がる。

 食人はいつの時代だって禁忌だ。

 魔族の中には、死んだ友人や親族の肉を食する文化を持つ種族が居るという。

 だが、果たして彼等は今のこの光景を見て尚平然としていられるだろうか?

 

 

「臭いな。これだから死体は嫌いだ」

 

 

 まだ死後十分もたっていない。だから腐臭こそない。

 だがしかし、死体独特の臭いというものが間違いなくそこには満ちていた。

 もう私がとっくに慣れ親しんだ臭いが――

 

 

「いかがですか?」

 

 

 口から出る声には震え一つない。つまりそれは、私がもはや治療不可なまでに壊れ狂っている事を示しているのだろう。

 震えない。怖くない。常人なら発狂しかねないほどの狂気を見せられたとしても感情が微塵も揺らぐ事はない。

 かつて受けたカリキュラムは本当に多岐にわたった。

 それらは確かに私の自力を挙げる意味もあったのだろうけれど――

 

 本当の目的は私を壊す事にあったのではないかと思う。シーン様についていけるように。

 

 壁際に、唖然とした表情で固まっている死神の少女が見える。

 それが、どこか可笑しかった。

 

 こんな事で引いていたら身が持ちませんよ?

 

「虫、だな。虫を除する者。うん、間違いなく敵だ。蹂躙されるに足る……な。問題ない。遅かれ早かれ俺の眼の前にその面を見せた時点でこいつの最期は決まっていた」

 

 深い瞳が伏せられる。

 その口に含まれていた指が抜かれる。薄明かりの中、てかてかと光る白い指はどうしようもない現実感に満ちていた。

 

 人の脳は不味いらしい。

 人間の脳を摂取する事でその記憶を得る魔術。

 私は魔術に詳しくないので良く分からないが、忌避されるものであることはわかる。

 この術が忌避されていないのだとしたら――魔術師は皆狂っているといえよう。

 

 シーン様は魔術の行使をためらわない。

 

 一瞬伏せられた瞳は、次の瞬間既に前を向いている。

 たった今一人の人間の脳を口にしたばかりだとは思えないほど平然と、

 彼はいつものように不遜な感情を滲ませた声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の夕食はパンにしよう」

 

 

 

 パン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十六話【あれな組織と勧善懲悪の話】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脳を搾取し記憶を引きずり出すこの魔術に名前はない。

 何故ならこれがかつて俺が生み出した魔術だからだ。

 名前とは、他者との見分けをつけるための記号のようなもの。

 この魔術を使えるのは魔軍でも俺しかいなかったので、名前をつける必要というものが存在しなかった。

 

 脳を喰らう魔術。

 

 人間を喰らって生き延びるタイプの魔族も、この術の事を聞くと皆口を揃えて言う。

 それはこの世で最も忌避されるべき行動だと。

 死者の冒涜。

 生き延びるためではなく、その記憶を奪い取るためだけのために生き物を殺し、その脳を食する。

 

 なるほど、倫理を重んじる綺麗事大好きな奴等にはそう思えて当然かもしれない。

 理性的に考えれば十分在りだと分かるだろうに。人体実験の類の方がよっぽど非人道的だと思う。どちらも俺の得意分野なわけだが……

 

 人間領のある国では、珍味として猿や羊の脳みそを使った料理があるらしい。それらと何の違いがあろうか?

 それとも、その珍味を好む人間は同じ人間の脳を喰らうこの魔術を使う事が可能なのだろうか?

 この魔術が俺にしか使えなかったのは、魔軍に在籍する魔術師が皆脳を喰らうのを嫌がったからだ。

 同じグラングニエルの兄弟ですら嫌がった。あいつ等ほど偽善という言葉が似合う存在はいるまい。

 

 

 

 まぁ正直、味はあまり美味しいものではないし、食べる事を嫌がって当然なのかもしれんが。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 魔術は確かにその効果を発揮した。

 男の脳を口に含んだ瞬間頭の中に流れ込んでくる男の記憶。

 食して"知る"というのは、書物などを読み漁り"知る"などとはまた違った感覚がある。

 

 心地よくはない。だが、決して嫌悪に属する感情ではない。

 強いて言うならば、無感情だろうか。

 本来、勉学を通過点としてある種の知識を習得する場合、それには快楽を伴う。

 だが、この術による習得には何の情も伴わない。

 ただ淡々とシルクが日毎の業務をこなすように――

 ただ淡々と俺が列となった愚者を捻り潰すように――

 

 殺した。

 喰った。

 知った。

 

 後はこの得た知識を元に行動を起こすだけ。

 記憶を奪ったのは戯れだが、結果は決して戯れで済ませておくべきものではなかった。

 早急とは言わないが、手を打つ必要がある。

 

「さて、どうするか……」

 

 新たに得た記憶――情景を思い返す。

 鎖で繋がれた少年の姿。

 

 悪神。

 

 error-07

 BreakenWindow

 

 

 姿は今まで見たものとは違い男の姿だったが、

 

 

 

 

 それは間違いなく今まで見つけた世界のバグと同様の存在だった。

 

 

 

 

「男かぁ……いらないな……」

 

 あの奇妙な生活と同じくらいいらない。

 だって使い道ないし。名前も微妙にネタ切れだと思う。

 

 どうやら、KillingFieldを連れて現われた男は、世界のエラーを排斥する組織のメンバーらしい。

 OrganizationAgainstHazard

 名前の通り、世界の危険に対する組織。略称は捻りもなくOAH。

 

 やれやれ、世の中には本当に色々なな団体が存在するもんだ。

 

 俺の屋敷だけでも既に三人の世界のバグが住んでいる。

 なるほど、人間や魔族の中でもその存在に気づいた連中がいてもおかしくない。

 他人の事などどうでもいい。男のエラーなんぞ何人死んだって知ったことではない。

 

 だが、KillingFieldにその手が伸びた以上放って置くわけにもいかないだろう。

 KillingFieldが負けるとは思えないが、奴等も一応その道のプロだろう。何かの拍子で敗北した瞬間待っているのは解剖あるいは極刑。

 自らの正義に忠実な連中は時にいかなる狂人よりも狂った行為を平然と起こす。

 俺が食った男が持っていたのも、正義感だけだった。

 遠見の術で覗いたその顔でまず初めに目に付いたのはその瞳に眠る深い憎悪だったにも関わらず――正義感。笑わせてくれる。憎悪を抱いた正義の味方とはとんだ矛盾だ。それこそが或いは世界のバグとして

 

 この男が馬鹿でよかった。

 一応の保護者にエラーを排斥する事を告げようとするとは。

 

 だが、喰った記憶には、KillingFieldの事をOAHのクラウンシュタイン支部に連絡する記憶が入っている。

 

 

「悪神、か。名前からして悪そうだ」

 

 善人の俺を見習え。

 バグは皆『神』が付いているらしい。偉そうな事だ。

 

 

 

 死神以外は無理やりっぽいのはきっと気のせいなのだろう。

 

「何の話をしているんですか?」

 

「いや、独り言だ。気にする事はない。どうせ壊滅させるか殲滅するか皆殺しにするかの三択くらいしか思いつかないし」

 

 シルクの問いに何気なく答えて気づいた。

 選択肢はどうせ三つしかない。そしてどれを選んでもそれほど結果は変わらない。

 

 俺は善人だが愚かではないし、囚われた男――おまけに悪神なんていう聞くからに悪人そうな奴を助けるなどという選択肢が残っているわけがない。

 

「いや、助かった」

 

「え? 私何かしました?」

 

 

 気づかないうちに他人を助けているという事もあるのだよ。

 とりあえず暗殺コンボでFAか。

 

「シルク。そこにある鏡持ってきて」

 

「はい」

 

 遠見の術は本来媒介を必要としない。視覚を分割し、それを遠き地に飛ばし、結果新たにもう一つの視界を得る。それが遠見の術である。

 だが、俺は可能な限り媒介に飛ばした視覚が捕らえた光景を映すようにしていた。媒介は鏡でも張られた水でも――霧でも構わない。何か精神的にきついんだもん。生来から複眼を持つトンボや蝿の気分と言えばいいだろうか。何か気分が悪い。

 

 ほどなくしてシルクが持ってきた小さな手鏡に、遠見の術により得た像を写す。

 記憶にあった支部は、ここから北方に三キロほど行った所にある小さな洋館にあった。

 KillingFieldが目に留まったのはただの偶然だ。

 ただ、支部の人間が大鎌を持って歩いている少女に眼を留めただけ。

 OHAは一応秘密結社の一種みたいなものである。偶然支部の人間が外を歩いていると、偶然同時刻に外を歩いていたバグに偶然スキルレイを使用し偶然気づく。そんな事は二度とありえまい。

 運が悪かった。

 OHAも俺もKillingFieldもそして悪神も。

 

 

「潰すのですか?」

 

「もち。こいつらうざいし」

 

 

 支部に存在する人数は七人。そして、バグが一人。

 スキルレイで視た所、特に特筆すべき人材はいない。

 初めて見る秘密結社だったから、何か凄い切り札があるのかと思ったらそうでもなかったらしい。正直がっかりだった。

 まぁ、切り札があったら男の記憶に残っていないわけがないのだが……

 

 さて、EndOfTheWorldでちゃっちゃと終わらせるか。

 

 欠伸をしながら術を唱えようと、口を開きかけた瞬間、俺はあることを思いついた。

 

「あ、そうだ!!」

 

 どうせだったら、生命力の収集もついでに終わらせてしまおう。

 突然声を上げた俺に、シルクが訝しげな視線を向け、かすかに青ざめた表情で鏡を覗き込んでいたKillingFieldびくっと怯えた視線をこちらに向ける。

 

 身を引きかけたKillingFieldの腕を捕まえる。その手に鎌はない。鎌持ってないとKillingFieldはやたら臆病になるな。鎌持ってても臆病な所は変わらないけど……本質?

 聖人のような気性の俺を恐れるとは、まったくKillingFieldの臆病は輪をかけて深刻だ。

 

 

「さて、ちょとだけ身体を借りるよ」

 

 

 泣きそうな顔で首を振るKillingFieldは、まるで注射を恐れる幼児のようだ。

 怖がらせるのは忍びない。後頭部に手刀を落とし、速やかに昏倒。

 

「んじゃ、ちょっと行ってくる」

 

「手段を選ばないのですね……」

 

「ん? 選んでるじゃん」

 

 

 最も相応しい選択肢を選んだはずなのに一体何を言ってるんだか……

 間違えた事をした覚えはないのに、シルクの視線には何故か微かに険がこもっていた。

 

 

 

 

 

ブランク。それはこの話の事。

三週間前までなら、話が完結してそれで一話だったのにつД`)・゜・。・゜゜・*:.。

間が空かないうちに次の話を投稿してみました。

でも次の投稿は未定な不思議。

しばらくリハビリでちびちび投稿します(´▽ `)

一話完結が私のジャスティスなんですけどねー





作業用BGMを流しながらだと執筆が続かない不思議。

掃除中に見つけた古い漫画みたいな感じで。





そういえば、いつの間にかユニークが200000突破しておりました。

三週間も空けていたのに読んでいてくださった方々、今まで読んでくださった方々に深く御礼申し上げますm(_ _)m

これからはなるべくペース保って執筆します(´▽ `)

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