第三十四話:ある会議と寒い日の話
「さすが名高い東半大陸人民統合国連会議ですね。錚々たる顔ぶれだ……」
「ふむ、随分にぎやかだな。だが年寄りしかいやしねえ。屋敷の方がまだマシだ」
シーン様は一体ここに何しに来たのだろうか?
隣で周辺をきょろきょろ見渡し、挙句の果てにがっかりしたようにため息をつくルートクレイシア公国の実質最高権力者の少年は、どう考えても今の状況から浮いているように見える。
辺りで和やかに談笑する初老の麗人や、顎鬚を蓄えた厳しい男、二メートルはあろうかという裾の長い"法印"と呼ばれる高位魔術師のみが纏う事を許されるローブを羽織った老人など、ルートクレイシア公国にまで聞こえ来る他国の要人・才人達にも視線一つ向ける様子がない。そしてもちろん、初めて東半大陸人民統合国連会議に参加する自身に向けられた視線に答える様子もなかった。
失礼じゃないのだろうか?
頭が痛くなって、空を見上げる。
天候は快晴。水の都、聖地と呼ばれる此処クラウンシュタインの清流にも負けず劣らず美しい澄み渡るような青空が、私の心配を無用の物だとでも言うかのように雄大に広がっていた。
「な、何だあれは!?」
「死神だ」
視界の隅に、巨大な鎌の一端が見える。
ざわめく周囲の疑問に、シーン様が自慢げな声で答えるのが聞こえた。
おかしいな。悲しくもないのに涙が溢れてきた。
「KillingField、狩っていいよ。どうせ皆老い先短い人間の残りカスみたいな連中だ。生命力はそんなになさそうだが、今はこれで我慢しといてくれ」
まずいでしょう。人領の要人が集まるこの場でそういう事を誰憚る事なく大っぴらに言うのは。
その言葉に、見るからに禍々しいその身の丈と同等の大きさの鎌を持った自称死神の少女は、
「……遠慮します」
「こんな爺共では腹の足しにもならないっていうのか!! まったく、食いしん坊だな」
「…………」
十字教の教典にある伝承が本当なら人の魂を狩る一種の神様である(自称)死神の少女が、引いていた。
何が起こったのかは知らないが、半月ほど前に倒れ、復活してからは以前よりも前向きになったKillingField。
そのちょっと前向きになったKillingFieldに恐怖を抱かせるシーン様の思考回路。
引いてる死神少女に、勘違いする人間少年。
悪魔よりもシーン様の方が人類にとって害になるんじゃないだろうか?
ふと浮かんだつまらない考えを振り払う。
はぁ……今日はいい天気だ。
きっと、ルートクレイシアもここと同じくらいいい天気だろう。
そういえば、最近他国では悪魔の襲撃の頻度が増えているらしい。二年ほど前に攻め込んできた悪魔をシーン様がたった一人で一匹残らず殺しつくしてからルートクレイシアを襲撃する悪魔はいなくなったけど……
…………
「お、あいつはどうだ? 不細工な顔だが、他と比べたらけっこう若いんじゃないか?」
「……遠慮します」
…………
もう一度空を見上げる。
空は今日も憎たらしいほど晴れ上がっていた。
第三十四話【ある会議と寒い日の話】
「シルク、明日から一週間ほどクラウンシュタインにまで出向く事になった」
急にシーン様がそんな事を言い出したのは、やっと一日の仕事を終え、シャワーを浴び、さてこれから休もうかとベッドに半身を横たえかけた、ちょうどそんな時の事だった。
その言葉に混乱してしまった自分を否定するつもりはない。
クラウンシュタインという都は有名である。
別名を水の都、あるいはこの世で最も美しい都市・聖地クラウンシュタイン。
現在世界一大きいと呼ばれる河川、クラウンシュタイン川の上に丸ごと建てられた都市だ。
行った事はないが噂では水の魔術を応用したギミックが多彩な都市らしい。いや、立地条件からして多彩にならざるを得なかったのだろう。川の上に街を作ろうなんて誰が初めに考えたのか知らないが、世の中にはとんでもない事を思いつく者がいるもんだ。
まぁ、それはともかく……
「クラウンシュタインって遠いんじゃ……」
頭の中に入っている地図。クラウンシュタインは有名な都市なので、どの辺にあるのか知っていた。
人領にある国の中でもクラウンシュタインのある国があるのはルートクレイシアから数千キロ離れた場所だ。
シーン様が何故いきなり他国に行くなんて言い出したのかは分からないが……
シーン様自身、自分にどれだけの仕事が残っているのか知っているはず。そしてその仕事の大部分が、シーン様が考えなしに元々勤めていた文官を片っ端から切って捨てた結果だと言う事も。
「……えっと……なんでまたいきなり? 失礼ですが、今のこの時期に他国に出向く時間は……」
年が明けて早数週、例年なら徐々に常務に戻るはずなのだが、どうにも突然現われたらしい山のせいで今年はまだ激務が続いている。まぁ、当初よりは落ち着いてきたものの、それでも昨年よりは遥かに多い。
と言っても、シーン様が他国に行くと言うのならばそれを止める手段はないのだが……私にできる事はせいぜいそれによる被害を最小限に留めるのみ――
大抵の場合、シーン様はノリと雰囲気で行動する。だからこそ今回もおそらく何となく行きたくなったのだろう、と思っていたのだが、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「仕事だ」
「……え?」
今シーン様は何と言った?
しごと……死事――仕事? Work?
「何をそんなに驚いてる」
「……仕事って……死体の死に事件の事で死事ですか?」
「んな言葉ねぇよ」
シーン様に頭を小突かれ、我に返る。人間、思わぬアクシデントにぶつかると思考が固まるというのは本当だったようだ。
「あー、でもやる事はそっちの死事でも意味は通じるかもしれないな」
シーン様はそこで一息入れると、傍目から見てもいかにも嫌がっていると分かるようなそんな表情で続けた。
「明日から一週間、クラウンシュタインで年明け第一回目の連合の会議があるらしい。いつもはダールンが行ってたが、今回は俺達が行くことになった。なんだか色々キナ臭い状況になってきてな……座って頷いてるだけでもいいのならダールンに任せるのだが……。まったく、ルートクレイシアの事だけでも精一杯なのに何で他国の事まで気にせにゃならんのだ」
山のせいか。
直感した。
暗黒の月の間にルートクレイシアに起こった最大の変化。
ルートクレイシアの北部地域に広がっていた領地の三分の一を占める平原に突如現われた山脈の話。
年始の仕事量の増加の直接的な原因となったそれは、人付き合いが少なく且つ屋敷からあまり出ないエルフ達の間でさえ話に上がるほど、今一番ホットなニュースだ。
シーン様の遠視の術で見せてもらったから分かる。ただでさえ巨大だった平原を丸ごと飲み込むほどの巨大な峰は、今まで見た事ないほど――いや、噂や伝説の中ですら聞いた事のないほどに荘厳に過ぎる光景だった。神の棲む霊峰だと言ってもおかしくないほどに。
表面積だけだったら、ルートクレイシアの南に位置するクレイシアの地の巨大な湿地帯"水蓮口"に劣るだろう。だが、水蓮口は湿地帯であり、今回ルートクレイシアに生まれたのは山である。そもそも比べる事が間違えている。
ルートクレイシアの平原は、他国からの商隊が通る重要な交通路でもあった。数ヵ月後には舗装された道を作る計画もあった。それを塞ぐように現われた山は、正直頭痛の種でしかない。
さすがのシーン様も、その巨大な障害物を見て呆れていた。すぐにどうやってその山を崩し元の平原に戻すか考え始めた事に関してはさすがだったが……いや、それは無理じゃないですか、シーン様?
問題は自国内だけの物にとどまらない。その山が、北の軍事大国ルクセトの領地にまではみ出していた事から、外交関係にも何らかの影響が出る事は想像に硬くない。また、山に無数の悪魔が生息していた事が確認された事から、それは二国間の問題だけではなくなるだろう。
悪魔の棲む山脈。地下洞窟や高い岩山が沼地全体を囲んでいる水蓮口とはワケが違う。地下洞窟や、出入り口が一つしかない水蓮口とは違って、悪魔の地表流出を避ける事が難しいからだ。山を降りればすぐに人の移動がある街道に出る事ができてしまう。兵を常駐させようにも、人里に進軍するルートが多すぎてどうにもならない。
そんなやたらリスクの高い山を、連合が放って置くはずがない。
悪魔は人類の敵である。シーン様にとっては無害同然でも、他の生物にとっては致命傷。大抵の人類は万単位の悪魔を数分で殲滅できるほど強くないのだ。ルートクレイシア側に降りてきた悪魔は、シーン様が倒してくれると信じている。だから問題は本当に他国に対するものだけ……
シーン様は正直あまり他国の評判がよくない。完全に独裁国家なそのやり方と、それにもかかわらず"国"として急成長を遂げている事実が他国にとっては煩わしいのだろう。
放って置いたら、これから以後他国を襲う悪魔が全てルートクレイシアの山から下りてきたものだ、などと因縁をつけられる事になりかねない。
そう考えたら確かに……
「会議なら今の仕事を後回しにするのもやむをえないですね……わかりました。こちらの事はお任せください。本当はもっと早く言ってほしかったのですが……まぁ何とかなるでしょう」
シーン様は何故かお父上がお嫌いなようだ。どうも、評価が著しく低い気がする。
ルートクレイシアの大騎士と言えば、今はシーン様の名に霞んでいるがそれでもかなりの有名人だ。シーン様が九歳になり、頭角を現すまでは、立派にルートクレイシア領を統治していた君主でもある。どちらかといえば体育会系なのはやむをえない事だろう、少なくとも馬鹿ではない。
まぁ、シーン様の意向に私が歯向かえるわけがない。今着ている衣類から日々の食事、果ては名前までシーン様にいただいたものなのだから。
「何を言ってる。お前も行くんだよ」
そんな事を考えていたら、シーン様はとんでもない事をのたまった。
……私も連れてクラウンシュタインくんだりまで行くって? 冗談にしてはきつい。
別に何も可笑しな事は言っていませんよ、みたいな平然とした顔をしているシーン様の頭が疑われる。
「へっ、私もですか?」
「ああ。三人連れて行くことになってるからな。シルクも一応執政者のナンバー2なんだからそれくらいやってもらわないと」
……シーン様の目は本気だった。
いつもの、何者にも揺るがない自信に満ち溢れた黒瞳。
この主人は、本気で言っているのだ。
寝る直前に、明日他国に出向くなどと宣告するとは、本当にやってくれる方だ。
言っている事は別に間違っている事ではない。
だが、それを前日に言うか普通?
分かっているのだろうか?
「シーン様、このルートクレイシア公国の運営の大部分が私とシーン様の手によるものだと分かっていますか?」
シーン様の考え出した文官養成カリキュラムと言うものがある。
三年間のこのカリキュラムを全て完遂させればどんな所に出しても恥ずかしくない立派な文官が完成する、とはシーン様の言で、私自身三年とちょっと前にそのカリキュラムを受けさせられた。
かなり過酷なプログラムだったが、それ以上に有益な修練だったと思う。IQが人より高く、天才などと呼ばれたりはしていたが、それでも所詮ただの十二歳の世間知らずな子供だった私が僅か三年でそこそこ"使える"ようになったのだから。
問題は、そのカリキュラムの前半部分が礼節や、最低限の学力を習得するに費やされる事だ。
前半に礼節・学力の習得。
中盤から後半にかけて実践を交えた"政治"を学んでいくという事になる。
当時、出来たばかりの文官養成カリキュラムを受けたのは私たった一人だった。
プロトタイプを受けたクリアがロボットみたいな人間になってしまったため、なるべく被害を広げないように人数をなるべく減らしたらしい。他に受けている人を見かけなかったので不審に思いシーン様に尋ねた結果、そう受講者の眼の前ではっきりと言ってくれた。一瞬殴りそうになった。
ちなみに、それと同じように武官養成カリキュラムの受講者はアンジェロ一人だったのだが、彼女はそれを初めにその事を知らされたが、それでも自らカリキュラムを受けると言ったらしい。彼女は初めて会った時から既にシーン様にべったりだった。当時表情に常に差していた暗い陰がなくなったので、アンジェロにとってはそれが正解だったのかもしれないが……
ともかく、受講者が一人なんだから三年後にカリキュラムを全て終え、卒業した者も一人だ。簡単な引き算。元々一人しか受けていなかったのに二人も三人も卒業できるわけがない。
当初カリキュラムを受け始め一年の間私はたった一人文官養成カリキュラムを受けていた。
一年ほどたった後、十人ほどの第二期生がカリキュラムを受講する事になったのだが、その時既に私は前半を終え、カリキュラムの中盤に突入していたのだから一緒に受けられるはずもなく。
結果、今この屋敷で文官養成カリキュラムを全て完了させたものは私ただ一人である。おそらく後半年もたてば二期生の中にも卒業生が出てくるだろうが、それはまだ後の話。また、卒業した後すぐに重要な政務を任せるわけにもいかない。この世界は経験が物を言う。経験などどこ吹く風で事務をこなせるのは、法や節法など、人間が決めた制度を全て力でぶち壊せるシーン様のような稀有な存在のみ。私にも他の文官にもとても真似できるものではない。チェスの試合中にチェス盤をひっくり返して勝利と言い張るようなもんだ。
「今現在この国を転がすのに必要な業務の何パーセントを二人で受け持っているかわかっていますか?」
「五十七パーセントだ。知ってたか? この国は今新たに生まれ変わろうとしている。半分業務が滞るだけで確実に致命傷になる」
即答するシーン様
これだ。
五十七パーセント。およそ五十パーセントですよと言おうとした私の面目が……
おまけに、私が言う前に自分から"致命傷になる"と言い切っている。それも確実に、などと強調までして……
シーン様は、私の顔を見て一度ため息をついた。
失礼なのは、シーン様かそれとも何ともいえない表情をしていたであろう私なのか……。
「シルク、依存は駄目だ。たまに突き放つ事も必要な事、ってなわけでカリキュラムを受けている連中に本場の政務をやってもらう事にしよう」
「……詭弁ですね。国が崩壊したらどうするんですか?」
一週間ではさすがに崩壊までは行かないだろうけど……かなり不安だ。大きな勢力はあらかた片付けたが、この国にはまだシーン様の転覆を狙う連中が掃いて捨てるほど居る。国民の心はシーン様から離れる可能性は低いだろうが、本当にシーン様を降そうとする連中はトレードオフが極端に偏っているからそんな事関係なしに向かってくるだろう。
僅か十五歳で国を治める天才の中の天才。
二年前軍団規模でルートクレイシアを襲ってきた悪魔達を一時間も掛からずに殲滅して見せた稀代の魔術師。
それでも人間だ。少し観察すれば分かる明らかな弱点もある。
「国が崩壊したら、そうだな……新たな国を作るか。名前はグレイトシーンにしよう」
……眼を離してもいられない。絶対に眼を離しちゃいけない。
なるべく付いていかなくては……何をするかわからない。
会議に行くと言うならお供をいたしましょう。シーン様。
国を治めるというのならお手伝いさせていただきます。
魔界を攻める? ルートクレイシアの事は任せてください。
何て言ったって私は――
「シルク? おい、居眠りしてるんじゃない」
「……あ、すいません。少し考え事をしてました……」
全く、そこそこ重要な会議だというのに気を抜きすぎだろ。
ぼんやりしているシルクをたたき起こす。シルクはどこかぽーっとしたような表情で、こちらを数秒見つめるとふらふらと、噴水を見ているKillingFieldの方へ向かって歩いていった。
水の都。クラウンシュタイン。
その名に違わず、この都は水ばかりだ。
魔を退けるとされる流水。巨大な水の流れの上に建てられたこの街は、悪魔を寄せ付けぬ聖域としても有名である。おそらくそこんところが、人族のトップが集まるこの会議の開催地として選ばれた由縁なのだろう。
俺としては、何言ってんの? こんな場所を選ぶなんてどんだけ愚かなんだよって感じである。
身を切るような鋭い風が吹き晒す。俺は思わず、襟元を抑えるように身を縮めた。
めちゃくちゃ寒い。今の季節は冬。数千キロ離れたクラウンシュタイでもルートクレイシアでもそれは変わらない。
夏に訪れるのだったら、この場所は涼しくてかなり過ごしやすい場所といえよう。
だが冬はどうか。
街中に設置された噴水。軒下へと流れ落ちる水のカーテン、そしてそこかしこで祭りを開いている水の精霊達の現実世界への干渉結果であるホワイトクリスタルがただでさえ気温の低いこの場所を、極寒地に変えていた。
俺のような繊細な身体の持ち主には耐え切れない事である。
水の精霊の干渉があるせいか、雪が積もっていたり道が凍り付いている場所など、本来あってしかるべき現象は見当たらないのだが、そんなのが気休めにならないほどこの地は純粋な冷気で包まれていた。
此処に来る前に防寒具の準備をしておくべきだったか……ぬかったな。
馬やドラゴンでここまで来るんだったら、途中の都で防寒具を買うという選択肢もあっただろう。
俺の今回此処に至った手段は転移魔術である。暖かい俺の屋敷、屋内から極寒の地への一瞬のトリップ。所要時間はドラゴンや馬などとは比べ物にならないほど少ないが、便利すぎるというのも問題だったようだ。
今現在着ているのは、俺のトレードマークでもある薄手の黒のコート。
お気に入りではあるが、防寒具としての性能は皆無に等しい。
転移魔術で一端帰還して準備してから戻ってきてもいいんだが、目的も果たさずに帰るというのもなんだかな……
「くしゅん!!」
そんな事を考えていると、死神少女が可愛らしいくしゃみをした。
今回の会議で各国から参加する人数は三人。護衛は別に連れてこれるが、都に入る事は許されない。
俺の場合は転移魔術で一瞬で中に転移したので、護衛は零である。
三人の中で一人は自身として、残りの二人誰を選ぶかはかなり迷った。
その二人の中にKillingFieldを選んだのは、未来の俺が、死神は鎌で対象を狩る事によって生命力を吸い取れると述べたからだ。本人にも確認したので間違いないだろう。
KillingFieldは、種族によるものだろうか生命力の減少率が非常に高い。死なせないためには誰かを狩らせる必要がある。
そこでこの会議で参加者を狩らせる意味が出てくるのだ。
KillingFieldが会議の参加者を狩れば、生命力を吸い取れる。その分だけ長く生きる事ができる。
そしてまた、この会議の参加者は皆各国のトップクラスの官僚である。その官僚が死亡すれば、他国の国力が下がる。下がらないまでも、この会議の中で人が死んだら大事件になるだろう。良くない影響が出るのは確実だ。
一石二鳥とはこの事だろう。他人の不幸は自分の幸福。可愛い娘が居ればまだ考えようがあったのだが、爺ばかりなので遠慮する必要もない。
しかし……
「ッ――くしゅん!」
やっぱり防寒具、取ってくるか。
女の子が身体を冷やすのは良くない。風邪でも引いたら一大事だ。
シルクとKillingFieldはここに滞在する間の俺の夜の相手なのに……
「くしゅ……うーん……」
KillingFieldの隣でくしゃみをするシルク。寒いなら噴水の側に寄らなきゃいいのにな……
m(_ _)m
生きてます!!
期末テストの期間に入りました。
テスト期間中ってゲームとかやりたくなるよね?・w・
正直遅れた理由はその程度です。風邪引いてたわけでもないし……ネトゲって怖いですね。
一日一話だったのに……それでもPv増えてるからそれが申しわけなくて……
うん、何かいろいろとごめんなさい。テスト期間中が過ぎたら長期間時間ができるので、、、
(´▽ `)
ごまかしのための没稿晒し
前話:KillingFieldの想いより
死神として生まれた者をも恐れさせる存在。
こういう存在がいるからせかいのほうぞくがみだれたり世界のバグが出てきたりするんだ。
自分がバグNo.56なのもこういう人間がいるからなのだ。
世界観がめちゃくちゃなのもきっとそのせいだ。
大体、バグNo.56って事は55まで居るって事だ。多分つっこまれたら答える事ができないだろう。
なんて……無様――
どこで使う予定だったが忘れたけど、多分三十話?
「シーン様、月十字の文様の件で教会が正式に謝罪と撤回を要求しております」
「別に神を崇める事は勝手だが、目的と手段を取り違えるとは愚かな。本来の主を忘れ、あまつさえ領主の息子たる俺にキバを向くなど言語道断。歯向かうなら死を覚悟しろと伝えろ。撤回する気はない。偶像を崇め、実際に統治を行っている俺に跪け」
元二十八話予定だった話。
キャラが増えすぎのような気がしたので断念。
タイトルが一文字なのは、一話書き終わってからタイトルをつけているせいです(´▽ `)
Lemegetonが異世界にあったんだ。ソロモンの指輪も異世界に来ているかもしれない。ついでに見つからないかな……
そんな淡い期待を抱いて続けられた探索だったが、あいにくとそう都合の良い展開にはならないようで、猫耳以上の収穫が現われる事なく、日は沈みかけていた。
もちろん、猫耳こそ至上であるからして例えソロモンの指輪が見つからなかったからと言って異世界に八つ当たりするほど愚かではない。大体、三千年前まで間違いなく魔王城にあったものなのだ、異世界に来ていなくても恨み言を言う事など――
それを言ったら、Lemegetonがここで見つかった事が既にイレギュラーなんだけどね。世の中には不思議な事があるもんだ。
街を焦がす業火はそう簡単に消える気配はなかった。
おそらく、俺ならばこの場所なら精霊の力を借りずとも大量の水を発生させる事は可能だろうが、キャンプファイヤーとか好きな俺にとって焼けている家は一種の芸術のようなもので、火をつける事はあっても消す事は滅多になかったりする。
探索の間、前を阻むものは全て殺した。
ダーウィンの進化論の末端に位置するであろうありとあらゆる動植物の変化系っぽい魔獣達。
見ている分には不可思議なその外見はとても興味深いものだったが、実際始末するとなると面倒くさくてしょうがない、
いや、面倒くさいというか……臭い? 獣くせえ。死ねばいいのに。
闇魔術の大半は、触れずして消し去るものであるためその肉片が身体に付着しなかったのがせめてもの救いか……もう既に供物を捧げる際に血まみれになっているのだが、これはやむをえない理由があっての事なんでしょうがないだろう。
……嫌味言われるんだよな。血まみれで帰ると洗濯が大変とか。それ以上に心配してるみたいだから無碍にするわけにもいかないし……
虚影骸世を使えば衣類に染み付いた血液だけ消滅させる事もできるんだが、それは秘密にしてる。あいつらたまにはこき使わないと調子に乗るから。優秀な主人は人を使うにも色々気を使うものなのだ。
異世界は今夏のようで、数日来る時間を遅れさせていたら、俺の目に入ってきたのは腐乱死体の山だっただろう。まったく、殺したのを喰い残すなよ。喰うなら欠片一つ残さずちゃんと喰え。
第二十八話【俺】
突然視界の中に入ってきたソレを見ていた。
身体中を赤黒く染め上げる血液。
まるで血のプールから上がってきたばかりであるかのような格好をしたソレは、おそらく恐怖という感情を抱く事はないだろうと宣告された自分にさえ、気色が悪いと感じさせるほど奇怪な何かを纏っている。
聞こえるはずのない、ひたひたという足音。
先ほどまでこの部屋の主として存在していた蛙に似た異形は既に居ない。
前触れもなく膨れ上がり爆散。飛び散りべちゃりと容器に張り付いた肉片のみが、異形が存在していたと証となっている。
ソレはおそらく人間だった。
見た目は真っ赤だったが、骨格や動きで人間だと分かる。
少なくとも、自分を生み出した者達を殺しつくした異形とは明らかに違う。。
力のみ観察すると、異形を遥かに超えてはいるけれど――
微かに上がる泡。
呼気により発生するソレは、新たに現われた生物に、頭ではなく肉体が気づいたという証。
ソレが顔を上げる。
微かに緑に偏光した視界の中で、その眼窩に生える瞳だけがやけに黒く映っていた。
"何だこれは?"
脳裏に流れ込んでくる声。
外の振動は伝わらないこのカプセルの中において、音と呼ばれる概念は内にのみ棲むものだ。
伝わってくる声は、自分の感覚により得ているものではない。
隣人も起きたのだろう。いや、寝ていなかったと言うべきか。何しろ、創造主達はぎりぎりで自分達を起こす事ができていたのだから。
そのモノは、興味深そうに自分を眺め、その隣人を眺め、そのまた隣人を眺め――
最後に床に散らばった無数の書類を眺め、それを手に取った。
床には書類の他に、かつて人間だった肉片――人間の形がまだ残っている肉片が多量に転がっていたのだが、どうやらそれには微塵の興味も抱いていないらしい。
ソレは、首輪をつけ引きずってきた異形の上に腰を掛けると、真剣な表情で書類をめくり始めた。
"んー、奇妙な力を持つ異人類についての研究報告書? またベタな……HighOverを得るために機能し得る新たな器官について。HighOver……魔術の事か?"
魔術……おそらく、ソレの言う魔術とHighOverは違う。
朦朧とした意識の中、考える。
どうやら、この人間は魔術師らしい。なるほど、優れた魔術師なら異形をものともせずにここまで来る事も可能であろう。
ソレは、ぱらぱらと軽く書類をめくると、それを放り投げ立ち上がった。
自分の容器の前に立ち上がり、こちらの瞳を覗き込んでくる。
研究者のほとんどは、金髪に蒼い瞳。漆黒の眼はこの地ではとても珍しい。
それが、コレは異国の者であることを示している。
じっと見つめる視線。
それをただ純粋な興味から見返す。
十秒ほども見詰め合っただろうか、やがてソレは興味を失ったように一言呟いた。
"男か。いらんな"
隣人を中継とし、脳裏に送り込まれる思念。
割れる視界。
メーターが緊急事態が訪れたことを示す警戒音を一瞬鳴らし、すぐにソレに砕かれた。
リアリティを感じさせる音。
色のある本物の音が鼓膜をゆする。
急速に減退する圧力。
カプセルの中に満ちていた栄養液が排出され、自分の身体が投げ出されるのを感じた。
久しぶりの呼吸に喉がひりつく。
脳を揺さぶる混乱。
大事に育てられてきた自分達を襲った二度目のアクシデント。
何が起こったんだ?
ソレが異形にさえ傷つけられなかったカプセルを素手で砕き、中に入れられていた自分が投げ出された。
答えはすぐに出たが、何故そういった状況に陥ったのかはさっぱり分からない。
自分はかなり重要だったはずだ。こんな風に扱われる謂れはない。
身体が動かないのは、長い年月ずっと重力の少ない液体の中に居たため。
大量の血が濡らす床に"這い蹲る"という初めての経験は、まるで悪夢の中に引きずり込まれたかのように甘美だった。
未だ嘗て聞いた事のない、本物の音が聞こえる。
「ちっ、また男か。さっきから頭の中に話しかけてきた奴は貴様だな。死ね」
鮮烈な衝撃音。
降り頻る銀の飛沫と、べちゃりと何かが床に落ちる音。
そういえば、隣人も表面は雄性体だったな。
何とか頭を動かし、隣を見ると、自分と同じように這い蹲る隣人が見えた。
ちょっとだけ面白かった。
"何が起こったんだ?"
隣人が声を掛けてくる。
隣人は、音を介さずに意志を相手に伝える能力を持っている。
どうやら自分と同じく死んではないらしい、その隣人の友人としては安心した。這い蹲っている姿が面白いと感じたのは友人であるか否かとは関係ない話である。
"どうやら、あれは研究者ではないようだがどう思う?"
自分に聞かれても分からない。だが、つい数時間前に襲撃してきた蛙の形の異形を考えるに、研究室の人間は皆殺されたのではないだろうか?
ぴちゃぴちゃと足音が高く響く。
あまり高くない天井、乱雑に置かれた器具の中、ソレは次のカプセルに向かう。
「まーたー男か。いらねえ」
ついさっき聞いた二度の衝撃音と似た音。
なんだかよく分からないが、機嫌が悪いようだ。
何か探しているのだろうか? 有するHighOverの種類は雌雄とはあまり関係ないので、男か否かを判断基準とするのはどうかと思うのだが……
「ん? カプセルが開いてる? ――ッ!! な、死んでる!?」
そんな事を考えていると、急に狼狽するような声が聞こえた。
外に出て数分、どうやら慣れたようで身体は動く。
何とか腕を床につき、自分は初めて足で立ち上がった。
ぐらぐら揺れる景色。
崩れそうになる身体を何とか抑え込みバランスを取り、初めてのカプセルを経由せずに見る景色にちょっとだけ感動した。
倒れている二人の隣人の向こうで、ソレがしゃがみこんでいるのが見える。
「チッ、せっかく女なのに――誰だ、カプセルを開けたのは!!」
耳に残る怒声。
そういえば、研究者が攻撃系の能力を持つ隣人のカプセルを起動していたような気がする。
異形と戦わせるために。
カプセルから出すための一定の手順を行う時間がなかったらしく、結局戦う前に研究者は死んでしまったようだが……
「たい……き――」
声帯を震わせると、しわがれた声を出す事ができた。
初めて聞いた自分の声に一縷の感動を感じる。しかし、ソレが振り向く気配はない。
聞こえなかったのだろうか?
「待機、じょう、たい、からしか――」
「うるさい」
せっかく教えてあげたのに思い切りしかられた。