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黒紫色の理想  作者: 槻影
42/66

第三十一話:死と俺とある少女の話


 

 俺はその時ひどく不機嫌だった。

 暗黒の月が明け、新年が始まって早一週間。

 俺の眼の前には、平時のおよそ五倍ほどの量の書類が積み上がっている。

 これでも少しは減った方なのだ。元旦の午後には、この一・五倍の量の書類があった。

 

 暗黒の月の間、脅威となるのは餓死の恐れだけではない。ちょっとした風邪、本来なら医者に駆け込めばすぐに処置できるであろう単純骨折など、ちょっとした障害が人にとって多大な被害を及ぼす。

 また、暗黒の月明けは人の動きが活発になるため、二次災害もかなり起こる。

 年明けに大量の仕事が舞い込むのは必然的な事だ。片っ端から無能を切っていった事もまたそれに拍車をかけている。尤も、切った事に後悔はしていないが……

 

 問題は、今回の仕事の量が異常に多いという所だ。

 昨年までは、元旦でも平時の三倍ほどの仕事しか舞い込んでこなかった。

 それが、今年は元旦で平時の七・五倍の仕事量。例年の二倍である。過労で倒れてしまいそうだ。いや、倒れはしないけどさ。

 

 仕事の量が多いのは、暗黒の月の間にルートクレイシア領の地形が変化したため。

 以前述べたような気もするが、暗黒の月の間に地形が変化するのは、滅多に起こる事ではないもののありえない事ではない。それ単体ならまだよかったのだが……

 

 

「まさか、山ができるとは……」

 

 

 書類の山の事ではない。

 去年まで、ルートクレイシア領の北方に広がっていた広大な平野。

 そこにいきなり山ができたとか言われたら、誰だって冗談だと思うわ。

 そもそも、暗黒の月の間の地形の変化ってのは本来微々たる物なのだ。少なくとも、三千年前も今も、暗黒の月の間に山が出来上がったなんて話俺は聞いたが事ない。

 この書類の山の半分くらいは、その新たにできあがった山に関する事である。

 貴重な鉱石が発掘される可能性ありき、金に目が眩んだ商人共から、人領でも屈指の標高を誇りそうな雰囲気をバンバン出しているところから、眼の前にある山を登頂しないと気がすまないという難儀な性質の登山家まで、皆の注目を独り占め。

 その山がご丁寧に北の国境をぶち抜いていたため、北方に広がるなんたら国とかいう国との折り合いも今後の注目点だろう。

 

 

 

 

「あほか。山とか死ねばいいのに。崩れればいいのに」

 

 

 

 

 馬鹿と煙は高いところが好き

 この世界、俺以外は馬鹿ばかりだ。山なんて大嫌い。ぶっちゃけもう、放置したくてしょうがない。

 だが、それでも一応これは国内の問題なのだ。外交でも何でも、問題が起こった以上トップである俺が出ないわけにはいかない。

 

 温厚な俺に、人としての倫理を無視して喧嘩を売ってくる方々。

 山の所有権を主張する北国に、何故かそれに賛成する全く関係のない国がいくつか。

 手を出さなきゃ北の国に山を丸ごと奪われそうな雰囲気。山の三分の二くらいは、ルートクレイシア領内にあるのだが、そもそも山が大きすぎてそんなのは関係ねえみたいな感じになっていたりする。

 馬鹿には天才の気持ちはわからないって事で、俺の評判は連合の中でも一際悪い。手腕とかではなく、感情的な意味で。

 堅く凝り固まった思考しかできない爺共には、柔軟な思考を持つ俺の気持ちは理解できないのだ。論理的な思考が求められる会議で感情論を持ち出すって所で、既に俺とは相容れない存在だと言う事を示している。

 

 連合の会議には、俺は出席しない。

 このスタンスを今まで崩した事はなかったが、今回ばかりは崩さざるを得ないか。

 新しく山が現われる。

 ダールン公が言っていた、突然現われた城の話もあるし、平時だったらまだ誤魔化せるものの時期が時期だった。遠からない内に連合で会議が開かれるだろう。そして、ダールンにその会議に出席させるわけにはいかない。

 ダールンは生粋の武人だ。別に脳みそが筋肉で出来ているってほど愚かではないが、人と交渉できるような人間ではない。

 

 ダールンには、会議に出席できないほどの重病になっていただくことにしよう。

 

 

「しかし山ねー……何の因果でこの時期にでてくるんだろう。こちとら多忙に多忙を重ねて大変だってのに……」

 

「シーン様、大変です!!」

 

 

 また何か起こったのか……

 

 今まで読んでいた書類を机に置く。

 ノックをするという最低限の礼儀すら欠くほどまでに慌てたアンジェロの様子に、嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「KillingFieldが倒れました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十一話【死と俺とある少女の話】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 KillingFieldは人間ではない。MakingGolemで誤って出現したバグである。

 だが、こうして眠っている姿を見ていると、どう見ても同年代の人間の女の子に見えた。

 思えば、初めて会った時に俺を真正面から殺そうとしてきたのは、この子だけだったのかもしれない。

 

「まるで眠っているかのようだ――」

 

 ベッドに寝かせられた少女を想う。

 特に何の表情も浮かんでいない寝顔。

 

 駆け寄ってすぐにその身体を隅々まで調べた。

 体温・脈拍とも異常なし。だが、確かに彼女は死にかけている。

 十日ほど前まで、特に何の予兆もなかったのに――いや、十日ほど前まで予兆がなかったなんて言い訳にもならないだろう。死なんて二束三文どこにでも転がっているものだ。

 たとえLVが高くたって……そんな事は無関係。特に病気にかかっている様子のなかった人間が、数時間後にころっと逝ってしまうなんてのはざらに起こりうる事だ。

 

 外傷はない。病気にかかっている様子もない。

 唯一極端に低下が見られるのは生命力。人が生きていく上で空気や水なんかよりずっと重要な命の源。魂とは違うが、魂に近いモノ。

 

 俺の他に、この部屋には誰も居ない。アンジェロやシルクには仕事がある。休ませるにはいかない。俺の仕事? いーの、KillingFieldの方が大切だから。

 

 初めて入るKillingFieldにあてがった部屋は、驚くほど何も物がなかった。ベッドに机、そして棚。デフォルトな状態ともいえる。

 言葉はいつまでたっても話せるようにならず、自己主張はしない。かろうじて食事は取っていたようだが、ただそれだけで生きる存在。おそらく、周りも扱いかねていただろう。

 

 

「何でKillingFieldは――」

 

 

 何を言おうとしたのだろうか? そこまで言いかけて俺は言葉を止めた。考えていなかったとも言う。まぁそんなのはどうでもいいことだ。

 

 どうして俺は十日もKillingFieldを放って置いたのだろうか?

 

 

 その答えは至って簡単――

 

 

 

 

 

 放って置けば甘えてくるKillingFieldを見られるかなーって思ったから。

 毎日呼んだらしつこいと思われるかな、と。

 ルナの時も思ったが、俺は少し浅慮らしい。俺に呼ばれてしつこいなんて思う子がいるわけないじゃん。

 

 だから実際には、バグに関して様子を見ていたのだろう。

 二つ目のバグは、ナリアとなって俺についてまわっている。

 三つ目のバグのせいで、俺の私室は今はジャングルだ。

 

 

 

 

 

 そして……一つ目のバグは、今ここで死に掛けている。

 

 

 

 

 

 

 

「生命力の減衰……」

 

 まず間違いなく薬では治らない。

 たとえ、遥か昔アンジェロが病に倒れた時に見つけてきた万能薬をもう一度見つけてきたとしても、おそらくこの状況を回復する事は不可能だろう。

 なぜなら、病気にかかっているわけではないから。

 ただ単に生命力が減っているだけ。だがそれこそが最も致命的。

 今のKillingFieldの状態は、老衰直前の爺に近い。

 長い時を生きてきて、少しずつ生命力が枯渇していって死に至る。時間による死亡とも言えよう。

 本来なら、生命力が減ればそれに従い身体も老化していくはずだが、KillingFieldの身体が会った時と変わらず少女の物なのは彼女が人間ではないせいか、それとも老化する間もなく一気に生命力が抜けたせいか。

 

 いかな治療魔術でも生命力を回復させる事は不可能。魔力により生命力の減衰を抑える事はできても、生み出す事はできないのだ。

 取り敢えず、真っ先に生命力の枯渇を減衰させる魔術は使ったものの、生命力の残量からおそらく数日以内にKillingFieldは自然死するだろう。

 今の状態で目を覚ます事はもうあるまい。これっぽっちの生命力では生物が活動する事は不可能。

 

 切り揃えられた髪を撫でる。

 冷たい漆黒の御髪。明確な死の感触がした。

 そういや、こいつは死神だったんだ。でっかい鎌持ってな……

 

 

 

「あの鎌が形見か。凄い形見だなおい」

 

 

 

 全世界どこを探しても、大鎌を形見として譲り受けたものは俺くらいだろう。

 涙はでない。なぜなら俺はたとえKillingFieldが死んでも全然悲しくないからだ。生物として生きる以上、死は慣れなくてはならない最も大きな障害である。生物を殺した事があるものは、決して身近な死を見て悲しんではならない。それは、この世に存在するありとあらゆる罪を超えた罪悪だと思う。人を殺しておいて死んだ者が可哀想とかどんだけだ、おい。

 

 KillingFieldの胸に手の平を当てる。

 とくんとくんと言う心臓の鼓動。

 確かに生きている。しかし近いうちに死ぬのもまた必然。決して、あー生きているうちにもっと抱いておけばよかったとか思ってません。神に誓ってもいい。俺が神だけど。

 

 

 

「KillingField、起きろ。シーン様の命令だ」

 

 

 

 久しぶりに命令してみたが、起きる様子はなかった。

 命令を無視するKillingField。そういえば、元々あまり人の命令を聞くタイプじゃなかった。拒否もせずただ無視するタイプである。

 

 冷たい空気が、部屋を満たす。死神の身体って人間と同じ材料で出来ているのだろうか? 少なくとも性交渉は人間とあまり変わらなかった。

 死姦の趣味はない。死者は尊く、俺が干渉していいほど立派なものではないのだ。死者は生きている者と相容れぬ関係にある。生者は生者でやる事があるんだから、死者に構っている暇などない。

 

 

 俺は、死人を動かす魔術を知っている。

 "MakingLivingDead"

 生ける屍を生み出す闇魔術。

 以前、MakingGolemは命を生み出す魔術故に禁術だと言った。MakingLivingDeadは禁術ではない。死人は死人のままって事。

 もちろん死人を愛でる趣味のない俺はそれをKillingFieldにかけるつもりはありません。死人の再び現世を歩ませるような褒賞を与えるほど俺は優しくないのだ。死人は死人らしく土の下で眠っていればいいのである。

 

 

 

 

 

「起きろ、KillingField。起きたらお前の事をこれまで以上に優しく愛でてやろう。具体的に言えば三日くらいかけてじっくり愛してやる。起きなければ逆に鎌の柄をまたつっこんでやるが、それでもいいのか?」

 

 

 

 

 しばらく返答を待つ。

 やはり起きる気配のないKillingField。

 ったく。まだお前は死んでないだろ。根性で起き上がれ。

 せめて最後に一度くらい言葉を話してもらいたいものである。俺がわざわざ時間削って言葉教えたのに成果がないなんて悲しすぎるじゃないか。

 KillingFieldは字が読めた。計算も出来たし、頭の回転が遅いほうではないはずだ。それなのに最後まで言葉を話さなかった死神。聞いたのは、現われた直後に言った『Error-56. "KillingField" OUT-BREAK』の一行だけ。

 

 

 

 

「あー、何か目薬差したくなってきた」

 

 

 

 目が乾いているわけではないけど、目薬を出した。事務仕事に必須な目の疲れを取るアイケアー四百八十円税込み。

 キャップを開けた瞬間、馬鹿らしくなる。目が乾いているわけでも疲れているわけでもないのに目薬取り出すってどうかしてる。

 

 仕方ないので、KillingFieldの顔に垂らした。

 身じろぎ一つせずに水滴を受け入れるKillingField。白い極上の肌に水滴が流れ落ちる。

 え? 涙出てないかって? でてるはずないじゃん。さっきの話の通り、俺は死を蔑みはすれど悲しみはしない。俺が泣くのは、自分のミスで所有物の身体に傷を残した時くらいである。

 目薬もほら、KillingFieldに全て垂らし終えました。俺は一滴も使っていない。だから顔は乾いている。

 その代わりKillingFieldの顔がびしゃびしゃだ。多分、俺と別れなければならない事に悲しみ涙を流しているのだと思う。いや、泣いているに違いない。

 

 

 

 たっぷり十分、俺はその眠るような顔を見つめていた。

 水滴に濡れるKillingFieldの顔を。華奢な身体を。

 そういや、よく見てみるとKillingFieldにはゴスロリな服が似合うだろう。今度着せてみよう。今は仕事が忙しいからどっかで買って来るしかないけど、いつか必ず手作りしたものを着せよう。間違いなく似合うに違いない。ゴスロリの死神。結構ありがちなキャラだな。

 

 

 窓の外を見る。

 そろそろ日が沈んできた。仕事のほとんどは、シルクが代わりにやってくれると言っていたが、それに頼り切るのも癪である。

 そろそろ茶番を終わらせるか。

 KillingFieldの顔を覗き込む。

 贔屓目に見ても美しい顔。

 黒曜石のような虹彩を持っていた猫みたいな形の瞳に、整った眉。

 手入れもしていないのに処女雪のような肌に、微かに上下する朱色の唇。

 

 

 

 

 

 

「KillingFieldと自分の命、どちらが大切か……」

 

 

 

 

 

 元々、俺には選択肢のない話だった。

 だからこそ、今まで上記の内容は全てただの戯言、つまりは愚痴である。

 簡単な話だ。どっかの蟻も言ってたが、壊れてしまったなら治せばいい。

 源がないなら、ある場所から持って来ればいいではないか。

 

 魔力で生命力を生み出す事はできない。だが、橋渡しくらいならできる。

 生命力がこんなに早く減衰した原因が分かっていないので、しばらく時を経ればまたこの状態に陥るだろうがそれでも今死ぬよりはずっとマシ。器いっぱいまで注げばそこそこもつに違いない。

 死人に干渉はしない。だが、生きているなら話は別。俺のポリシーからしてもノープレブレム。

 大体所有物が所有者の意思を無視して勝手に死ぬ事自体が間違えている。

 まだ俺はKillingFieldに飽きていない。少なくとも俺に愛の言葉を言うまでは――もうちょっとだけ付き合っていただこう。

 

 エナジードレインを逆に働かせる。

 俺という器に入った生命力。感じるところ、質がいくらかKillingFieldよりいい。当然だ、天才というのはありとあらゆる面で優れているのだから。

 

 

 

 

 

 

「KillingField……愛してる」

 

 

 

 

 

 

 やっぱりテンプレートは重要です。

 眠っているKillingFieldに顔を近づけ、口づけすると同時に俺は自らの生命を空っぽの器に注ぎ込んだ。

 

 

時間ないです(*ノ∀`)ペチンッ

更新はあまり期待しないで(オイ

内容もあまり期待しないで(オイオイ

最近スランプです つД`)・゜・。・゜゜・*:.。

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