第二十九話:ある爵位とデジャヴな俺
「んぐー! むぐー! んむ――」
猿轡を噛まされ、手足を拘束されながらも、地陸には微塵の敵意の衰えも見られなかった。
場所は地下牢。
以前ゴーレムを作った地下室とは別にある正式な地下牢であり、屋敷に侵入した賊のうち、不幸にも死なずに捕らえられた者を拘束するため、あるいは不手際をしでかした使用人などに処罰を与えるために数代前の当主により作られた独房である。
独房と言っても、家の者が常に清掃をしているのでその内部は清潔そのもの、屋敷に存在する部屋の中では当然最低ランクだが、部屋のレベルとしては一般的な平民の家にある部屋と大して変わりはない。
窓がない事と、鎖を固定するために打ち付けられた杭が壁に出ているという点が普通の部屋とは違うが……
「んぐーッ!! むぐーッ!!」
「うっさいな。黙れよ」
現在、五つ存在する独房のうち埋まっているのは二つである。一つはこいつ、もう一つの独房はダールン公。
こいつと違い、親父様は鎖には繋がれておらず、また、扉に鍵もかけられていない。600オーバーの騎士をこの程度の独房で拘束するのは些か力不足といわざるを得ないからだ。600を超えてしまえば、もはや身体中が凶器みたいなものなのである。
この地陸のように、魔術で弱らせてしまえば普通の鎖でも十分拘束できるのだが、ソフィアお母様がこの家に住んでいる以上、ダールン公に変化があったらばれる恐れがある。
母上には、きちんとした屋敷の一部屋を宛がっているのだが、毎朝一度は顔を見にここに来るようだし……
母上と親孝行な俺に感謝するがいいさ。
第二十九話【ある爵位とデジャヴな俺】
しかし……こいつは一体どうするべきか……
猫耳を前に、俺は進退極まりない立場に追い込まれていた。
今日でいよいよ暗黒の月が終わる。
明日からは、また新たな一年が始まるわけだ。俺のような名君にとって、一年の始まりというのは、それほど時間のある時節ではない。特に、三が日はいつも以上に仕事が山ほどくる。
一月さぼっていたという事実が、書類の山という形になってやってくるのだ。さぼっていたというよりは、何も仕事がなくてやりようがなかっただけなのだが……
その前に、この猫耳を屈服させる必要があった。
なんたって、仕事が始まると俺にはこいつだけを構っている暇がなくなる。
外に出れるようになったら、魔界についての調査を進めなくてはならない。Lemegetonの解読もまた当然として、他に悪魔少女や、世界のバグについての研究も行っておきたい。StrangeDaysはどうしたらいいのだろうか?
軽く見積もっても、やるべき事がこんなに沢山。いくら異世界の神秘の猫耳とはいえ、振り分けられる時間には限りがあるのだ。本来なら、今日も他の予定があったのだが、キャンセルした結果ここにいる。
今までの俺には、強制的に他者を奴隷にさせる闇魔術があった。
一定の条件を課す事で他者を縛る絶対の盟約を結ぶ闇魔術。
第一位闇魔術"約利縛心"
一定の条件を、他者に宣告し、それに対して相手が肯定の意を示す事により発動させる特殊な魔術である。
トンボに殺されかけていた二夜とクレシダに問いかけた内容を覚えているだろうか?
"トンボを殺す代わりに、死ぬまで身も心も捧げろ"
あれが、"約利縛心"を発動させるために課す条件の一例だ。
宣告し、相手が頷く事により地盤が完成。
俺が、条件を満たした瞬間に術が発動する。
この術の最も使い勝手のいい点は、術が発動した瞬間から対象は条件を破れなくなってしまうという所だ。
破れないというのは、某漫画にあった"破った瞬間心臓を鎖が握りつぶす"とか、"破った瞬間に知性の欠片もない蛙に変化する"とか、そういう呪術に似たものとはちょっと違う。
破れないというのは、文字通り破ろうとしても身体が破ってくれないと言う事だ。
例えば、"自殺をするな"と命令した瞬間、その対象はどんなに自殺をしたくても自殺する事が不可能となるのだ。
ナイフを握り、自分の心臓に向かって差し入れる。
ロープを天井から吊り下げ、首吊り自殺を決行する。
頚動脈を切り裂く。
線路に横たわる。
硫酸のプールに飛び込む。
そういった類の行為を行う事が一切不可能となる。
惚れろと命じれば、俺を愛するだろうし、死ねと命じれば一切の躊躇なしに――いや、躊躇など関係なしに自ら舌を噛んで死ぬだろう。
弱点としては、どんなに長い年月を設定しても契約の発効期間は三年と限定されており、一回使用するとすると、その契約の期間が切れぬ間は"約利縛心"の術を使用する事ができないという点だが、三年もあればいくらでも凋落できるし、わざわざ効果のある期間が何年かなど教える必要はない。
それなのに――
「攻撃するなって命令、確かにしたよな?」
「んぐー!! ふぐー!!」
腕に巻いた包帯を指でなぞる。
微かな痛み。
確かに俺は約利縛心をかけたはずだ。
課した条件は、開放する代わりに俺に従う事。こいつは確かに頷いた。術が発動したという感覚もある。
一両日の間、確かにこいつは俺の命令に従っていた。
開放した後出した命令は二つ。
他者に攻撃しない事。
常に俺の側に居る事。
さしあたり、皆がどんな反応をするか試していたのだが……
「途中で契約が切れた? 異世界の住人だから、か?」
急に切れた契約。
もし仮にそれが、俺の寝ている間に起こっていたら――死んでいたかもしれない。
幸いな事に、契約が切れた瞬間、執務室にいたのは俺と地陸だけであり、突然の反抗にも何とか対応できたものの……
爪が掠っただけで腕が落とされるとは、恐るべし馬鹿力だ。
綺麗に落とされていたため、ヒーリングを使えば一気にくっつける事も可能だったのだが、術に対する慢心を戒めるため芯だけ術で接着した後、包帯で固定している。一気に治すと傷跡が残る可能性もあるし……
「うーん、どうしたものか……」
鎖をがちゃがちゃ言わせ、身を捩らせる地陸。
一回契約を結んだ以上、いくら畜生といえどもう二度と同じような失敗はしないだろう。事実、さっきから色々開放のための条件を述べているのだが一度として頷く事はなかった。知性か本能か。一日の間契約に縛られていたという事実が、心的ガードを硬くしている。
めんどくさいな。このタイプは一回落としてしまえば後は何とでもなるはずなのに……
酒を飲まして酔っ払わせ、その隙に契約を掛けてしまおうと思い、度数の高い酒をぶっかけたり血管に直接注入したりしたのだが効果はなかったし、拷問しようにも、いつか俺の物になる身体に傷をつけるわけにもいかない。
初めに契約を結んでいるうちに俺を愛するよう命令してしまえばよかったと思っても後の祭り。過程が楽しいんだ、ツンとデレの比率を見極めろ、とか思っていた自分がひどく恨めしかった。
ふーふー威嚇してくる猫耳。
ぴんと張っている尻尾を見てると、こいつに手間取っている自分が情けなく思えてくる。
こいつは猫だ。秘密兵器の黒いGも効果はないだろう。というか、こいつに弱点はあるのか?
またたびを使おうにも、またたびの在庫はない。ねこじゃらしも同じ。ていうか、ねこじゃらし使ってじゃれてこられたら非常に危険だ。
KillingFieldの時みたいに、鎌の柄でも突っ込むか?
少しは大人しくなるだろ……一歩間違ったら死ぬかもしれないが……
鎖が擦れる凶暴な音が独房に響く。
猫耳少女はもうちょっと可愛らしい存在だと想像していただけに、ギャップがひたすら痛かった。
耳を触ると威嚇する。
尻尾を触ると威嚇する。
どうせいっちゅーねん。
「俺はさー、開放してあげたいんだよ……」
「――ぐー!! ひぐー!! むぐー!!」
「もうちょっと大人になれよ。お前は負けたんだろ? 勝者の戦利品として潔く俺の物になるのが筋ってもんじゃないのか?」
「ぐるるるるる。むがー!!!」
誠心誠意、説得にかかる俺に、聞く耳を持たない馬鹿な獣人。
倒せば仲間になるとか、そういうのはゲームの中での出来事だって事か。
諦め半分、もうこうなったら前後不覚になるまで薬漬けにするしかないか、と考えたちょうどその時、扉をノックする音が俺の耳に届いた。
「シーン君、いるかな?」
ここ一月の間、ほぼ毎日聞いている親父様の声。
正直、あまり聞きたい声じゃない。いや、むしろ聞きたくない声だ。
だが、今のこの状況よりも、中年の親父の声の方が幾分かマシかもしれない。
「入れ」
律儀にも俺の返事を待って開く扉。
とっくに覚悟はしてあったのだが、やはり朝っぱらから中年親父の顔を見るのは気分が悪かった。
扉の隙間から親父の顔の一部が見えた瞬間、もうなんというか……帰りたくなる。帰る場所ないけど……
顔を見た瞬間、心の中で前言撤回した俺に構う事なく、親父様はずかずか部屋の中に入ってきた。
「シーン君もいよいよ当主としての貫禄が出てきたね」
会って早々気色の悪い言葉を吐く親父様。
こんな奴が騎士とは、つくづくおかしな文化だ。
親父様が、繋がれた猫耳にちらっと一度視線を向け、すぐに俺の方に戻して言った。
「ずいぶん愉快な事を――犯罪だけは起こさないでほしいかな」
「俺が法だ。とっとと用を言え」
騎士にしてはずいぶん愉快な性格をしているダールン公。
誤解のないよう言っておくが、人間界の他の騎士達がみんなこいつのような性格をしているわけではない。こいつはむしろ少数派だ。
繋がれた猫耳に向けられた視線は哀れみか好奇心か。
多分、哀れみとかは入ってないと思う。
「相変わらず冷たいな。さぁ、呼んでおくれ。パパと!!」
「とっとと用事言えよ。脳みそ抉り出すぞ」
一言一言にどうしてこうも重みがあるのか。
心の中を抉るような気持ちの悪い言葉に、吐き気がした。
まぁ、こいつとも明日にはもうオサラバだ。レアに手を出す暇はなかったが――まぁ、正直どっちでもよかったから別に未練はない。
グラングニエルって、元はたった一人から始まった、いわば一族全員の血が繋がっている種族だし、いわば前世の俺の親類みたいな存在を抱くのもどうかとか思ったり思わなかったり。
今の俺には馬鹿の相手はしている暇はない。
視線にその意を力いっぱい込め、親父様に向けると、親父様はようやく俺がどんなに忙しいか分かったらしく、一度ため息をついた後話を始めた。
「実はな、暗黒の月が始まる直前に中央から指令が来たんだよ。どうも、魔族領の深部の方で突然巨大な城が現われたらしくてね……。魔族側で探索隊を結成して城を調べさせたらしいんだが、誰一人戻ってこなかったらしい」
やっと真面目に話を始めた事を確認し、頭の中を切り替えた。
中央ってのは、人間領の国々で結成された連合の事だ。親父様特有の言葉だが、それはあながち間違いではないだろう。
それぞれが独立した国だといっても、その国々の間には国力の差もあれば土地による特色なども存在する。平和な世界を作り上げるのに、国同士で手を取り合い世界規模の組織を結成するというのはそれほど悪い考えではない。
かと言って、全く関係のないルートクレイシアをそうやすやすと巻き込んでほしくはないのだが……
「んー!! んー!!」
「うるさい」
「んぐっ!?」
さっきからうるさい猫耳の鳩尾に拳を叩き込むと、ぐたっとした地陸に背を向け、先を促す。
どうやら、思った以上に面倒くさい――重要な話らしい。
本腰を入れて聞く必要があるだろう。
指令。
親父様は連合からの指令と言った。
ルートクレイシア公国も連合の一部である以上、連合からの指令をそう簡単に無視するわけにはいかないのだ。
もう連合を抜けてもいいんじゃね? と思わないでもないが、シルクが抜けない方がいいとうるさく提言してくるので今の所抜ける予定もない。いざという時人間全体を統率する連合が存在するのは俺にとっても都合がいいし……
ダールンは、突然猫耳を殴った俺に一瞬だけひるんだが、気を取り直したように言葉を続けた。
「ごほん。どうもその城、魔族側の見解では悪魔と関係があるらしい。魔力がどーとか、俺にはよくわからないが、シーン君にはわかるんじゃないか? ってなわけで、人族にも関係があると判断され、人間側でも探索隊を出す事になった」
悪魔と関係のある城ねぇ……
無知なダールンの説明を聞いただけでは俺からは何ともいえないが、魔族は基本的に魔力の流れに関して敏感だ。魔族側が"城は悪魔と関係ある"という結論を出したのなら、おそらく言うとおりなのだろう。
それに対して、人間側でも人員を出すと言うのも分かる。それがどうしてルートクレイシアに繋がるのかわけわかんねえけどな。
正直、悪魔に関してはしばらく放って置くつもりだった。
最低でも、魔界の入り口を見つけるまで。
できれば、Lemegetonの解読に成功し、悪魔を調伏する術を手に入れるまで。
やるべき事は、いくらでもあるのだ。そもそも、人間が悪魔と真っ向に向かい合って勝てるわけがない。
俺一人なら、どんなに高レベルな悪魔が相手でも倒せるだろうが、他の部下達が心もとないのだ。軍を相手にする場合、たった一人の突出した実力者などあまり意味のあるものではない。
そこから考えると……自分の目でその悪魔に関係ある城とやらを覗いてくる事には大きな意味があるだろう。
百聞は一見にしかずという言葉もある。
話の筋からして、ダールンの用というのはどうせまた『探索隊の一員として城を調査して来い』とか、そんな感じの用件だろう。
今回ばかりは、その指令も悪いものではないかもしれない。
しかし――
親父の方を睨みつける。
どうして親父様はこうも息子を巻き込みたがるのかねえ……
これはデジャヴか。
水蓮口に送られる直前の事を思い出した。
確かに俺は天才だ。
そして、悪魔を浄化する術を持つ魔術師。
探索に送る者として、これ以上の者は人材はあるまい。
また、俺はルートクレイシアの嫡子でもある。俺が活躍する事は連合に大きな貸しを作る事に繋がるってわけだ。
それでもって、俺にとっても悪い話ではない、と。
つくづくうまい話である。
誰が書いたシナリオだ?
そんな事を考えていると、
「そこで、俺はシーン君を、正式なルートクレイシアの当主として認め、爵位を譲る事にした」
「……は?」
予想とは大分違う親父様の言葉に、俺の頭は一瞬フリーズした。
俺は現在、ルートクレイシアの当主として公務を行っているが、正式にはまだルートクレイシアの当主ではない。
当主は依然、爵位を持つダールン・ルートクレイシアだ。俺はその息子としてダールン公の代わりに仕事をしているだけ。
そもそも、爵位の相続とはそう簡単に行われるものではないのだ。俺はまだ十五だし、ダールンも四十になったばかり。
慣習では、ダールンが死ぬか、あるいは、老いて公爵としての職務を全うできないとされた時初めてその血族に爵位が受け継がれる。
連合の会議や、他国の君主が執り行うパーティなど、公の場に出るのは名目上ルートクレイシアの当主であるダールン、実際に領内を治めているのがその息子である俺。
爵位などどうでもよかったし、継承されるとしても、ダールンはやたら頑丈だからもっと先だろうとばかり思っていたが……
ていうか、つい今まで話していた内容と繋がらないんですけど……
「実はな、シーン君。シーン君も立派に成長したし、そろそろ爵位を引き継いでもいい頃だと思っていたんだ」
……いや、早過ぎだろ。
大体、遺産とかならまだしも名誉なんていらねーです。実務だけでかなり忙しいのに、なんで会議とか、下らないパーティにまで出席しなくちゃならなくなるんだよ。
「おいおい、そんな嫌そうな顔をしないでくれ。どうせいつか継承するんだ。早い方がいいだろ?」
「早いほうがいいとか悪いとかそんな問題じゃねぇだろ。てめえが死んだら俺がやってやるよ……と、いやまてよ? レアがいるじゃん。義妹に任せよう」
「慣習では、長男が受け継ぐんだ」
「……慣習ぶち壊してる奴が言っていい言葉じゃねーだろ」
あー、視線で人を殺せたらいいのに。
ダールンを睨みつける。
目が本気だった。こいつは本気で俺に爵位を譲り、名実とも俺を君主に仕立て上げようとしている。
どうしてこの親父様は、可愛い息子に嫌がらせをしようとするんだろうか?
いや、この親父様だけではない。魔王だった頃の親父様も然り、だ。
そういや、魔王を譲られた時とこの状況、ちょっと似てるな。
死ねばいいのに。
俺の内心も知らず、ダールンがにこやかな笑みを浮かべる。
はげ頭が灯を反射し眩しい。
存在自体が俺にとってのストレスだった。
黙って爵位を受け継ぐわけにはいかない。
順風満帆な政務と、円滑な国交には切って切れぬ関係がある。
かといって、俺の理想を体現するためには、国交を円滑にするためにすべき他国の貴族との社交にまで気を使っている余裕はない。
対外用のお人形としてこの上なく適当な、ルートクレイシア最強の騎士:ダールン・ルートクレイシア公爵を失うわけにはいかないのだ。
気を取り直して、問いかける。
「大体、どうして今譲ろうと思ったんだ? 探索隊を送らなきゃならないって事と何か関係あるのか?」
俺は、この時の親父様の台詞を生涯忘れないだろう。
間違いなく、生涯忘れられない台詞トップ10にランクインするだろうと予想している。
ダールンはロリコンで禿げで二十五の時に十五の嫁を貰った人間失格な奴だったけど、一応かつて全国に名を轟かせた騎士だった。
そこら辺に、爪の先ほどの尊敬がなかったとも言い切れない。
まさかここまでひどいとは――
ダールン公が俺の問いに、すがすがしいまでの笑顔で答えた。
「悪魔に関係のある城が見つかった。おそらくこれから動乱の時代がやってくるだろう。騎士だった頃の勘がそれを確実にやってくるものだと警鐘を鳴らしている。老齢の俺に、その時代を上手く民を導きながら乗り切る自信はない。だからこそ、若者であるシーン君に全てを託す」
直訳:何か悪魔関係でめんどーな事が起こりそうだから、後は任せたシーン君。
「俺にはもう、公爵としての職務を全うできる力はない。民の生命に関わる事だ、無理やりこの席に座り続けるわけにはいかないだろ?」
直訳:公爵なんてやってられるか。人の命を背負うなんて俺には無理無理。
「シーン君、後は任せた。領民達の命は、すべてシーン君にかかっている。大丈夫、俺の息子だ。君ならなんとかできる!!」
直訳:当主譲ったら後は全てシーン君の責任だから。何起こったって俺は関係ないよー後はYO・RO・SI・KU!!
全て繋げると、
「何か悪魔関係でめんどーな事が起こりそうだから、後は任せたシーン君。公爵なんてやってられるか。人の命を背負うなんて俺には無理無理。当主譲ったら後は全てシーン君の責任だから。何起こったって俺は関係ないよー後はYO・RO・SI・KU!!」
言っている意味を理解した瞬間、脱力した。
怒りよりも脱力感の方が強かった。
何か色々言っているが、簡単に言うと一言でまとめられる。
どうしよう、こいつ。もうだめだ。
プライドもへったくれもないこいつは既に騎士でもなんでもない。ただの禿げだ。
大事な事なのでもう一回言う。
プライドのない禿げはただの禿げだ。
「つまり……面倒だから全て押し付けよーってか?」
「そ、そんな事ないよ!!」
俺の確信をついた言葉に焦る禿げ。
もう、親父様が禿げ以外の何者にも見えなかった。
本当に俺は親類に関して運が悪い。
一番まともなのがソフィアお母様だ。
アンリな妹に、ただの禿げ。
息子を騙して魔王を継承させた元親父に、可愛い弟に闇討ちをかけてきた元兄弟姉妹。
どんなラインナップだと言いたくなって来る。
「言い訳だけは聞いてやるぞ?」
いつ出したのか、俺自身も気づかなかったが、手にはいつの間にかKillingFieldの大鎌が握られていた。
俺の刃が血を吸いたいと騒いでいるぜ。
「ちょ……そ、それは物騒すぎるんじゃないか?」
親父様が一歩後ろに下がる。
さすが、高レベルの騎士だ。この鎌が尋常ではないものだと本能で感づいているらしい。
切りつけるだけで悪魔すら完全に消滅させるからね。
浄化ではなく、魂の破壊という形で、だが。
一歩前へでる。
獲物をいたぶる猫の如く。
鎌が音も抵抗もなく天井に釣り下がるランプを破壊していた。
光量が減り、薄暗くなる独房。
「そ、そうだ。あれだ!!」
何かを思いついたように手を打つ親父様。
鎌を持つ手が止まる。
どんな言い訳をいうか、ちょっとだけ興味があったから――
「公爵はモテるぞ、うっはうはだ。俺が十歳も年下のソフィアを射止める事ができたのがその証拠――「似た台詞、聞いた事あるわああああああああ!!!!!」」
これこそ、成長といえるだろう。
禿げの浅知恵は、俺の長年の経験により破られた。
鎌を振り回した結果、親父様の命がぎりぎり助かったのは、この台詞に惑わされたからではなく、十歳も年上のダールンに落とされたソフィアお母様に対する哀れみによるものである。
明けましておめでとうございます(´▽ `)
昨年はお世話になりました。
どこまで続くかわかりませんが、今年もよろしくお願いしますm(_ _)m
大晦日までに切りよく三十話まで書いてやるとか思っていた作者でしたが、結局忙しくて今話で二十九話。
せめてあけおめだけでも一月一日に言いたかったのにヽ(´Д`;)ノアゥア...
自業自得ですね(*ノ∀`)ペチンッ
おそらく、更新速度がそろそろ一日一話に戻ると思われます。多分……分からないけど。
最近スランプ気味ですがどうぞよしなに




