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黒紫色の理想  作者: 槻影
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第二十七話:崩れ去った王国と俺


 燃え盛る炎。

 無数の瓦礫に埋もれた街道。

 入り組んで建てられた家屋・町並みのあちこちで響き渡る悲鳴が、焦げ臭い匂いのする空気の中を響き渡る。

 

 地べたを奔る座敷犬程度の大きさの狼。

 空を跋扈する人面の怪鳥。

 粘液の滴る身体を重たげに動かす巨大な蛇。

 俺はそれらを全て無視し、一歩一歩測量しながら歩いていた。

 

 

 

 いや、びっくりした。以前呼ばれた異世界に久しぶりに来て見れば国が滅んでいたのだから。

 

 

 

 狼が人間の腕らしきものを咥え眼の前を横切る。

 一瞬視線があったが、こちらに興味を持っているわけではないらしく、すぐに視界の中から消え去った。

 どうやら、俺はこいつらに仲間として認識されているらしい。

 所詮畜生か。

 

 

 恐怖を訴え大きく見開かれた眼孔。

 眼の前で消えていく幾多の命。

 既に国を防衛するための戦力は敗退したのか、街を覆っていたのはただの虐殺の光景だった。

 

 それを見ても何の感慨も沸かない。

 

 まぁ、運命と言う奴だろう。

 盛者必衰とも言うし……

 所詮、異世界人に頼らねば負けてしまう程度の国、いつかこうなって当然だったのだ。

 

 既にこの国は落ちている。

 ゲートを開いて、この世界に降り立ってすぐに城の中を探索したので分かっていた。

 かつて召喚するための魔法陣があった隠し部屋。

 外に出てすぐ眼に入ってきたのは、焔に撒かれたかつて城だった廃墟。

 城の中はあらかた回ったが、生存者はほとんど居なかった。

 謁見の間に落ちていた血まみれの王冠。

 既にこの国の上層部は生きていないだろう。

 

 

 国は滅んだのだ。

 

 

 幸いな事に、俺がこの地を再び訪れた目的を達成するに、国の存亡は関係ない。

 

 地面に無造作に落ちていた、血まみれの中年女の首を見つめる。

 二つの瞳が示すは苦痛と恐怖、怨嗟。

 そこら中に満ちている死臭と、このままでは怨霊になりかねないほどの巨大な恨みの念。

 

 

「死人に口なしって言葉を知らんのかねえ」

 

 

 元々混沌としていた世界。

 魔術なんてものを使わなくても、強い思念だけで現象を起こせかねないほど半端な世界。

 このままでは、この地は強い怨念により、長い年月の間草木も生えぬ不毛の土地になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 ちょっと見てみたいな。

 

 

 

 

 人間の乳児を咥え大空を飛び回る人面鳥を天上に、血臭の混じったお世辞にも新鮮とはいえない空気を大きく吸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十七話【崩れ去った王国と俺】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が再び異世界を訪れる事を決意したのには、理由がある。

 暗黒の月の間に他の地に移動する方法について、ある一つの可能性を模索するためだ。

 つい先日は偶然にもクリアの存在のおかげで、ルナに関しての心配事が解消できたものの、またいつか同じような状況に陥る可能性がないとも限らない。

 その可能性がどれだけ小さかろうと、俺は所有者としてその可能性を潰す必要があった。

 

 

 かつて、異世界を訪れた俺は、それについてある一つの考えがあった。

 異世界と俺が元々居た世界は、重なっているものではないだろうか、という予測により開ける可能性。

 

 例えば、俺の寝室でゲートを開けばかつて呼び出された城の隠し部屋に繋がる。寝室から西に一メートル言ったところでゲートを開けば隠し部屋から一メートル西に行った所に繋がる、というように、異世界と俺の居た世界の座標は一対一で対応しているのではないだろうかという仮定。

 もし仮定が当たっていたら、暗黒の月に所定の場所に移動するのはそう難しい事ではない。

 屋敷から異世界に移動し、異世界で一定の距離を移動した後再びゲートを開き元の世界に戻る。

 距離や方向さえ間違わなければ、ルナの屋敷だろうが、山頂の別荘だろうが、刑務所のど真ん中だろうがどんな場所にでも移動できるという計算になる。

 

 尤も、まだそれは『かもしれない』の域を出ない考えだし、まだ暗黒の月は終わっていないので、外に繋がる可能性を考慮するとむやみやたらとゲートを開き、元の世界に移動して確かめてみるわけにもいかない。

 正直な話、半分くらい暗黒の月の間外に出る事のできなかった鬱憤払いみたいな感情で異世界に来たといえると思う。

 前回呼び出された時は時間がなかったので、碌に観光もできなかったのだ。

 それに、たまには太陽の光を浴びないと気が滅入る。

 

 

 

 

 軽い気持ちで来て見たら、前述したようにそこにあったのは瓦礫と死体の山だった。

 建物を燃やす、空から照り付ける太陽光より遥かに熱く明るい炎。

 真昼間に街が燃えているにも関わらず、悲鳴のみで誰も助けに来る様子のない現状。

 人の流した血は路面を真紅に塗りつぶし、赤くない部分を探すのが大変なくらいだ。

 そこら辺に散らばった人体の部品がいい感じに惨状を示している。

 それを見て思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おら、わくわくしてきたぞ。

 

 

 

 血の匂いを嗅ぐのは久しぶり――いや、こんな大量の血の匂いを嗅ぐのは本当に久しぶりだった。

 いやがおうにもテンションは上がる。

 街中で見かける動く者はそのほとんどが見た事のない異形のモノ。

 肉体はあるようだから、悪魔と言うよりはかつて俺が統率していた魔族に近いモノだろう。状況としては街中にライオンや象やサイやベンガルトラが大量に走り回っているのを想像していただければいい。

 

 前回呼ばれた時、この国の脅威だった魔獣の軍団は俺が完璧に殲滅したから、おそらくこいつ等はまた別の手の者。

 様々な種類の獣――その全てが全て、人間を最優先して襲っている光景から、誰か統率しているものがいると推測される。

 尤も、優先して襲ってると言っても、五体満足な人間などもうこの国に存在しているかどうか怪しいものなのだが……

 

 俺の身長の倍は在ろうかと思われる巨大な獅子が、俺を見つけ首をかしげ、匂いを嗅いでくる。

 強烈な獣の匂い。

 染み付いた人間の血の匂いと、口元からちろちろ見える真っ赤に濡れた牙。

 

「ん? 畜生の分際で俺に逆らうか?」

 

 息が臭い。

 さて、殺るべきか殺らぬべきか。

 今現在ちょっとだけ機嫌がよかったというその事実がでかいライオンを救った。

 迷った数瞬のうちに、匂いを嗅ぐのをやめ、踵を返したのだ。

 その巨体で道を押しつぶしながら新たな獲物を求め、去っていく獅子。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……醜いな。"EndOfTheWorld"」

 

 

 

 空から舞い降りた闇に、一瞬で痛みを感じるまもなくライオンは俺の"救い"を受けた。

 突然現われた空白。

 ライオンがさっきまで歩いていた街道。

 消え去った巨体を思い、一秒だけ黙想する。

 俺の視界に入らなかったら生きていられたのにな。

 悪いのは視界に入った獅子だから罪悪感はないものの、馬鹿な野郎だとしか言いようがない。

 

 足元に擦り寄る数匹の小さな狼が、俺の想いを感じ取ったかのように小さく鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうどよかったので、死んだライオンへの供物にする事にした。

 故人にお供え物をするのは、当然の事。

 ライオンだし、供えるなら肉だろ。

 足を軽く振り回すと、狼は逃げるまもなくただの肉塊になる。

 あの体長からするとこの程度では足りないかもしれないが、まぁその辺は我慢してもらうしかないだろう。供えてもらえただけマシだというものだ。

 

 

 

 

 

 ふと、その時ある迷いが生じた。

 いや、迷いと言うよりは……天啓?

 

 

 

 

 

 

 辺りを見渡す。

 かつて商店だったのであろう、瓦礫の重なる店先。

 そこに崩れ落ちている人骨の足元に、一丁の包丁が落ちているのを見つける。

 しゃがみこみ、それを拾う。半分錆びかけた刃渡り三十センチほどの出刃包丁。

 ちょうど路面を凄いスピードで突進してきた猪の化け物で試し切り。

 魔力で強化された包丁を数度振ると、できあがったのは三枚におろされた猪の化け物だったモノだ。

 この猪の化け物は、ライオンの供物にするために殺した狼達に捧げよう。

 

 

 

 

 

 

 

 ライオンにだけお供え物をするのは果たして贔屓にならないだろうか?

 否、断じて否。それは、憎むべき"不平等"というものだ。

 俺は死んだ者はどんなに生前嫌っていた者であっても、尊重する主義である。

 殺生は好きではないが、死んでいった者達を労うため、という大義名分……ゲフゲフ、理由があれば、神は動物を殺す事も許してくれよう。

 決して殺したいわけじゃない。だが、不幸な事故でなくなったライオンを、狼を、猪を、安らかに眠らせるためなら――

 

 

 

 

 

 

「俺は自分を殺し鬼になるッ!!」

 

 

 

 

 

 む、まさか俺今、凄い格好いい事言ってる?

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事言ってる間も、手は勝手に動き、生命を速やかに解体する。

 鋭い角の生えた豚。小さなナイフを持つ狐。人間ほどの大きさのトカゲ。

 豚は猪に捧げよう。狐は豚に捧げよう。トカゲは狐に捧げよう。

 

 

 威嚇。

 慟哭。

 悲鳴。

 

 

 耳につく獣達の声。

 使うのは魔力で強化しているとは言え、ただの包丁。

 一瞬で殺しきるには力不足だった。

 

 だがしかし――

 

 

 

 

「EndOfTheWorldを使うと肉が残らんのだよ。悪いが生きたまま切り刻まれてくれ」

 

 

 耳元に残る最期の声。

 それが消える前に発生する新たな死。

 連鎖するその憎むべき真実に目頭が潤む。

 

 出来上がった供物の山。

 もうこの辺には獲物はいない。空を翔る人面鳥さえ、全てを落とし切り刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は英雄だった。

 ただ一人の心優しい英雄。

 時代が許さなかったのだ、多分。

 殺しが大嫌いな俺だが――時代が俺を殺しという業から遠ざかる事を許さなかった。

 

 悲哀の物語。

 

 

 

 

 

 

『血まみれの英雄』

 近日公開予定!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の中でぐるぐる回るテロップ。

 

 

「戦争とは悲しいものだな……」

 

 

 自然と口から出る言葉もどこかハードボイルドでシニカルなリリック。

 

 

 さて、あのトラの化け物が安らかに眠れるために新たな供物を捧げなくては……

 身体中を返り血に真っ赤に濡らし、俺は嫌いな殺しをしなければならない現状に一滴の後悔を感じつつも、新たな獲物を求め、移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然頭の上から火の球が降ってきたのは、殺戮――いや、供物を捧げ始めて六時間が過ぎた時の事だった。

 

 それまで殺した動物は三千二百十六匹。殺した人間は十五人。殺した人間が少ないのは、ただ単に生きている人間が少なかったからである。まぁ、人型の獣も相当数いたし、切り刻んだ満足感は変わらない。

 

 ちょうど巨大な黒いウサギと相対している時、それは現われた。

 上空から聞こえた小さな呪文。それと同時に発生した巨大な熱の塊。

 空からの殺気を感じつつ、ウサギを解体。頭の上から迫った真っ赤な炎の塊を、こともなげに包丁で真っ二つにした。

 ちょうどハイテンションだったし、大して手間じゃなかったがウサギの解体を邪魔された事に若干腹がたった。

 

 火の玉が降ってきた方向を見上げる。

 

 

「神聖な儀式を妨げるとは、何奴ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 一応言っておくが、上のは俺の台詞だ。

 

 悲しき英雄の、自虐の混じった、薄汚い――けれど、だからこそ美しい神聖な行為を阻む、空気の読めないものは誰だ!!

 

 魂の叫び。

 

 そして、音にさえなっていないはずの魂の叫びに返って来るしゃがれた――しかし、明らかな人間の言語。

 

 

 

「貴様、よくもここまで殺してくれたなッ!!」

 

 

 

 

 

 

 空に映っていたのは、直径十メートルはあろうかと言う透明な鳥だった。

 しかし、そんな鳥はどうだっていい。ただの珍しい鳥でしかない。

 問題は、その上に立つ人影。

 揺れているはずの鳥の上に、岩のように佇む一体の武士もののふ

 薄汚い罵声を英雄に投げかけるというその疑わしき品性はともかく、悟った。

 

 

 

 これが今回の襲撃の棟梁だと。

 

 ソレが、無駄のない動作で鳥から飛び降りる。

 目算二十メートルほど上空から躊躇なく飛び降りるソレ。

 本来人間なら骨折では済まない高さだが、強靭な筋肉を持つその獣人にはその程度の高さどうという事もないのだろう。

 

 

 重力に従い落ちてくる影を、俺の素晴らしい視力が捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 猫耳の獣人。もちろん女の。

 

 

 俺はそれを見た瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英雄をやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐るべし獣人。猫耳とは……えーい、"這い出る奈落"!!」

 

 血にまみれた包丁を捨てる。茶番は終わりだ。

 俺の影から、無数の触手が現われ、まだ空から落ちている途中な猫耳少女に襲い掛かる。

 少女の猫のような金色の眼が驚愕に歪んだ。

 

 

 

 

「なっ、ひ、卑怯ものッ!! なにを――」

 

 

 

 

 黒のわさわさに包まれ、口を遮られる猫耳。

 

 馬鹿じゃね? 翼もないのに落ちるとか。

 落下途中は身動きも取れないし、隙だらけだってのに。

 

「えっと、"蓬落の城"!!」

 

 

 這い出る奈落だけじゃ心もとなかったので、レアにも使った光の牢の術を使用、光の格子が闇に溺れる猫耳の周りを取り囲むと同時に這い出る奈落を解除した。

 咳き込む猫耳の姿が、ようやく白日の下に現われる。

 ルビーレッドの薄い鎧。

 茶色のショートヘアー、頭の上で揺れる二つの金色の猫の耳。

 

 

 

 

 新たな異世界の神秘を目の当たりにし、俺は涙を流した。

 

 

 

「くっ、き、貴様ッ、わ、罠か!! 下劣で脆弱なニンゲンめッ!! だが、この地陸をなめるなッ!! この程度の術で私を――」

 

 

 うっさいな。感動の瞬間を邪魔してんじゃねーよ。

 

 だが、そんな無礼な行動とは別に、地陸と言う名らしい猫耳少女が一生懸命光の牢を壊そうとしている様子はとても和んだ。

 言葉遣いはともかく、猫耳は最高だ。

 基本だ。基本かつ重要なファクターだ。

 どうして今まで探さなかったか不思議なくらいさ。

 

 

 

 それにしても……地陸? どっかで聞いた事があるような……

 

 

 

 右の革靴を脱ぎ、底を二度叩く。ぱかっと開く靴底。

 俺の苦心の傑作である、裏底靴である。これでも、発案から完成まで一週間ほど掛けた一品だ。作った後に、Pocketがあればいらないじゃんとか気づいたのはご愛嬌である。

 それにこうして使う機会があったのだから、あながち無駄でもなかったって事だろう。

 

 

 

 

「ぐぬぬぬぬっ――な、ば、馬鹿なあああああ!! 何故破れない!?」

 

 無駄な努力をしている猫耳少女を尻目に、俺は慎重に処理を開始する。

 

 

 靴底から一本の注射器と、薬品を取り出し、注射器を薬品に浸し注入。

 くっくっく、ドラゴンの皮膚さえ貫くオリハルコン製の針の注射器なんだぜ。

 無駄に高額な注射器の威力、その身をもって知るがいい。

 注射をうっとり眺め、光の格子に爪を立てている猫娘に宣告した。

 

 

「その蓬落の城を破れるのは、術者である俺と、俺が出る事を許可したものだけだ。もっとも、力技で破れない事はないがね……まぁ、術者の全力にぎりぎり耐えられる程度の牢を作るって術だから……破れないって事はお前は俺よりも弱いって事だ」

 

 

 ちなみに、この全力が意味するのは肉体の力とは限らない。魔術も合わせて全力って事だ。

 肉体だけの力なら、おそらくこの猫耳は俺より高いだろう。肉のつき方が人間とは明らかに違っている。肉弾戦では本来力比べをする相手ではない。

 

 少女は、俺の言葉にムキになって牢を破ろうとしていたが、やがて無理だと悟ると唖然としたように立ち尽くした。

 この無力に打ちひしがれる姿。いい。

 

 

 

「ば、馬鹿な。こ、ニンゲンなんかに、誇り高き魔王天陸の娘である私が、ニンゲンなんかより、弱い、だと!?」

 

 

 その言葉で思い出した。

 あー、あの、一刀も交えるまもなく死んだ可哀想な魔王の娘だったのか。

 なんとなく名前に似た響きがあると思ったんだ……しかし、くっだらねえネーミングセンスだ。

 思い出して損した。

 

 

 

「くっくっく、雑魚め。だが安心しておけ。力はともかく、その容姿は買ってやる。俺は世界の誰よりも優しい。愛玩動物として飼ってやろう」

 

「きっさまああああああああああああああ!!!! ふざけるなああああああ!! ニンゲン如きにこの私が――」

 

「ふん、しつけがなってない猫耳だ」

 

 うるさい猫耳に向かって注射を投擲した。

 まるで何もないかのようにスムーズに光の牢をすり抜ける注射器。

 中からは出れないが外からは入れる矛盾。それが、"蓬落の城"の真髄でもある。

 

 注射針は、狙い通り猫耳の鎧を貫きそのまま腕に刺さった。

 薬液が流れ込むと同時に、激昂が嘘のようにスムーズに意識を失う猫耳。

 

 中に入っていたのは、対になる解毒薬を注射しない限り二度と目覚める事はないという特殊な麻酔薬だ。

 ちょっと心配だったが、獣人にもちゃんと効くらしい。何年も掛けて開発した甲斐があった。

 

 

 

 術を解除し、そのしなやかな首に、ポケットに常備している首輪を嵌める。銀製の首輪だから意識が戻ったら引きちぎられるだろうが、意識を戻すのは四肢を完全に拘束した後だから大して問題はない。

 首輪に紐を通す。飼い主が猫を散歩させるってのは聞いた事ないが、たまにはいいだろう。

 紐をひっぱり、辺りを歩き回る。

 地陸の身体は頑丈だ。たとえ引きずっても傷のつく心配はない。

 

 

 

 

 

「しかし、あの魔王にこんな猫耳の娘が居たなんてなー」

 

 

 鳶が鷹を生むとはこの事か。

 前回来た時に天陸に拷問をかけなかった事を悔やみつつ、俺は新たな掘り出し物を探すため、血生臭い街の探索を再開した。

 

 

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