表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒紫色の理想  作者: 槻影
37/66

第二十六・五話:天才と全てを完成させたメイドの話

誤字脱字誤表現は後日改訂します。

 

 

 鼻歌が聞こえた。

 ダウンテンポの明るい曲。

 今まで聴いた事のない音の調べ。

 

 まるで憑き物が落ちたかのように――さきほどまでの狼狽が微塵も見えぬ上機嫌なシーン様に呆れ果ててモノも言えない。

 

 シルクの一言で考えを変えてしまうとは……私の立場がないような気がします。

 

 椅子の上に浅く腰掛けるシーン様。

 

 その上に嬉しそうに座っているナリアさん。

 ナリアさん本人の身長と同程度の長さほどもある髪を手に取り、さてどんな髪型にしようかと迷っているシーン様。

 なんだかよく分からないけど、もう無茶な真似をしようという気がないようで、私はようやく息をついた。

 

「んー、ここまで長いとちょっと思いつかないな……よもやイマジネーションも枯れ果てたか。ナリア、髪切らないか?」

 

「おに〜ちゃんが切りたいならい〜よ〜」

 

 

 髪に丁寧に手櫛を入れられくすぐったそうに身を捩るナリアさん。

 傍目から見れば、仲の良い兄妹に見えるが、実態は間違いなく違う。

 

 獲物とそれを狙う狼。それが真実を表現するこの上ない比喩だろう。

 

 自称ノーマルであるシーン様は、幼い女の子には手を出さない。

 ……といっても諦めるわけではなく、成長するまで待つと言う事なんですが……

 

 シーン様が、困ったように眉を顰める。

 

 私はそれを眺めながら、タイミングを見計らっていた。

 

 クリア。

 その名前を、私はさっき初めて聞いた。

 それもシーン様の口からではなく、私が来るより以前からシーン様に仕えるシルクの言葉によって。

 

 一応私はシーン様の部下の名前を一通り知っている。

 だが、クリアなんて名前の"所有物"は聞いた事がない。

 別に訊く必要のない事ではある。このまま、聞かなかった振りをして仕えても何の問題もない。

 

 

 

「やっぱり勿体無いよな。しょうがない、ストレートでいいか。弄り様がない」

 

「え〜、ゆってゆって!!」

 

「ストレートも立派な髪形なんだ!!」

 

 

 

 しかし、私は純然たる好奇心から、そのクリアという子について(おそらくシーン様の事だから女の子だろう)知りたかった。

 

 初期組

 シングルナンバー

 

 シーン様が集めた者達の中でも、初めのうちにシーン様の所有物となった者達を指した言葉。

 シーン様の何もかもを知りたいと思って何が悪いでしょうか?

 

 私達は"モノ"なのだ。

 シーン様の"所有物"

 決して裏切らない。

 たとえシーン様が私達を裏切ったとしても――

 文官であるシルクと武官である私とでは、与えられる情報は違う。それは当然だ。理解できる。全ての情報を知っているのはシーン様だけ。

 

 しかし例えそれでも――シルクだけ知っていて私の知らないそのクリアという言葉に、感情から"納得"する事はできないのです。

 おそらくこれは嫉妬なのでしょう。

 私が何度言っても聞いてくれなかったシーン様をたった一言で止めてしまったシルクへの嫉妬。

 もし事前に聞いていたら……私でも止められたかもしれないのに、という――

 

 

 

 

 

 

 

「プロトタイプだ」

 

 

 

 

 

 

 急に掛けられた言葉に、私は一瞬何を言われたのかわからなかった。

 いつの間にかこちらに向けられていた視線。

 真剣な表情――ではなく、今にも笑い出しそうなシーン様の顔。

 

 思考の停止した私の前で、膝に座っていたナリアさんを下ろす。

 

 

「ナリア、クリステルで遊ぼう。連れて来い」

 

「……おね〜ちゃん、へやから出ようとしないの。つれてくるの、たいへんかも……」

 

「んー、さすがに妹の眼の前でってのはまずかったか……俺は凄い楽しかったけど。よし、羞恥心と倫理観が壊れるまで徹底的にやってやろう。ナリアもクリステルで遊びたいだろ?」

 

「ナリアもいっしょにあそびたいけど……」

 

「悪いのはクリステルだけだ。気にする事はない。着眼点は悪くなかった。悪かったのは時間だけだ……多分、五時間程度じゃ少なかったんだ」

 

「あいが、たりなかった?」

 

「その通りだ、ナリア。ナリアは頭がいいな。連れて来れるな?」

 

「そっか……わかった。いってくる!!」

 

 

 よく分からないが、不穏な会話を残し、ナリアさんは出て行った。

 クリステル……確かエルフの一人で、エルフにしてはかなり大人しい人だったような気がする。

 クリステルさん"と"遊ぶ、ではなくクリステルさん"で"遊ぶ?

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 忘れよう。

 

 

 ナリアさんが出て行くのを見て、シーン様は大きくため息をついた。

 テーブルの上に置かれたティーカップを取り、口元に持ってくるシーン様。

 部屋には私とシーン様以外誰も居ない。

 

 訊くなら今だ。

 

 私が勇気を振り絞り訪ねようとした瞬間、シーン様がもう一度先ほどの言葉を繰り返した。

 

 

「プロトタイプだ」

 

 明らかに私に向けられた言葉。

 ティーカップが置かれることりという音がやけに高く響く。

 

「何の話ですか?」

 

 その時シーン様が浮かべた悪戯をする子供のような笑みを忘れることはないだろう。

 その瞳に灯る黒紫色の光。

 

 

「クリアの話だ。聞きたいんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十六・五話【天才と全てを完成させたメイドの話】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェロの顔を見つめる。

 視線を合わせる。

 

 何でわかったの?

 そう言いたげな表情をしているアンジェロ。

 簡単な話だ。

 

「主人公だからだ」

 

「……何がですか?」

 

「私が何故クリアについて訊きたがっているのが分かったの? という質問に対する答え」

 

「――ッ!?」

 

 アンジェロの眉がぴくりと動く。

 俺は眼がいい。一見ポーカーフェイスに見えるアンジェロの微妙な表情の変化を逐一見分けることができる

 朝の失態もあるし、アンジェロがクリアについて知りたがっていることはナリアの髪をいじっている時から分かっていた。

 他者に内心を知られない――無心になる技術を学ぶことは、文官にとっても武官にとっても重要な事だ。

 アンジェロのポーカーフェイスは及第点ではあるが、完璧ではない。俺ほどの人間になるといくらでも見分けがつく。

 隠そうとしていなかったのかもしれないが、それはともかく――

 

 完璧なポーカーフェイスを持つ女を俺は一人しか知らない。

 クリア

 ファーストネームでもセカンドネームでもなく、ただ"クリア"という名前――記号が意味する"完璧な少女"

 彼女にとっての幸運であり、俺自身にとって成功しすぎて失敗したという悲しい過去である。

 あまり話して楽しい事ではないが、絶対話したくないというほどの事でもない。

 今までアンジェロがクリアの事を知らなかったという事自体、ついさっき気づいたのだ。

 それほど長い話でもない。

 クリステルを引っ張ってくる前までに終わるだろう。

 

 一度咳払いし、基本情報から述べる。

 

「クリア、本名はイシェック・クライベルン。現在十五歳。女。A型。三年前の当時LV639――」

 

「!? 現在十五歳って事は、三年前……十二歳の頃既に600を超えてたんですか!?」

 

 

 目を見開き驚きを示すアンジェロ。

 アンジェロのLVは570だ。私兵として俺に鍛えられた彼女を僅か十二歳で超えていた子がいたなんて事実を聞いたら――それは驚くだろう。

 だが――

 

「そうだ。続けるぞ。IQが200で容姿端麗、魔術も第三位までなら全て自由自在に使える。俺に忠実でおそらく俺が死ねと命令したら黙って舌を噛み切って死ぬだろう。家事も得意で、特に料理を作るのが上手かった……」

 

 こうして他者の視点から冷静に考えても、クリアに弱点は見つからない。

 クリアは間違いなく天才だった。ソロモンみたいに魔術の天才とか、ある一分野の天才ではなく、全てにおいて。

 ある意味俺に一番近いかもしれない。スペックだけ見れば、の話だが。

 

 

「私とそのクリアさんが戦ったらどちらが勝つと思いますか?」

 

「アンジェロはどうやっても勝てないな。クリアは魔術が使えるんだ。近接戦闘だけでも勝てるとは思えないが……」

 

 ちらちら明滅するランプ。

 

 オレンジ色の灯に幻視する。

 燃えるような真っ赤な髪。

 見た目とは相反する常に冷静沈着だったクリアの姿を。

 無表情な瞳が俺を責めるように見つめている。

 

 

「プロトタイプ・クリア。クリアの名前は俺がつけた。アンジェロやシルクを手に入れる前まで――俺にたった一人仕えていた従者だ。クリアの意味は"全てを終わらせた" つまり――」

 

 

 

 

 情熱を持て余す、とでも言えばいいのだろうか?

 クリアに関しては俺が完全に悪かった。

 いや、悪かった、というより良すぎたのか。

 クリアになった少女の人間としての素体が――

 目的に対して真っ直ぐに進む強靭な俺の精神が――

 

 

 アンジェロが静かに俺の言葉を待っている。

 真っ直ぐな瞳に見え隠れする緊張。

 感情の揺らぎが見えるというのは、弱点でもあるがそれ以上にその光景は一種の魅力ともいえる。

 

 

 

「クリアと言うのは、俺が自らの"所有物"を鍛えるために組んだカリキュラムを完璧に終わらせた少女の事さ。アンジェロやシルクが受けたカリキュラムは、クリアが――元イシェックだった少女が、俺が初めて組んだカリキュラムを受けて、その結果を元に作り出した、いわばβ版だ。その前に存在していた初期カリキュラム――α版のカリキュラムを完遂、クリアしたからこそイシェックに与えられた名前は"クリア"。この意味が分かるか?」

 

 

 

 イシェック・クライベルン

 

 ダールン公の妹の嫁ぎ先――クライベルンの名を冠する貴族の家に生まれた三女。

 血筋的には従姉妹になるだろう。

 事実、初めはただの従姉妹だった。別に引き取ったのに理由はない。

 あえて言うならなんとなく、だろうか。

 別に、美人だったわけでもないし、頭がよかったわけでもない。器量も良くも悪くもないというただの平凡な貴族の娘。

 クライベルン家の弱みを握ったのでそれをチラつかせ手に入れた、ただの余りモノ。

 

 それがまさか数年で天才に化けるなんて――いくら俺でも予測できる事とできない事がある。

 

 

 

 

 クライベルン家には当時三人の娘が居た。

 名前は覚えていないが、年だけは覚えている。

 上から十二歳、十歳、八歳。

 十二歳の子は、確か金髪碧眼でフランス人形のような整った顔をした子だった。

 十歳の子は、確か茶髪で薄緑色の眼、上とは違い、綺麗と言うより可愛らしい顔立ちをした娘だった。

 んで八歳だったイシェックが、真っ赤な髪と真っ赤な眼、そしてカラーに相応しくないおどおどとした表情が印象的だった娘。

 

 イシェックというのは、ある遠い国の言語で"失敗"を意味する言葉だ。

 わざとつけたのか、それともただの偶然か、並んだ三人を見て上手い事言うなあと感心した記憶がある。

 

 三人の内、次女だけが妾の娘で上と下が本妻の娘。

 

 

 

 

 

 

 握った弱みは、知られたらクライベルン家全員が晒し首になりかねないほど巨大な罪。

 クライベルン家が当時研究していた、感染力が高く致死率九十パーセントという殺人ウイルスについての研究資料もといその証拠。

 何のためにそんなもんを研究していたのかわからないが、知られたら暴動が起きることは必須。起きなくても、他の国から攻め入られる口実になるだろう。どちらにしてもクライベルン家はお終いだ。

 たとえダールンの妹の家でも容赦するつもりはない。

 

 その時のクライベルン家は、首筋に刃物を当てられた――どれでも好きなの持ってってください的な雰囲気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし、一番下を貰おう。そしたら本妻と妾が一人ずつになってバランスいいし』

 

 

 

 

 

 

 

 当時まだ勃つ年じゃなかった八歳の俺にとって、その選択はただ裏をかいただけのものだ。

 だってあれじゃん。妾の子が一人だけなんだからさ、そっち取るのが王道ってもんじゃね?

 三人のうち、誰かがいじめられてるとかそんな事もなかったし……

 何となくフラグとは別の物をとってみた。

 ただそれだけ。

 

 

 

「つまりは、クリアさんって方は、シーン様が実験的に育てた従者だったのですか?」

 

 おっと、浸りすぎていたようだ。

 俺が思い出している間もアンジェロは俺の問いに対する答えを考えていたらしい。

 

 

 アンジェロを見つめる。

 武官のトップ。

 美しい黒髪を持つシングルナンバー。

 人間的で感情に溢れ、適度に忠実な――

 武官用βカリキュラムをクリアした少女を。

 

 答えはNoだ。実験なんかではない。俺は本気だった。

 

「いや、違うな。当時は実験的だとかそんな感情は持ってなかった。本気だったよ。全力を尽くした」

 

 血反吐ぶちまけながらカリキュラムをこなすイシェック。

 まだ初潮すら来ていないガキなのに睡眠時間を削ってαカリキュラムを受ける少女。

 

 

 

 

 なんという悲劇だろうか。

 

 誇張ではなく、血を吐きながら訓練を行うイシェックを見て、俺は気づく事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンジェロ達の受けたβカリキュラムは初め俺が組んだαカリキュラムよりずっと楽なんだ。αカリキュラムの最も難易度の高い過酷な部分を削ってできたのがβカリキュラム」

 

 

 

 

 

 

 

 俺はついうっかりグラングニエル族の肉体を前提にカリキュラムを作っていたのだ。

 人間よりも遥かに強力な肉体を持つグラングニエルを徹底的に育てるためのプログラムを。

 

 

 

 

 

 

「え!? あ、あれで楽なんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 気づいた時には遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、あんなのαに比べれば児戯に等しい。難易度で言わせて貰うと、多分βの五倍くらいあるな(根拠なし)。しかも当時俺は、武官と文官の違いをつける予定がなかった。つまり、文官の物と武官の物両方のカリキュラムを受けた事になる」

 

 

 

 

 

 気づいた時に俺の眼の前に居たのは一人の超人だった。

 血を吐き苦汁を飲み、並の人間なら数百回死んでもおかしくないほどの過酷なカリキュラムを乗り切った天才。

 いつの間にか初めにあったおどおどした表情は消え、まるで無機物のような冷たい雰囲気を表した少女。

 

 いまいちさえなかった目つきは、まるで氷の如きに冷たい瞳に。

 相貌はいつの間にか、まるで地獄から這い上がってきた戦姫のような酷薄ながらも美しい相貌に。

 

 

 

 

 失敗したと思った。

 これは……違う。俺の望んでいた従者とは違う、と。

 何が違うって、感情を全く表さないのだ。

 完璧なポーカーフェイスと言うか、もともと感情を持ち合わせていないロボット――いや、ロボットでさえもっと感情を持っているだろうと考えられるくらい、希薄な意志。

 

 ちなみに、俺がグラングニエルの肉体を前提にしたカリキュラムを組んでいたことに気づいたのは、全てが終わってできあがったクリアを見て、そんな馬鹿なと、一からカリキュラムの内容を確かめた時だった。

 

 

「シルクの事務能力とアンジェロの戦闘能力、ルルの美貌を足して出来たのがクリアだと思えばいい。あの時は後悔した……俺、間違って人間にはとても完遂できないくらい過酷なカリキュラム組んだのに――途中で失敗したって構わなかった。だが、クリアは俺に文句一つ言う事なく全てを完了させたんだ。感情を代償として」

 

 はっきり言って、アホだった。

 ちょっと考えれば分かるじゃん。自分が今やってる訓練が人間には出来ないものだってさ。どんだけだよ。

 

 アンジェロに哀愁を漂わせながら説明していると、部屋の外の廊下からナリアの足音が聞こえた。

 そして、その後ろから聞こえる消え去りそうな足音。

 どうやらクリステルを連れてくることに成功したらしい。

 

 声を失っているアンジェロ。

 さて、俺はこれからナリアと遊ばなくちゃならん。説明は終わりだ。

 

 

 出来上がった機械じみた従者。

 ちょうどその頃シルクを手に入れた事もあって、あまりに完璧な従者に居てもらっては困る状況になった。

 はっきり言って、邪魔だ。こんな先達が居ては、シルクががんばりすぎる可能性がある。

 俺がほしいのは人間なのだ。機械じゃない。

 だが、殺すわけにもいかない。俺に忠実な奴だし、βカリキュラムを生み出すきっかけになってくれた恩もある。

 もし感情を取り戻してくれたら、これ以上に優秀なモノもいないし……

 

 

「感情をなくしたまま生きるには、人間の一生は長すぎる。ちょうどルナの家で専属メイドを募集していたんで、推薦したんだ。護衛兼メイドとして。ルナの家で人間の生活を学べば感情の戻る可能性もあるかも、とな」

 

 

 出した命令は

 

 『ルナの家でメイドとして働く事』

 『どんな事があってもルナの命を守る事』

 『何が起ころうと絶対に死ぬな』

 『ルナと自身の純潔を俺以外から守れ』

 

 たとえ何があってもその命令を破ることはないだろう。

 理由は分からないが、何故かクリアは俺に本当に忠実だったから。

 あまりにも忠実すぎて気持ち悪かったくらいだ。

 

 

 

「それで……ドッペルゲンガーが居ても大丈夫だと」

 

「ああ。クリアがいる限り何人とたりともルナを殺せはしない」

 

 

 今の所だが、まず確実にルナの命は安泰だ。

 感情に関してはともかく、俺はクリアを信頼している。

 彼女が居るからには、ドッペルゲンガーが来ても大丈夫。

 クリアはドッペルゲンガーなんぞにやられはしない。歴代の英雄並にレベル高かったし、経験も豊富だ。負ける要素がない。

 

 あの夢は、気のせいだったのだろう。

 もしかしたら、ドッペルゲンガーの危険性を再認識さえるためのフラグだったのかもしれない。

 どちらにせよ、お騒がせな夢だ。

 

「クリアさんを信頼しているのですね……」

 

「んー、少なくともシルクやアンジェロ程度には信頼しているな。おっと、そろそろナリアが戻ってくる。悪いがアンジェロは出てってくれ。クリステルは俺とナリアしか信頼していないもんでな」

 

 全てを信頼する俺。

 俺とナリアしか信頼していないクリステル。

 誰も信頼していない――信頼という言葉を知っているかすらあやふやだったクリア。

 どっちにしろ、全ては終わった事だ。

 俺にとって必要なのは過去ではなく未来である。

 もう二度と人間にαカリキュラムを科すつもりはない。

 感情のなくなる前のクリアもさぞ本望であろう。

 もう二度と犠牲者を出す事はないのだから。

 

 アンジェロは、はぁと一度ため息をつくと、ゆっくりとした動作で出口に向かって歩き始めた。

 純黒の髪。

 ふと思いつき、その背に向かって言葉を掛ける。

 

 

「あ、あと、顔洗うこと。泣きはらした跡がついてるぞ」

 

「ッ!?」

 

 威かされた猫のように、一瞬身をぴんと張るとアンジェロは廊下を逃げるように駆けていった。

 

 

 

 腕にすがり付いてきた時、めちゃくちゃ泣いてたからな……

 

 やはり、感情は残っていた方がいい。

 真っ赤になったり驚いたり泣いたり――

 従者として完璧だったクリアだが、感情という欠落がある以上それは人間ではないのだ。

 ダッチワイフはいらん。

 

 

「おに〜ちゃん、おね〜ちゃんつれてきたよ?」

 

 

 ふわふわと浮きながら入ってくるナリア。

 その後ろを、うつむき加減でついてくるクリステル。

 微かに朱に染まった顔が美しい。

 んー、微妙に泣きそうだが、何とかなるさ。

 

 

 

 

「おかえり、ナリア。よくやった、いい子だ。さて、クリステルで遊ぼうか?」

 

 

 

 

 

PV300000突破しました。

読者の方々に深く感謝申し上げますm(_ _)m

かなり奇天烈な話かと存じますが、これからもよりよい小説を書けるよう努力していく所存なので、どうかこれからもよろしくお願いします(´▽ `)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ